161.ブリグの町 3 尋ね者
露店の宝石を眺めつつ気を張っていると、ルールイが肘を当てて注意を促して来た。
店の主人は、さっきまで気前よく話していた。
だがその視線から感じられる気配は、明らかに警戒に変わっている。
そうとはいえルールイの言うとおり、店頭に並べられている宝石にとりあえず触ってみるしかなさそうだ。
「おー! お客人、さすがだね!! さすが盗人なだけあって、目利きがいい……」
「――盗っ!?」
急に雰囲気が変わったが、どういうことなのか。
「我が国には観光で訪れたのかな……? いいや、そうじゃないよなぁ? エンジ・フェンダー……」
「な、何で俺のことを!?」
ルールイの注意はこれのことだった。
来たことも無い町なのに、何故敵視されているのか。
さすがに店から離れなければ。
さっきまで隣にいたルールイは、俺より先にどこかにいなくなっているようだ。
「エンジ・フェンダーだ!! 尋ね者がうちの店にいるぞ! 捕らえろ!!」
「何ぃっ? あいつだ! あいつが、あの方が言っていた標的か!!」
標的……あの方、一体誰のことを言っている。
町に入って来た時点、いや、外からすでに気付かれていたということか。
さすがに露店が建ち並ぶこの場所で、魔法を撃つわけにはいかない。
そう思っていると――
「逃がすかっ! 《ホールド》でも喰らいやがれ!!」
露店の連中が通りに飛び出すと同時に、魔法を放って来た。
動きを封じる弱体魔法という時点で、本気で捕らえに来ている。
しかしホールドはかなり昔にコピー済み。
どんなに発動されたところで、無効化出来る。
「くそっっ、やっぱり効かねえ!! ミオート様の言葉どおりか。おいお前ら! 連続魔法を発動だ!!」
効かないと分かっていて試したようだ。
どうやら俺を狙っているのは、ミオートという名前の者らしい。
――どこかで聞いたことがある気がするが、どこだろうか。
露店の通りから離れ、町の奥へと走っていると上空からルールイが手を伸ばして来た。
「アルジさまっ! お手を!」
「う、うん!」
「ひとまず、空に行きますわよ」
ルールイの手を握ると、彼女はそのままの勢いで上空へと上昇する。
恐らく魔法の射程範囲のことを考えているはず。
「空だ!! 奴は空にいるぞ! 放てーー!!」
「おらぁっ!! 《クレッセント・スピア》!!」
ルールイに掴まりながらなるべく遠くに離れようとしていると、地上から何かが向かって来る。
上空からでも分かるくらいの轟音とともに、長槍のようなものが飛んで来た。
(あれは――魔法騎士か!?)
「アルジさま、もう少しの辛抱で――キャァッ!!」
「ルールイ、避けて!!」
「く、くぅっ……アルジさまっっ、すぐに防御魔法を!」
このままではルールイもろとも落下してしまう。
風魔法で何とかするしかない。




