145.オーグリスとの戦い 1
「ひええええええ……!! エンジさ~ん! エンジさ~ん!?」
これはまずいことになった。レシスを放置していたとはいえ、よりにもよって何でピンポイントで彼女の元に落ちて来るのか。
仕掛けの層にいた巨人族とは、比べ物にならないほどの巨大な体躯をした怪物がものの見事に現れた。
「アルジさま、あれはオーガ……いえ、オーグリスですわ!」
「オーグリス!? あんなにでかいのに? 人よりも少し大きいだけの怪物なんじゃ?」
「もしかしたら、この洞窟の主のような存在なのでは?」
「ううむ……」
見た目は人間に近いが、生気の無い顔なのに目つきはとても鋭くて一瞬で恐ろしさを感じる。
表情が全く読めないから、言葉が通じるような相手じゃないことは確かだ。
いくら洞窟の主だからといっても、他の魔物に比べるとまるで種類が異なる。
変異した存在か、あるいはここの魔物に紛れていたか。
しかも見た目が完全に女性タイプだから、余計に戦いにくそうだ。
「エンジさま、リウがレシスを助けるのにぁ!」
「分かった! 頼むよ、リウ」
「はいにぁ!」
リウの俊敏性なら、図体のでかい相手には気付かれずに動けるはずだ。
これでレシスの方は何とかなるとして、まずはあの怪物の強さをサーチしてみる。
相手の特性や動きが事前に分かれば、戦い方で苦労することは無い。
《エンシェント・オーグリス 強さ不明 洞窟の主 ???》
「エンシェント……ってことは、俺のコピーと似た存在なのか」
「ヌシさま、青い顔してどうしたです~?」
「あぁ、レッテ。キミならアレとどう戦う?」
「ガゥ……やりたくないけど、ネコと連続攻撃で何とかするでーす」
「――なるほど」
女性タイプの怪物に遭遇したことが無いだけに、どう戦えばいいのか。
ここはひとまず彼女たちに先制攻撃をしてもらって、様子を見るしかない。
「ヌシさまっ!! ネコが!」
「うっ!? あっあぁっ!?」
慌てふためくレシスの元に急いで近付いたリウに対し、オーグリスなる怪物が素早い足払いをしている。
リウの素早さを上回る怪物だとは、さすがに予想していなかった。
「アルジさま、わたくしが行きますわ!!」
「頼む、ルールイ!」
「かしこまりましたわ」
レシスに絶対防御があればまだ防げたが、彼女を抱えたままのリウでは防御がままならない。
ここはルールイに任せて、強引にでもこっちに掴んで来てもらう。
「にぁにぁにぁ!? 足も手も邪魔しに来るにぁぁぁ!!」
「――くっ」
このまま見ているわけには行かないが、どうするべきか。
巨躯のオーグリスは、俺とレッテの気配にも勘付いていて、迂闊に動けば被害を広げかねない。
そこにかなりの飛行速度で近づこうとしているのは、ルールイだ。
オーグリスからの足払いや巨大な手の間をすり抜けながら、彼女たちの元に飛び込んでいく。
もしまともに攻撃を受けてしまえば、彼女たちも無傷では済まされない。
「ヌシさま、防御魔法をかけては?」
「し、しかし……」
「不安定な状態では、ヌシさまの攻撃魔法は効かないはずです。早くしないと!!」
「よ、よし、≪トルタル≫!!」
限定的ではあるが、ダメージへの衝撃は和らげられるはず。




