154.シンヴァルト大森林4 光の道筋
何やらうっとりしながら歩いているレシスだが、それどころじゃない気配をあちこちから感じている。
常に気を張っていなければ、闇に紛れて襲って来そうだ。
ルールイには可能な範囲で上空から見てもらっているが、いい返事は聞けそうにない。
「アルジさま、申し訳ございません。やはり変な靄がかかっていて、どこが境界なのか分かりませんわ……」
「迷いの森……いや、大森林か。しかもここは闇が深い。どうすれば他のエリアに行けるのか」
考えても簡単に答えは出そうに無い。
――そう思っていたが、光に慣れたリウたちが尻尾をぱたぱたと振って嬉しそうに駆け寄って来る。
何か思いつきでもあったのか、少し興奮気味に話しかけて来た。
「にぅ! エンジさま~簡単にぁ」
「レッテも分かってしまったでーす!」
「……うん? 何か分かったのかい?」
二人とも言いたそうにうずうずしているが、何かを気にしているのかすぐに答えようとしない。
視線を泳がせつつ、俺の隣を歩いている彼女のことを凝視しているようだ。
隣にいるのは自分の世界に突入中のレシスだが、もしかしてレシスが何か出来そうなのだろうか。
「エンジさま、少し耳を傾けて欲しいにぁ」
「こ、こうかな?」
リウに耳を傾けると、こそこそと何かを吹き込んで来た。
「――で、レシスを……すればいいにぁ」
「ええっ? そ、それだけで?」
「にぅにぅ!」
レッテも同じ意見らしく、力強く頷いてみせた。
そこまで強化されたとは思えなかったが、リウも俺に負けず劣らずなスキルを持っている。
そうなると、後は実行に移すだけだ。
「ルールイ! 話があるから、俺の元へ来てくれないか!」
上空を旋回しているルールイには、万が一の場合を考えて先回りしてもらう必要がある。
「な、何でしょうか?」
「君は――が、飛んで行った先で、嫌でも受け身を取って欲しい」
「何て大胆なことをされるのかしら! ネコたちの入れ知恵ですのね?」
「うん。多分大丈夫だと思うんだ。だから――」
「アルジさまがそうおっしゃるなら、わたくしは従うまでですわ! 不安を抱えていても、現状は何も変わりありませんもの。やってみるべきですわ!」
これでお膳立ては整った。
後は、彼女を説得――いや、強引にでもやるしかない。
「レシス! 話があるんだ」
「ほえっ? エ、エンジさん……とうとう?」
「何がとうとうなのか分からないけど、君のその手……そろそろ離してくれるかな?」
「離しちゃうんですかぁ? せっかくいい感じになれたんですよ? エンジさんもまんざらでもない感じが見えました! このまま認めちゃっても……」
レシスの一切隠さない好意的な態度は決して嫌じゃないが、今は心を鬼にする。
これが上手く行けばエリアを抜け出せるし、レシスのスキルも向上するはず。
「頼むよ、レシス」
「分かりました……でもその代わり、抱っこして頂けたら~なんて……ほええっ!? え、本当に?」
レシスから手を離し、俺はそのまま彼女の腰に手を置いて抱っこを実行した。
抱っこの姿勢でやるのは中々難しいが、多分上手く行くはずだ。
「レシス。俺を信じて欲しい! だから目をつぶって……姿勢を崩さないで待っててくれ」
「うひゃあ! エンジさんが認めましたね! 分かりました。そこまで言うなら、ゴールまで目を開けないでおきます!!」
「――よし、そのまま大人しくしててくれ」
「ドキドキします……どこへ連れて行ってくれるのか、楽しみです」
レシスを持ち上げて改めて気付くが、ぼんやりとだが全身が光っているのが分かる。
恐らく"絶対防御"のような付加が、彼女についているのではないだろうか。
「リウ、レッテは周りに気を付けながらついて来るんだ!」
「にぅ!」
「はいでーす」
準備は整った。
彼女なら無傷で道を作ってくれるはずだ。
「よし……やるぞ! レシス、俺を信じて待ってて欲しい……」
「どこへでも行きましょう!! さぁ、連れて行って下さいっ!」
「――スゥゥ……ハァー。行けっ、レシスーーーー!!」
抱っこしたままのレシスを限界まで持ち上げ、勢いをつけて思いきりぶん投げた。
光の効力が続いている今ならきっと――。




