160.ブリグの町 2
「は、恥ずかしいな……」
「うふふふっ、なるべく自然に……そうしないと警戒されますわよ?」
「いや、それにしたって……」
「アルジさまは、何もせず、堂々とお歩きになっていれば問題ありませんわ」
俺たちはブリグに入った。
外から見えていた以上に、ブリグの街並みはとてつもなく巨大で、行き交う人の多さに驚いた。
どうやら面積で考えれば、大きな国の中の町だということが分かる。
リウたちは近くにはいなく、町に入ってすぐにサーチをかけた。
その結果、それほど遠く離れた所にいるわけでもなく、だだっ広い町の中を自由に歩き回っているだけのようだった。
それでもリウにだけは、心の声を通して自重することを伝えておいた。
(――そういうわけだから、あまり遠くには行かないでおくんだよ?)
(ふんふん、分かったにぅ。すぐにでも戻れるようにしておくにぁ!)
リウの言葉を聞く限り、自由に動いているのは、主にレシスとレッテだけのようだ。
そう考えれば、やはりリウを信じておいて正解だった。
「……よし、と」
他の人には聞こえない心の声は、どういうわけかリウとだけしかやり取りが出来ない。
これは恐らく、俺の成長が彼女に関係した時からだろう。
「アルジさま。宝石の露店が見えますわ! もしかしたら、ここに何かがあるかもしれませんわ」
「宝石か。ここも、アルファスの町みたいに鉱山が豊富なのかな」
「恐らく。ですけれど、そうで無かったとしても何らかの関わりがある気がしますわ」
「……うん」
ルールイの言うようにここは市場通りになっているのか、見渡す限りの露店が並んでいる。
中でも、圧倒的に数が多いのは宝石を並べている店だ。
アルファスの町は、自前の鉱山があった。
しかしこの町を隅々まで調べても、鉱山らしき場所は見当たらない。
そうなると、さらに奥まで進んだ場所に中心となる国があり、そこから供給されている可能性がある。
果たして宝石自体に、属性石がどれくらい含まれているのか。
まずは露店の宝石に近付いてみることにする。
「うふふふ、わたくしは何でもおつけしますわ! おつけ頂ければ、もれなくわたくしのしなやかな翼を存分に――」
「はは……な、何がいいかな」
隣でくねくねとした動きは、さすがに見せていない。
しかしどこか嬉しそうにしているルールイには、日頃のお礼も兼ねて買ってあげたい気がする。
「どうだい、お客人! 綺麗なお連れさんに、アメジストストーンなんてお似合いじゃないかい?」
「アメジスト……雷の?」
「運がいいよ、お客人! その石はただの石じゃない。属性石ってやつで、手にしているだけでびりっとさせられるんだ。そうすれば、お連れさんを痺れさせて――」
「あっいや……そ、それはちょっと……」
随分といきが良くて、押しの強い商売人だ。
(しかしまさか、属性石も売っているとは。属性石にそんな使い方があるなんて)
ルールイは期待した眼差しを俺に送っていたが、そこは気付かないことにしとく。
痺れさせて何をさせようというのか。
「それじゃあ、お客人が望む石は何だい? 可能な限り、取り寄せるよっ!」
そもそも露店で並ぶ宝石もしくは、属性石にそこまで期待をかけられない。
ここはルールイの言っていた様に、無難な対応をしておけばいいはずだ。
「そ、その~、別の露店も似た石を売っているんですか?」
「そりゃあそうさ! ブリグの町は常に、お客人を満足させているからね! どうするんだい? うちの店ならどこよりも安く売っちゃうよ?」
「むむ……」
はっきり言って、宝石どころか属性石も買う必要が無い。
しかし何か適当な石を買わないと、ここを抜け出せないような気もする。
「ルールイ、どれがいい?」
「……アルジさま。どれでもいいので、触れて……それからご準備を」
「――!」




