162.憎悪の魔法兵
空を飛ぶことを得意としているルールイに助けられ、上空に浮いた状態だ。
しかし彼女に負担がかかっている最中に、地上から槍が向けられた。
魔法では無く矛のついた槍を空で素早く避けるのは、非常に厳しい。
ここでの最善策は翼のあるルールイから離れ、自分自身の魔法で浮かび上がることだ。
それにただの長槍ではなく、僅かながら魔力が込められている。
そう考えると、槍を投げて来たのは手練れの魔法騎士に違いない。
「ルールイ! 俺の手を離していいから!」
「わ、分かりましたわ」
体重による重さ負担から解放されたことで、彼女は槍が届きそうにない上空に離れて行く。
地上からの追撃が無かったことで、ひとまずの難を逃れた形か。
一方の俺は、風魔法を使用して自分自身だけを空に浮かせている。
魔力の消費は微々たるものではあるが、長く使うことは禁物だ。
上空から露店、露店から奥に見える通りを眺めると、かなりの人間が空を見上げている。
どうやら最大級の警戒を出されたようだ。
外から見えていた景色とはまるで違い、この町は外敵と判断した時点で、相当数のバリケードが展開されるように見える。
(うーん、どうするかな……)
このまま空に浮いたまま時間稼ぎをしたところで、追っ手は易々と警戒をほどかないはず。
しかし、落ち着いて話を聞いてくれるような気配はすでに感じられない。
とりあえず、どこか人がいない空き地にでも降りるしか無さそうだ。
ルールイの気配が近くに無いことを確認し、俺は民家らしき建物の陰に降りた。
(――ここには、誰もいないようだな。それにしても……)
上空にいた時から感じていたが、空一面は薄曇りが占めていて、町全体をすっぽりと厚い雲が覆っている。
何か良くないことでも起きるのか、あるいは気付かなかっただけで元々がそういう環境下なのか。
天候で戦いが有利か不利が決まるわけでは無いが、敵の思惑だとすれば用心する必要がある。
上手いこと家らしき陰にひそむことが出来た。
だが、隠れっぱなしでは動けなくなることは必至だ。
なるべく気配を消して、リウたちの気配が集まっている所に合流しなければ。
リウには事前に、ある程度レシスたちを遊ばせたら戻るように伝えてある。
まずは、その合流地点に向かうことにした。
だが――
「ここだーー!! ここに隠れていたぞ! 捕らえろ!!」
ひと気が無かったのは確かなのに、家の陰から動こうとしたその時、どこからか声が上がった。
まるで空から見張られていたような、そんな感じだ。
曇り空に紛れて何か追跡系の魔法でも仕込まれていたのだろうか。
もはや落ち着いて空を見上げる状況になく、厚い雲に対し目を凝らす暇は無い。
とにかくこの場を離れ、先の方に急ぐ。
「クククククク……復讐の為に訪れた。そういうことだろう? ログナの魔法士……」
町の通りから離れ奥に見えていた広場にたどり着くと、そこに来るのが分かっていたかのように、敵が待ち構えていた。
見たところ、魔法兵のようだ。
だが、俺のことを知っていてわざと待ち構えていたように思える。
「――町から逃げて来ることを分かっていたようだけど、お前は何者だ? 何故こんな真似をする? それに復讐ってのは、どういう意味なんだ?」
灰褐色の防具に身を包んでいる数人の魔法兵は、俺の言葉を聞いても微動だにしない。
魔法兵ではあるが、槍や剣を手にしている。
顔は深いフードで覆われていて良く見えない。
もしかして、長槍を投げて来た奴と同じ奴だろうか。
「覚えていないのか……? そのまがい物の腕で、ようこそ! と言えば思いだすか?」
「何……? 腕?」
「見たところ、魔力はそれほど弱ってもいないようで何よりだ。ククッ、それとも思いだしたくなくて、記憶の中にでも封じているか? ならば、もう一度……貴様の腕を喰らってやる――!」




