151.シンヴァルト大森林1 ダークエリア
唯一使える移動魔法を使って、俺たちはルファス鉱山を脱出した。
しかしオーグリスの足に生えていた苔程度で、どこに飛べるのか。
「ぎにぁぁぁ!? 暗いにぁ、怖いにぁ~!!」
「ほえぇぇ!? 何も見えませんよぉぉぉ」
「アルジさまっ、わたくしにお掴まりになって!」
「レッテ、耐えるでーす」
彼女たちは突然の暗闇空間に驚いている。
移動魔法の不安定さが露呈した形だが、果たしてどこにたどり着くか。
◇◇
「噛めば噛むほど……味が~むにゃ」
「ううぅ……痛いにぁかゆいにぁ」
すぐ近くでレシスとリウの声が聞こえる。
レシスは、また寝惚けながらリウの尻尾を噛んでいるのか。
「あぁぁっ! お、おやめになって……いえ、そこではなくもっと別の場所ですわ」
「レッテ、ヌシさまのここが落ち着くでーす……スゥ」
ルールイとレッテの声は間近で聞こえるが、ルールイの反応が怪しい。
レッテのは恐らく、胸の上に感じているモフった感触が答えのはずだ。
そうなるとルールイの反応は、両手から感じる感触のことを言っている。
幸いにして顔周辺には、何も障害となるものを感じない。
しかしさっきから俺の両手は、はね返りのある柔らかい布と硬い骨のようなものを、交互に撫でている気がしている。
まずは落ち着いて、ゆっくりと目を開けよう。
「……あぁ、やっぱり」
想像していた通り、レッテの耳というかレッテそのものが、胸の上でスヤスヤと寝ていた。
そしてリウたちは少し離れた所に見える。
俺の両手はルールイの翼を撫でまくりながら、強制的に胸の辺りに引き寄せられ中だ。
ずっと腕枕をしていたおかげで痺れがあり、腕と手の感覚があまり感じられない。
いいのか悪いのか。
「だーー!! ルールイ、そこまでで!」
「――あら? お目覚めになっていながらわたくしをお許しになるなんて、アルジさまも目覚めてしまったのですね?」
「目は覚めたよ」
「……そういう意味では無いですわ。でも、わたくし久しぶりに満足を得られていますわ!」
妖艶すぎるルールイはあからさまに、くねくねとした動きで悶えている。
それが俺への愛情表現ということは分かっているが、未だに慣れない。
「ところで、ここはどこかの森かな?」
「わたくしも少し上空を飛んでみましたけれど、未知の森……来たことが無い場所だと思いますわ」
「そうか。でも移動魔法は成功したってことかな」
「ですけれど、大きな問題が……」
空を飛べるルールイから感じ取れるのは、見るからに不安を感じさせる表情だ。
「――どういうところが?」
胸の上で眠っているレッテを起こし、ルールイの話を聞くことにした。
レッテはまだ寝ぼけているが、それはいいことにする。
「まず、地形が複雑すぎますわ。明らかに道である所と、そうでない所の境目の見分けがつかないですわ。そして既に嫌な汗が出る程の多湿。これは今まで訪れて来た森とは全く雰囲気が異なりますわね」
ただの森でもなく、異様な雰囲気か。
白狼のルオと出会った森とも違うとなると、別の国にある森に飛んで来たということが考えられる。
「とりあえずサーチしてみるかな」
「その方がよろしいですわ」
《シンヴァルト大森林 ダークエリア・南》
聞いたことの無いエリアだ。
大森林ということは、簡単には出られそうにないほど広いということか。
一瞬だけ見えたのは、属性の名前でエリアが分かれていることだけだ。
今いる場所がダーク……つまり闇が強い場所だとすると、敵もかなり厄介だと想像出来るのだが。
「フギャァーー!? な、何にぁ!! 尻尾が何かに噛まれているにぁ!!」
どうやらリウも目が覚めたようだ。
彼女の尻尾を噛んでいるのはレシスのはずだが、ここで騒ぐのはまずいか。




