171.サランの誤算
町の人たちそれぞれが手にして投げた属性石によって空間に光を与えることが出来た。後は機会を窺って、外に飛び出すだけになる。
「ところで、皆さんはどうしてそんなに属性石を持っていたんですか?」
いくら商人が多く集う町でも、住人すべてが石を手にすることは簡単じゃない。何も属性が含まれていなかったとはいえ、属性石は鍛冶師に知り合いでもいなければ手にすることが難しいはず。
俺の言葉に対し、光で照らされている彼らからは意外な言葉が飛び出した。
「それがですね、町には元々存在しない石だったのですが、ある時を境に溢れるようになったんです」
「やはりあの時からだよ!」
「そうだ、そうだ!」
彼らの多くが顔を見合わせて、頷きを見せている。
元々無かった物が溢れるようになるということはもしかして――
「もしかして、サランという女が関係を?」
名前を出した途端、多くの人たちから笑顔が消えた。つまり、そういうことらしい。
俺の片腕を奪った時、サランはゲレイド新国に来いと言っていた。あの時から光の属性石を探し回り、あらゆる場所から石を集めて調子良く町の人間たちに配っていたように思える。
恐らく光の属性石は残念なことに、属性獣を倒しても原石を手に入れることが出来なかった。仕方なく宝石をかき集め、鉱石の町アルファスにも手を回した。
しかし思った以上の属性石は、手に入れることが叶わなかった。つまりそれこそがサランの誤算だったに違いない。
手に入れられなかった光の属性石を持っていても仕方が無く、属性を石から抜いて住人達に配っていた可能性が高い。下手に属性が含まれていれば、反抗される恐れを抱いたのだろう。
「わたしたちにはあの女がいい人には見えませんでした。そして今、こんな状況です。魔法士様! どうかゲレイド新国ひいては、ブリグの町の為にもどうか!!」
余った属性石を手にして、彼らは俺に頭を下げている。
こうなれば後はサランという存在を消し去るだけになるし、やるだけだ。
外の状況が分からないままだが、リウたちが倒されては元も子もない。
光を頼りに、同じ光を持つあの子に伝えるしか無いだろう。
「分かりました。それでは、皆さん。俺は今から余った属性石にもう一度光を与えます。その光を外にいる者にぶつけ、相手が気付き次第行動に移ります!」
これはある意味、大それた賭けになる。
いくら防御魔法をかけても、闇の存在であるサランには長く持ちそうにないからだ。
「皆さんは外に出られた時点で、すぐに身を隠して下さい。そこからサランによそ見をさせる隙を与えずに、とどめを刺します。ですので、どうかすぐに俺から離れて下さい!」
出来れば町の人たちには怪我を負わせたくない。もちろん全員が同じ場所に出られるとは限らないが、これには彼らの協力が必要不可欠となる。
「分かりました、魔法士様!」
「言うとおりに致します」
小さな子供も見える中、彼らは賛同してくれた。
後は彼女に気付いてもらうだけだ。
(頼むよ、レシス――!)




