152.シンヴァルト大森林2 ダークエリア
「リウ! ここでそんな大声は――!」
てっきりレシスの寝惚けによる甘噛みかと思っていたが、レシスはリウの近くで眠っている。
もしや魔物による襲撃なのでは。
「ヌシさまっ、レッテいくです!!」
「アルジさま、アレは植物系の魔物ですわ!」
「植物系の? ……それなら、早く二人を助けないと」
植物系が何を天敵にしているのか不明だが、レシスを避けているように見える。
そうなると、ネコ族であるリウを狙っての攻撃か。
「フギャァァァ!! こ、このぉっ! 離せにぁぁぁぁ!!」
やはりそうだ。
レシスには一切攻撃を向けていない。
リウやレッテには尻尾があるし、植物系の魔物にとっては捕まえやすい相手なのかも。
「わわわっ!! し、尻尾が絡みつく!? ヌシさまっ、尻尾がー!」
「レッテもか!? 樹液か何かでくっついているのかもしれないな」
獣系には戦いづらい相手のようだ。
しかし彼女たちが捕まっている状態で炎魔法を放つわけにはいかないし、どうするべきなのか。
「アルジさま。わたくし、アルジさまに切り裂きの威力をきちんとした形でお見せしていませんわ。今こそ、わたくしの魅力を存分に見せつけて差し上げる時が――は?」
自信満々のルールイが鋭い爪を見せつけながら、俺に説明を始めた時だった。
全く予想も期待もしていなかった彼女が、魔物に噛みついていたのである。
「ガジガジガジ……うう~ん、味が濃い、濃い目ですねぇぇ」
さっきまでぐっすり眠っていたはずなのに。
何故いきなり噛みついているんだ。
「な、何っ!? レシス!? ――って、寝惚けながら噛みついているのか!」
「あ、あの娘……何て恐ろしいのかしら……しかも、魔物が完全に戦意を喪失しかけていますわ!」
寝惚けたまま魔物を弱らせるとか、レシスは寝ている時の方が強かったりするのだろうか。
――そんなことを言っている場合では無く、まずはこの隙にリウたちを引き剥がさなければならない。
「ルールイはレッテを頼む!」
「かしこまりましたわ!」
レシスの噛みつき攻撃で、魔物は瀕死状態だ。
俺たちはこの隙に、リウとレッテをそれぞれの手で助けることにした。
「にぅぅぅ……危ない所だったにぁ」
「レッテもでーす。相性が良くないでーす……」
ダークエリアとなっているこの辺りには、リウとレッテには厳しそうな敵が多く見える。
そうなると、あえて攻撃を仕掛けるのを避けるかあるいは、辺り一帯を焼き尽くすという手段も考えなければならない。
それは落ち着いてから考えるとして、彼女をどうするべきか。
「…………アルジさま。どうしますか、あの娘」
「ううーん。起きたら起きたで、その方が危ない感じがするんだよなぁ」
「いっそのこと、あの娘ごと燃やしてみては?」
ルールイの言うように、レシスによって弱っている敵を燃やしてしまうのが一番手っ取り早い。
しかし――。
「レシスごとって……彼女には絶対防御が無くなっているし、そういうわけには」
「ですけれど、噛みつきを止めればまた厄介なことになりそうで嫌ですわ」
「せめて魔法防御を彼女だけにかけられれば……」
物理防御に関しての魔法は、いつでも使える状態だ。
だが魔法防御をピンポイントでかけられるような魔法は、コピーしていない。
弱っている魔物から、何かしらコピーしてみてから決める方がいいか。
「アルジさまは、オーグリスから光の何かを抽出したのではなかったかしら?」
「ああ、うん。それが?」
「その光を使って、作り出してみることは出来ませんかしら?」
「……加工するってこと? うーん、それは試してないな。でも、やってみるしかないのか」
オーグリスから抽出したのは、光の属性石の元になりそうな原石だった。
手にしてからまだ何も手を加えていないままだが、そこから何か得られるようならやるべきかもしれない。
「わたくしがあの娘を見張っていますわ! アルジさまは、それで何かを試してくださいませ」
「――分かった。やってみるよ!」
原石に含まれているものが何なのかは不明だ。
しかし急を要する状況の中で、迷ってはいられない。
レシスの助けとなるものが出来るか、もしくは新たな魔法が出来上がるのか、やるしかなさそうだ。




