140.鍛冶師デリオンの連携依頼
レシスの意外な姿に俺を始めとして、リウ、ルールイは息を呑みながら成り行きを見守っていた。
もっともリウだけは、レシスの態度に何ら不思議さを感じてはいないようだったが。
そして、数時間後。
◇◇
「ゼーハーゼーハーゼーハー……はほぇぇ~エンジさぁん~」
長いことデリオンに説教をして疲れたのか、レシスがフラフラな状態で俺の元に戻って来た。
単なる言葉責めだけのはずなのに、どうしてそんなに疲労困憊になるのだろうか。
「レ、レシス、もういいのか?」
「はへ? わたし、頑張っちゃいましたよぉぉ~えへへ」
「……よく分からないけど、ゆっくり休んでいいから」
「ではでは、お言葉に甘えまして~……とぉっ!」
「――えっ、あ」
「スヤスヤ……ズピー……」
どういうわけか、レシスは俺の胸元に飛び込んで来た挙句、物凄い勢いで眠ってしまった。
本当に不思議すぎる。魔法も使っていないはずなのに、どうしてこうなった。
こんな姿を見せるにも程があるくらい、レシスは無防備に眠っている。
そしていつもならこんな行動に出たレシスに対し真っ先に詰め寄ってもおかしくなかったが、どうやら彼女たちの刃は、デリオンに向けられているようだ。
「……動かないで頂けますかしら!」
「フゥゥー!! エンジさまを騙したのは許せないにぁ!」
「ガウゥッ! 少しでも動けばどうなるか……分かっているはずだ」
三人の彼女たちの鋭い牙に、デリオンは正座をしたまま青ざめている。
俺としてはそこまで怒っている訳でも無かっただけに、まずは話を聞くことにした。
「ルールイ、リウ、レッテ! 俺が聞くからいいよ!」
「はいにぁ!」
「ウフフッ! お優しいですわね。そのお優しさをわたくしにも……あぁぁっ!」
リウは素直に下がり、ルールイはいつも通りに身悶えている。
だがレッテだけは、怒りをむき出しにしたまま下がろうとしない。
「レッテ? 大丈夫、彼は敵じゃないよ」
「ガウ……分かりましたです」
「うん、ありがとう」
彼女たちの中でもレッテは忠実な狼族ということもあって、敵とみなした人間に気を許すことはしないようだ。
デリオンに対しある程度の警戒は持っていた。
だが、仕掛けの巨人族については不可抗力だったらしい。
「す、すまん! 鉱山の中での鍛冶師ってのは、その辺の冒険者に比べても動けるものだとばかり思っちまった。だがエンジは、その辺の冒険者どころじゃなかったみたいだ……」
思っていた以上に実力に開きがあったようで、デリオンは何度も頭を下げている。
彼が落ち着くのを待って、聞いてみることにした。
◇◇
「なるほど、途中まで尾行されていた訳ですか」
「――あぁ。ところが、巨人族の仕掛けでお前が危なそうになった辺りから、気配が消えたんだ。まぁ、それだけ強欲な女ってことだったと思うしかないが……」
デリオンの話によると、途中まで追手が来ていたところ偶然にも巨人族の仕掛けを発動出来ず、俺たちを危険な目に遭わせることになってしまった。
それが功を奏したようで、追手の気配は完全に消えたということらしい。
初めから女町長の危なさは感じていたものの、まさか尾けられていたなんて。
その気配に関しては後でリウに聞いてみるとして、
「……それで、デリオンの本当の狙いは?」
「鉱石を掘りに来た。そんで、エンジ。お前にそれを削ってもらいたい! その為にギルドにいてもらっていたんだ。削れるくらいにはなってんだろ?」
「い、一応は……」
「何よりだ」
「でも、それだとデリオンには何の儲けもうまみも無いんじゃ……?」
「鍛冶師はいつもそんなもんだ。宝石にした方が儲かるが、あいにくとオレは宝石に削ることが出来ねえ。そこでだ。エンジ! オレと連携してくれねえか?」
何を言い出すかと思えば、連携とは一体どういうことなのだろうか。




