15.書記、コピースキルの成長を試みる
「えーと……とにかくよろしく、レシス!」
「はいっ! こちらこそ。あ! 握手ですよね」
よろしくと言いながら手を差し出した。するつもりがあったらしく、レシスもつられて手を出そうとしている。
――しかし。
「にぁっ!」
(あれ? レシスの手って、こんなにモフっとしていただろうか)
何ともヤミツキになりそうな感触。握手にしてはピクピクと動いている。
「にぁん! ふにぁぁん……エンジさま、お優しいのにぁ」
「――って、リウ!? いつの間にその位置に……」
【リウ ネコランクA 素早さS 攻撃B 甘えん坊さん 主人以外を敵視 主人次第で能力上昇】
握手のつもりがまさかのネコ耳。しかしリウのパラメータばかりコピーしても仕方ない。
しかもスキルの共有を果たしたか不明すぎる。
握手をしようとしたレシスも戸惑いのまま手を引っ込めてしまった。
「……フェンダー、人間の女と手を組むつもり?」
「ザーリンはまだ反対?」
「危険を連れて来た。それはフェンダーも理解している」
ラフナンたちが連れて来たのであってレシスが連れて来たわけじゃないが。
ザーリンは納得しないだろう。
「フェアリーは先を見据える。国を築くのに人間の手は借りない」
「及ばないように俺が何とかする」
「……それなら、ネコを手懐けるところから。ネコはすでにその人間を"敵"とみなした」
リウは人懐っこい。いくら何でもレシスを敵と見てないはず。
「フゥーーー!!」
「え? え?」
「わーー待った、待った!」
敵とみなしていた……。これもフェアリーが示す俺への試練なのか。
レシスも戸惑っている。
(そのことを分かっていてリウのことを黙っているなんて、本当に俺のメンターなのか?)
「ま、まぁまぁまぁ……リウ! この人は敵じゃないんだ。俺を助けてくれた人で……」
「違うにぁ! リウが寝ていた岩窟が燃えてしまったにぅ……人間が危険を呼んだに違いないにぁ!」
レシスに対してじゃなかったようだ。しかし人間相手となると……。
「いいんです、本当のことなんですから。わたしが勇者たちと一緒に来たのは紛れも無いことなんです。だけど勇者の元に戻りたくないんです! だから、どうすれば認めてもらえますか?」
真面目で素直な女の子だ。しかしリウも含め、フェアリーであるザーリンには人間の問題は関係が無い。関係が無いのを納得するには、俺が完全にリウを手懐けて支配するしか。
「リウ! おいで! もう一度リウを撫でてあげるよ」
「にぅ」
耳をぴょこんと立てながら、リウは素直に俺の元へと近づいて来た。近くのレシスには目もくれないのが、何とも言えない。
「エンジさまは人間が好きなのかにぁ? リウはエンジさま好き。だけど、人間は敵ですにぁ」
「じゃあこうしよう。レシス……あの子と勝負をして、負けたらレシスを味方として認めるってのはどうかな?」
「エンジさまならともかく、人間に負けるなんて無いにぁ」
「やってみないと分からないよ?」
「ふみゃう……」
手持ち無沙汰なレシスは俺からの言葉を待っている。とりあえず今のことをすぐに伝えてみた。
「――えええっ!? ネコ族とわたしが一騎打ちですかっ!? そ、そんなのムチャですよ!」
一騎打ちは意味が違うけど、気にしないでおこう。
「さっき言っていたことが気になったんだけど、回復士の他にもスキルを持ってる?」
「い、一応あります。ですけど、わたしのスキルは攻撃向けではなく……」
「それをリウに使って、レシスの"力"にしてみてくれないかな?」
俺の考えが正しければ、彼女の力は特殊なものだ。
「ですから、攻撃は……」
「その杖を使うんだよね? それを俺に向けて撃って欲しいんだ。それならどうかな?」
偶然に拾った石にしては特別な気がしてならない。
「エンジさんにですか? 確かに痛みは伴わないですけど、よ、よろしいのですか? この石は特別な力があって、何をもたらすのかなんて想像したこともなく……しかも、この杖はわたしにしか使えなくて」
古代書と同じダンジョンに落ちていた光の宝石の欠片。
それを杖として使っているレシスにも、何かしらの特別なスキルが備わっているはず。
「構わないよ。それでリウもレシスにもいい効果が働けば、いいことが起きそうな予感がするんだ」
レシスに直接触れるのはひとまず置いておく。まずはリウを手懐けつつレシスの杖によって何らかのモノを得る。それが得られれば、コピーのスキルを一段階上げられるかもしれない。
「今からレシスと戦ってもらうよ! だけど彼女は回復士。リウは攻撃を受けることが無い。いいかい? あの杖を振られる前に、彼女から杖を奪うのがリウの攻撃だよ」
「にぁ? 傷はつけてはいけないのかにぁ?」
「そうだよ。さっきも言ったけど、レシスは仲間になる人で味方なんだ。彼女が手にする杖こそが、彼女の唯一の武器。それをリウが奪えば、リウの勝ち。逆に彼女が勝つには、あの杖で俺に何かをして来た時なんだ。もちろん、痛みは無いけどね」
狙いはあの杖の暴走。
いや、レシスが杖を振りまくることにある。
リウの素早さでは、すぐにでも杖を奪ってしまうかもしれない。
それでもあの宝石の力は今までレシスを守って来た。そんなに簡単にはいかない気がする。
リウの奪う力もレシスの持つ杖の前でははじかれてしまうとすれば、リウに勝ち目は無いはず。
そして俺も気安く杖に触れられないだろう。
レシスだけが杖に認められているとすれば、その力を彼女自身の意思でコピーするしか方法は無い。
彼女が振るうセイアッドスタッフの力をコピー、その後に何を得られるのか。




