168.失わない力 1
ルールイとともに地上へ降り立つと、すでにリウたちはサランの"人形"たちと交戦していた。
本当の人間たちじゃないことに心が軽くなりつつも、僅かな希望に向けてサランを倒さなければならない。
ゲレイド新国を空から眺めて分かったのは、どうやら手前の町であるブリグに関しては確かに存在していることが分かった。しかし新国の中心部とされるこの場所からは、深い霧のような結界が巡らされている。
恐らくサランは俺たちをここへおびき出し、住民たちと同様な目に遭わせるつもりがあったに違いない。
だが――
「あれらが魔法士の仲間か?」
「そうだ」
「クックック、獣二匹とコウモリと……不運な女か。力無き男に従うとは、可哀想にな」
「力が無いというのは、この腕のことを言っているのか?」
闇の存在であるサランは、ガ・クオン寺院で俺の腕を奪った。その時点で、力の大半を失わせたと確信している。
「その腕はまがい物に過ぎない。魔法士程度が作り出す腕では、所詮半端な力しか生み出せないのだからな!!」
話を聞いている限りでの判断になるが、どうやら全てをコピー出来るという力は知らないようだ。
確かに魔法の力を使えば腕を作り出すことは容易ではあるのだが、闇の存在といえども全てを見通すことは出来ないとみえる。
もっとも、俺の国には妖精であるザーリンがいたり、フェンリルもいて腕くらい作り出せそうではあるが――
「……人形の相手は彼女たちだけで十分だ。そしてお前は、俺の力だけで事足りる! 半端な力かどうか、よく味わってもらう!」
「ククク、魔法士のあがきか。知れたことだ。いつでも、どこからでも……オレに喰らわせてみろ!!」
そう言うとサランは、漆黒の黒衣をひるがえし、薄暗い闇を辺り一帯に展開した。この戦いにおいて、リウたちによる邪魔をさせないつもりがあるのだろう。
風はとうに止み、対峙する俺とサランの呼吸と僅かに動かす足音しか聞こえて来ない。サランは女の顔で微笑を浮かべながら、余裕めいた空気を作り出している。
「――全てを凍てつけ、【アブソリュート・ゼロ】!!」
一帯に展開されていた闇に関係無く、サランの遥か頭上に絶対零度の氷塊を顕現。闇に対し氷属性は致命的なダメージを負わせるものではないが、手並みを見せておくにとどめた。
黒霧に覆われていたサランは、避けるでもなくその場から動かずにいる。俺の力の程度を見計らってのことだろうが――
「やはりこんなものか……勇者よりマシな程度の……!?」
溶けることのない氷塊が、サランの全身に重く突き刺さる。薄暗い黒霧は霧散を見せ、次第に周りの光景を露わにさせた。
「大したことじゃない。この程度の氷属性はダメージにもならないはずだ。そうだろう、サラン?」
「忌々しい男め……! オレに子供騙しの魔法を使って、獣たちの姿を露わにするとはな! 黒の霧は何度でも戻り、永遠に闇を求める。魔法士ごときが何度あがこうとな!」
そう言いながらも、威力の無い氷属性に意表を突かれた表情を見せてくれた。出だしの魅せ方としては、まあまあなところだろう。
「あがくつもりは無いが、とりあえずこの霧は晴らさせてもらう! 来たれ、【ティアマト】!!」
黒霧は闇の存在であるサランにとって、無限の回復薬のようなもの。それを展開させておけば、いくらこちらに余力があったとしても、終わることのない戦いしか残らない。
その意味でも、圧倒的な力を有する召喚獣にやってもらうのが最適だ。
ティアマトは人間はもちろん、空を制する魔物をも上回るほどの巨躯で顕現することが出来る。
たとえ永遠に展開される黒霧だろうと、こいつにかかれば全てを失わせることが可能だ。
「ちっ――召喚魔法か!?」




