172.光の抵抗 前編
「にぁぁ〜キリがないにぁ」
「もうへばるのか、ネコ! レッテはまだ行ける」
「わたくしはそろそろ休憩したいですわ……」
サランによって暗闇に閉じ込められていた頃、残されたリウたちの戦いが続いていた。
リウたちが相手をしているのは、町の人たちに見せかけた人形たちだ。闇の存在であるサランからすれば、傀儡を動かすことは容易なことらしい。
これに対しているのは、俺が暗闇に囚われていることを知らずにいるリウ、レッテ。それにルールイとレシスだ。
レシスをのぞく三人は手傷を負うでもなく、ひたすら人形を倒しまくっているだけで、サラン本体には近付くことも出来ていない。
「フフフ……魔法士が連れて来た獣どもには、人形で充分か。絶対防御を失った回復士の女がいたところで、何の役にも立たないとみえる。そろそろ見飽きて来たし、消して差し上げようかしら?」
人形相手に疲弊しているリウたちを眺めながら、不敵に微笑むサラン。
そんな相手に対し、レシスはリウたちに回復を続けながら戸惑いを続けている。どうやら俺が見当たらないことで、動揺を隠せないようだ。
「私のエンジさんはどこへ行ったというんですか~!? 隠れてないで出てきてくださーい!」
光で暗闇空間を明るいものとした俺は、町の人たちを待機させ、かねての予定通りに事を起こすことにした。
その行動は光を放つ彼女に石をぶつけることにある。当の本人は、まさか自分自身が眩い光に包まれていることに気づいてもいないはずだ。
そんな光を放ちまくりのレシスに対し、俺は闇にまみれ何も付与されていない属性石を、暗闇空間から投げつけた。
「――あいたぁっ!?」
どうやら上手く命中出来たようだ。これには大きな狙いと賭けがあった。
ここにいる人たちには事前に説明していたが、俺一人だけならすぐにでも空間から出ることが出来る。
しかし町の人たちは、サランによって全員が暗闇に閉ざされた。――ということは、光を付与した属性石を持たせただけでは全ての人が確実に外に出られる保証は無いことを意味する。
暗闇空間を崩して確実に出るには、外からの衝撃が必要だ。その衝撃とはもちろん、光を持つ者がこれに気付いて空間を崩すこと。
しかしそれには、外にいるレシスに気付いてもらわなければならない。そうするととてもじゃないが、俺一人が属性石を投げただけでは気づかれない恐れがある。
案の定だがレシスは挙動不審になっただけで、こちらからの呼びかけに気付いてもいない。
「すみません、俺に続いて皆さんもあの女の子にお渡しした属性石をぶつけて下さい!」
いくつかの属性石を持たせ、投げに自信のありそうな人たちにも投げてもらうことをお願いした。そうすれば鈍いレシスでも、どこからか飛んで来ている石に怒りをぶつけて来るに違いない。
ぶつかって来てもらわなければ困る。
「いたあぁいっっ!!! もう! さっきから何ですか~!?」
(よし、かなり怒っている。後は、そのどこかに向かって体当たりしてくれれば)
――そう思っていると、レシスは全然予想外の方に向かって駆け出した。
その相手はまさかの――
「さっきから何なんですか! いい加減にして下さい!! それにエンジさんはどこなんですかああぁ~!?」
「――! 何っ? 回復士の女が突っ込んで来るだと!?」




