150.ルファス鉱山からの脱出!
「ほら、顔中が黒くなっているよ?」
「に、にぅ」
ヒゲを含めてリウの顔には、煤のようなものがたくさんついたままだ。
タオルが無いので、とりあえず手で撫でることにする。
「よしよし、もう少しの辛抱だぞ」
「ふにぁぁ」
リウは目を閉じて、大人しくしてくれている。
「――よし、後でまた拭かないとだけど、取れたかな」
「ありがとにぅ!」
そういえばレシスも顔を黒くしていたが――。
「エンジさんっ!! どうぞ、お使いください!!」
「……はっ? な、なん――」
何の真似なのか、レシスは着ていたローブを脱ごうとしている。
他に彼女の顔を拭くものは確かに無いが、何でローブを脱ぐんだ。
「エンジさんの両手をこれで拭いて下さいっ!! そしたら、そのぅ……」
「あー……」
「大丈夫です! ローブの替えならありますから!! お願いしますです」
レシスはいつも予想外の行動に出て来る。
まさか自分が着ているローブを脱いで、それで俺の手を拭かせるとは。
そこまでして手で顔を撫でられたいのか。
「おほぉぉぉ……エンジさんの手触りが凄すぎて、はほえぇぇ~」
「……」
何だかとても残念な気持ちになるが、彼女にとってみれば幸せなひと時なのだろう。
レシスの煤けた顔を撫でているだけなんだが。
「エンジさん! エンジさんから頂きましたよ!!」
「え、何を?」
「優しさの力ですよ! これで次からは気合い十分な戦いが出来ますっ!!」
「そ、そうか。頑張れ?」
「もちろんですよ!!」
レシスも元気になってくれてよかったと言うべきか。
ふと上を見上げると、ルールイとレッテが呆れた顔を見せている。
レシスの不思議な行動はともかくとして、ようやくルファス鉱山から脱出が出来そうだ。
「アルジさま、そろそろ行かれますか?」
「――そういえば、地上では何か起きているんだったっけ?」
ルールイは、鍛冶師デリオンを地上へ送り届けた。
その際に町の異変を感じていたようだが、そうなるとどうするべきか。
「ええ。キナ臭い人間が企んでいましたわ。普通に脱出するとなれば、無傷というわけには行かない可能性がありますわね」
胡散臭い町長も、さすがにオーグリスが出現したことは把握していないだろう。
オーグリスから"抽出"出来た属性石の原石のことも知らないはずだ。
正攻法で地上に出た所で待ち伏せされているのは、分かり切っている。
それならやることは一つだ。
「エンジさま、どうするのにぁ?」
「レッテが突っ込んでもいいでーす!」
「……いや、成功するかは分からないけど、移動魔法を使って脱出するよ」
「アルジさま、ここには触媒となる植物がいないのでは?」
ルールイの言うように、鉱山というだけあって敵も含めて植物は皆無だ。
しかし可能性を少しだけ見つけた。
それを今から確認してもらう。
「ルールイ、オーグリスの足を見て来てくれないか?」
「足ですか? いいですけれど、一体何が……」
「君じゃないと見れないから、頼むよ」
「そ、そう言われるのもご褒美のような気がしますわ! 今すぐに!」
空を自在に飛べるルールイでなければ、巨躯のオーグリスの足元には近づけない。
倒れ込んだオーグリスは、足の部分が地底の穴に向いている。
確証は無いが、古代の魔物だけあって体の所々に苔のようなものが見えた。
それがあれば、移動魔法の条件としては最適なものとなる。
「にぅ? エンジさま、何があるのにぁ?」
「移動魔法の確率を上げるには、植物に近さが無いと駄目なんだよ」
「ふんふん?」
かなりの巨躯だ。
きちんと確かめるのに時間がかかるかもしれない。
「レシスとレッテ! 俺の所に集まって」
「はいでーす!」
「こ、これからハネムーンですか!?」
「……そんなもんかな」
「ふぉぉぉぉぉ!!」
リウは既に俺の傍に立っているからいいとして。
「アルジさまっ! ごくわずかでしたけれど、ありましたわ!」
「よし! ルールイも俺の傍に」
「かしこまりましたわ!」
どこに飛ぶかは分からない。
それでも取りあえずは、ここを脱出出来ればいい。
「行くよ。移動魔法!」




