163.邪心の復讐者サラン・ミオート
目深に隠された顔はよく見えないが、この女から感じられるのは憎悪の気配によるものだ。
外見も話し方も、隠すことなく接触して来た。
それだけに確証は持っていなかったが、"腕"のことを話すというそれだけで、すぐに分かった。
ゲレイド新国。ここがその国ということで間違い無さそうだ。
「……いいや、俺が忘れるわけない。妖艶な外見で誘ったところで、殺気と憎悪は隠しようが無いからな! そうだろう? タルブックのサラン・ミオート……」
タルブック湖上都市で遭遇した魔法兵の女が、勇者ラフナンをたぶらかし、レシスの命をも狙った。
全ては光の属性石が狙われ、世界を支配する目論みから因縁が始まっている。
「やはり気付いた上で会いに来たのだろう? 魔法士……」
大森林の辺りから、何となくの予感はあった。
元々目指していたとはいえ、まさかこうも素直に姿をさらけ出して来るとは驚きだ。
ゲレイド新国という得体の知れない国も、わざと俺たちを誘っていた気がした。
それに導かれながらたどり着いたとはいえ、こうも存在を見せつけるとは。
「白々しいことを言う。魔物の大群も、町の賑やかさもお前の仕業なんだろ?」
「ククッ、いつまでも遠き国で待つほど優しくは無いのでね……親切にも導いてやったのさ」
「……何故お前は、そこまで俺に執着する? 光の属性石も力も全て手に入れているはず――」
「以前も言ったはずだ。オレは、世界を書き換えてやると! 支配するに、貴様のように正義ぶった魔法士は邪魔だ!! ここで魔法士を殺し、オレは全てを支配する。クククククク……」
少なくとも、タルブックで出会った時はまだここまで邪心に満ち溢れてはいなかった。
しかし光の属性石の悪い力を手に入れ、ラフナンの力と俺の力、そして世界の力に触れて来たことで、人間以上の力を求め続けてしまった可能性がある。
力を求め過ぎた者の末路ともいうべき姿なのだろう。
「……そういうことなら、俺はお前をここで止めなければならない。別に正義だとかそういうことに関係無くだ」
「ククク……ここには長槍使いも、魔獣もいる。魔法士ごときが、オレを止める? ククッ、やれるものならやってみるがいい!」
ルールイは恐らく、リウたちを呼び戻しているはず。
彼女たちの戦力を駆使して、サラン以外の敵を全部掃討してもらわなければならない。
リウたちが現れた時点で、一斉に襲い掛かるのは目に見えている。
そうなる前に、まずはここに見えている魔法兵と長槍使いを何とかする必要がありそうだ。
「ただの魔法士と思われても困るな。まぁいい。自由に攻撃をさせてもらう!」
「たった一人で愚かな男め!」
唐突な戦闘となりそうだが、まずは雑魚を一掃することにする。




