149.属性石の原石
「ヌシさま、そろそろ地下に着くです! 着地に備えるので、レッテは離れるでーす」
「えっ? 着地?」
あっ――という間に、レッテは俺から離れ、着地の衝撃に備えようとしている。
適度に甘えて自ら離れる辺り、レッテらしいというべきか。
そんな彼女のことを感心する場合では無く、勢いよく降下しているせいですぐにでも地面に到達しそうだ。
上空から地上へは、風魔法を上手く調整しながらゆっくりと降りるというのがいつもの動きだ。
しかし今回は地下への降下速度が速すぎる。
このままだと、衝撃によるダメージを負いそうだ。
そして、地下最奥の地面が見えて来た。
なるようになる。
――ということで、着地衝突に備えた。
「あぁぁっ!? エンジさんっ!!」
「にぁぁ!! エンジさま、危ないにぁ!」
「――ま、間に合いませんわ、アルジさま!!」
レシスとリウ、ルールイの悲痛な声が聞こえて来る。
どうやら風魔法を使う余裕は、残されていなかったようだ。
そして、ドンッッ――!! という鈍い音とともに、衝突をした。
レッテの声は聞こえて来ないが、彼女は上手く着地をしたとみえる。
対する俺は、多少のダメージを覚悟していたが、何かおかしい。
「…………? あれ?」
体への痛みは無く、視界が真っ白な状態になっただけ。
「……ん? リウ! レッテ! レシス、ルールイ!! 聞こえる?」
無音状態で視界は真っ白、彼女たちの声も姿も見当たらない。
もしかして、命を落としてしまったのでは。
もしくは打ち所が悪すぎて、自分を見失ってしまっているのか。
自分の手足は見えているので、その場に膝を付いて手探りで調べてみることにする。
すると――。
《属性石の原石 抽出:オーグリス ”光”へ加工可能》
な、何っ――。
「何だこれ……まさかこの感触は、オーグリスなのか!?」
手探り状態ではあるが、あちこち触れてみた結果、自然と抽出していたらしい。
しかも属性石の原石なんて、このオーグリスはそういう存在だったのか。
「ヌシさまーー!! レッテの声が届いているでーす?」
どうやら命を落としたのではなく、オーグリスの体内に入り込んだ上、石を抽出していたようだ。
真っ白な視界だから何事かと思ってしまったが、レアな魔物の体を使って衝撃を和らげていたらしい。
「聞こえるよ、レッテ!」
「ヌシさま、そこから火の魔法は撃てるですー?」
「もしかして出る方法かな?」
「生命反応の無いオーグリスは、燃やすに限るのでーす」
なるほど。凄い勢いで体内に入り込んでしまった以上、簡単には出られないか。
そうなると燃やすしか手は無い。
「レッテ、そこから離れて!」
「はいでーす!!」
取りたてて派手な魔法は覚えていないが、燃やすだけならあれで十分だ。
「……赤き火の力【ファイアーストーム】を展開!」
諸刃の魔法でもあるが、脱出しないことにはどうにもならない。
火属性範囲だから少し火傷するくらいか。
しばらく経って――。
集中して燃やした箇所に穴が開き、レッテたちの覗き込む顔が見えた。
何故かレシスとリウだけが、顔を焦がして鼻が煤だらけになっているが。
「ふぅっ……心配かけたね」
「レッテは信じていましたでーす!」
「アルジさまのことですから、何かを得られてきたのでしょう?」
「うん、ばっちり。ところで……」
ルールイとレッテは割と冷静なせいか、火の範囲外にいたようだ。
だがこの二人は――。
「にぅぅ……エンジさま、大丈夫にぁ?」
「エンジさぁぁぁあぁぁぁん!!」
どうやら必要以上に心配をかけて、心配されたらしい。
二人は俺に勢いよく抱きついて来て防具を真っ黒にするまで、何度も顔を擦り付けて来た。
「ふにぁぁ、エンジさまが心配だったにぅぅ……」
「エンジさん、エンジさんん~!!」
原石のことは後にして、今は無事だったことを噛みしめておくことにする。




