170.失わない力 3
「黒闇の飛竜の腹の中か……」
上手いこと飛竜に喰われた俺は、状態異常にならないようにして腹の中らしき暗闇を進む。
ここには外で感じていたとおり、人間たちの呼吸を感じる。
息を感じるということは、サランによって闇に取り込まれた人たちがまだ生存しているということだ。
ひたすらに暗闇空間を手探るだけだが、気配は何となく感じられる。
そこがどういう環境なのかは不明なのでその場にしゃがみ込んだり、灯りの魔法を放ってみた。
すると、足下から何かの塊が落ちていることに気付く。
動きを見せない時点で、魔物では無いことが分かる。
「……これは、宝石!?」
あくまで手触りだけで判断しているが、何度も触れたことのある感触は忘れもしない。
触れることが出来ているだけでも数十個は落ちている。
――いくつか宝石に触れていたその時。
姿こそ見えないものの、どこからともなく石が飛んで来ていることに気付いた。
勢いはなく、探る感じで投げられている感じだ。
まさか――
「誰か、誰か……!! 僕たちはここにいます! どうか、どうか気付いて」
これは気のせいなんかじゃない。
町から消えた人間たちの必死な声で間違いないはずだ。
「明かりを灯せ、【ライト】!」
どんな暗闇空間であっても、光の魔法効果はかき消されない。
光をお供に、声と呼吸を感じながらそこに向けて歩く。
「あ、あああああぁぁ!! た、助けだ、助けが来てくれた!」
「光の魔法……魔法士様が気付いてくれたのね!」
「良かった、良かった~これで、これで……」
全体を照らしたわけでは無いので、どれくらいの人たちがいるのかまでは分からない。
しかし複数の人たちの声が次々と聞こえて来る。
命を失わず、どれくらい長く閉じ込められていたのか。
怪我の程度までは確かめられそうに無いが、生気は失われていないように思える。
「俺はエンジ・フェンダーと言います。ログナから来た魔法士です。怪我をされている方はいますか?」
一定の範囲だけになるものの、光魔法の効果を上げて町の人たちらしき姿を把握することが出来た。
見えている限りでは、重傷度は低そうだが。
「今はまだ……でも竜がいつ悪さをするか……」
「せめて属性石が使えれば……」
見えている人たちから聞こえて来たのは、属性石という言葉だ。
もしかして、途中で触れた宝石がそうだったのか。
そういうことなら使えそうだ。
「もしかして手元に属性石をお持ちですか?」
属性石には込められている魔法次第では、攻撃はもちろん回復としても使える。
しかし何も込められていなければ、それは中身の無い宝石だ。
ここにいる人たちは町の人たち。
サランが見せていた"人形"が露店をしていたが、ゲレイド新国では属性石を売っていた可能性がある。
これを信じて、魔法を使うしかない。
「私持ってるわ!」
「俺もだ」
「――魔法士様、ここには新国の商人が揃っています。当然ながら、空っぽの属性石を手にしておりまして……必要とあらば、みんなの属性石を集めますが……」
商人たちの属性石を使って、ここを貫く。
これは使えそうだ。
途中で落ちていた何個の属性石は、外にいるあの娘に向ける為に取っておこう。
「それではみなさん、属性石を手の平に置いたままじっとしててください!!」
「わ、分かりました」
ぽつぽつと声が聞こえて来る。
町の人たちの姿ははっきり見えていないものの、いうことを聞いてくれているとすれば今しか無い。
「では行きます! 【キュアライト】!」
暗闇空間の奥の方までいる人たちの分もあるが、その全てに賭け、光の全体魔法を発動させた。
効果は属性石を持つ者の体力を微量に回復させることだ。
それだけでなく、石を持つ人たち自身がやれることも含ませた。
これを使えば、この終わりのない暗闇空間から出られる。
そのついでに間接的に、サランの精神を崩すことが出来るはず。
「では次に、その属性石を握りしめてどこでもいいので、思いきり投げて下さい! そうすれば、この空間はすぐにでも変化をもたらすはずです!!」
ほぼすべての人たちが手にした属性石が、光を出している。
光を伴った属性石を投げれば、たちまち暗闇空間となってしまう。
だがその時には、間違いなく自然の光を浴びているだろう。
そして、辺りから一斉に、光の属性石が投げられた。
少しして、立っていた空間から雷鳴に似た轟音が響き始める。
これで出た時が問題ではあるが、外の時間の流れまでは出てみないと不明だ。
しかしこれでどこかに出られるはず。
「――【トルタル】!」
属性石を通じた防御魔法も付与させた。後は、その時が訪れるのを待つだけだ。




