136.ルファス鉱山を探れ 3
『うぉっと! エンジ、そっちに二匹行っちまった。処理頼む』
◇◇
鉱山に入ってしばらくは、魔物の気配を感じない時間が続いた。
鍛冶師であるデリオンが言うには、鉱山が一般的に危険だと知られているのは地下へ下りて行くほど、極端に魔物の強さが変わるからなのだとか。
町の中に存在するルファス鉱山は、地下への階段があり簡単に下りて行くことが出来る。
鍛冶師であるデリオンは、初めは調子良く先導して進んでいた。
だが地下三層目くらいから、俺たちの助けを求めるようになった。
どうやら、ここから魔物の強さが違うらしい。
『分かった! こっちで処理する!』
腕の立つ鍛冶師ということらしいが、複数の魔物相手ではさすがに追い付かないようだ。
「ガウッ! 余裕でーす!」
「にぅ!」
コウモリも数多く見られる鉱山なのだが、こっちにはルールイがいるので全く問題無い。
それ以外に多く生息しているのは、クモやサソリ、さらにはトカゲなど。
これらの相手には、リウとレッテが対応している。
俺とレシスは魔法で援護という役割だが、今のところは援護する必要が無い。
「ほええ……退屈ですねぇ」
「回復士が退屈なのはいいことだ」
「杖で殴りかかることも出来ますよ?」
「それは却下で」
「じゃあ、どうすればいいんですかぁ? エンジさん、命令してくださいよぉ」
「命令って言われても……」
以前のレシスなら、彼女の固有スキルである絶対防御で敵に突っ込むことも出来た。
しかし今はそのスキルが無く、至って普通の回復士となっている。
彼女が手にしている杖も、光の加護を持たないただの杖。
本来はパーティーの後方で待機しているのが当たり前なのだが、誰よりも前に出ていたレシスにとっては、退屈な時間のようだ。
「レシスは……黙って俺の傍にいてくれればいいよ」
「ほえっ!? そ、それはもしかして……プロポ――」
「魔法を使う者同士だから、固まっていた方がいい」
「何でわたしのことをスルーするんですかぁぁl!」
「いや、聞いているよ? 君こそ俺の話を聞いてた?」
「傍にずっといてくれ! ですよね?」
「……それで合ってる」
普段からレシスを傍に置くことが無いだけに、これは結構厳しい状況かもしれない。
「エンジさま、ここの敵は全部いなくなったにぁ!」
「ヌシさま、ご無事ですかー?」
「俺は全然平気だよ」
まだ三層程度の敵では、全く相手にならない。
そもそもどこまで下層に下りて行くつもりがあるのか。
俺たちがいる辺りは、すでにデリオンの声は聞こえて来ない。
すでに気にしないで先へ進んでいるとしたら、随分と勝手すぎる。
そう思っていると、ルールイが俺たちを急かすように呼びに来た。
「アルジさま! お急ぎくださいませ! あの者が、この下の魔物に手こずっているみたいですわ」
「四層目で? どんな魔物?」
「岩男ですわ!」
「い、岩!?」
「――ではなくて、岩のように硬い巨人族が道を塞いでおりますの!」
「よし、ルールイは先に行って! 俺たちも急ぐよ」
「分かりましたわ!」
ここには光の属性石を含めた、鉱石を求めに来ている。
デリオンの狙いがそれだけなのかは分からないけど、光の属性石が魔物を強くしているとすれば、ここから下層では苦戦は避けられそうにない。
必要に応じて、魔法を繰り出して行くしか無さそうだ。
「おわわわわっ!? エ、エンジさん、耳鳴りが凄いです!!」
「……とにかく、急ごう」




