173.光の抵抗 後編
闇の空間から見えているのは、レシスが怒りを露わにしながらサランに突っ込んで行く姿だ。勢いのある彼女に動揺を見せているが、レシスの突進は難なく避けるに違いない。
むしろそれが狙いなのだが、果たしてレシスの突進をどうするつもりなのか。
「ああぁっ!? レシスが突っ込んで行くにぁ!!」
「あのおバカ!! アルジさまがあれほど口を酸っぱくしていたというのに!」
「…………レッテは気にしない。あの娘はレッテよりも堅い」
リウとルールイは慌てた様子を見せているものの、レッテは目の前の人形を黙々と倒すつもりのようだ。
サランは――
「フフフ……回復士の人間ごとき、相手をするまでも無い。そのまま異空間にでも突っ込むがいい……ククク、闇へとな」
「エンジさぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」
気合いの入った声で叫びながら突っ込むレシスだったが、やはりサランは相手にするでもなく簡単にかわしてしまった。かわしたうえ、サランは俺を封じた暗闇空間にレシスを誘おうとしているようだ。
リウたちから見れば何の変哲もない空間に対し、レシスは何も無いそこに向かって突っ込んで行く。
「ククク……人間の女を封じれば、ここに残るのは獣だけ。消すのは容易いものとなる……」
どうやらレシスを暗闇空間に封じ終えれば、残ったリウたちを始末するつもりがあるようだ。そうさせるわけには行かないが、レシスは今どの辺りを駆けているのか。
そう思っていると、周りの人たちが次々と何かに気付いている。
「魔法士様、何かひび割れのような音が聞こえませんか?」「聞こえます、聞こえてきます」といった感じで、ざわざわと騒ぎ出した。
もしかするとこれは上手くいっているのか――
「いたーーーー!! エンジさん、探しましたよおおお!!!」
「レ、レシス! ど、どこから?」
「まっすぐ突進して来たら、壁に穴が開いちゃいまして~そこからです! あれれ? エンジさん。ここにいる人たちはどなたですか? 何だかすごい人数に見えますよ!?」
「……全く、予想以上の動きを見せてくれるね、君は」
本人だけは全く気付いていないが、レシスの全身は眩い光を放ち続けている。この光によって、闇で覆われた空間が徐々に保てなくなりつつあるようだ。
レシスが穴を開けたとされる空間と外との間に歪みが生じている。こうなるとサランが召喚した黒闇もすぐに存在ごと消えるはずだ。その前に住民たち全てを外に逃がす必要がある。
「ほえ?」
首をかしげているレシスはとりあえずそのままにして、住民たちには事前の説明通りに動いてもらうことにした。もっともすでに属性石を投げ終わっている人たちは行動が素早く、外の空間へと急いでいる。
かなりの人数がひしめき合っていたものの、外へと解放された住民たちはあっという間に脱出した。
幸いにしてサランにはばれていないようで、素早く逃げ場所を確保したようだ。
「よし、レシス。君は俺と一緒に脱出だ。外に出たら、リウたちを回復してやってくれ!」
「ええ? ここはどうなるんですか?」
「ここは光の……レシスの抵抗を受けて崩れ去る」
「私の抵抗? 私はエンジさんになら素直に受け入れをですね~」
詳しく話すとまた暴走しそうなので、有無を言わさずレシスを抱き抱えることにした。
「レシス、じっとしてるんだ!」
「と、とうとう!? エンジさんが私を連れて行ってくれるんですね!! 大人しくしますとも!」
軽い彼女を抱えて、暗闇空間から外へと飛び出す。
その直後――
うめき声とともに、黒闇の飛竜がその姿を保てずに崩れ出していたのだ。
「――な、何!? お前は……魔法士!? バカな、どうやって――」




