132.偽善の光の予感
よく分からないのに町長、それも女性の指輪に口づけとか、どういうことなのだろうか。
宝石を身に着けまくっているが、属性石も混ざっているようだ。
チラッとリウたちを見ると、みんなで首を左右に振っている。
しかし口づけ自体に深い意味も無く、歓迎の意でもありそうなので軽く触れるだけにした。
『どうもありがとう……。そしてようこそいらっしゃいましたね、魔法士さま。どうぞお立ちになって下さいませ』
紹介もしていないのに、何故魔法士と分かられたのだろうか。
声の主の顔は派手な宝石の装飾でよく見えなかったが、立ち上がりざまでようやく拝むことが出来た。
光るものが好きなのかあらゆる所に宝石がついていて、ピアスは両方とも藍色だ。
黒く長い髪に、瞳はピアスと同じ藍色の大きな瞳をしている。
年は分からないが、個性的な顔立ちの淑女といったところか。
「何故魔法士と……?」
「それはもちろん、あたくしの属性石が反応したからです。ただの宝石だけとは思っていらっしゃらなかったのでは?」
「……なるほど。それは失礼をしました。改めまして、俺は魔法士のエンジ・フェンダーと申します。あなたは?」
「町長のルファス・ムックですわ。以後お見知りおきを……そして、我が町の鍛冶師であるデリオンをよろしくお願いいたします」
「あ、はい」
「それでは……」
町長のルファスが頭を下げ俺たちの前から去って行くと、取り巻きの者たちも一斉にいなくなった。
何かキナ臭い感じを受けるが、単なる宝石好きの女性ではないと感じられた。
「どうだい、うちの町長は?」
「彼女は何者です?」
「宝石と属性石をこよなく愛するお方だ。で、民想いの優しい方でもあるな!」
「……そうですか」
「とりあえずだ、エンジと仲間の姉ちゃんたちはオレの家にでも寄ってくれ! 家の中で山の洞窟のことを話すからよ!」
デリオンは家の中を片付けて来ると言って、駆け足で行ってしまった。
鍛冶師デリオンには特に怪しさは感じられないが、町長と町の人間が妙に気になる。
首を傾げていると、リウたちが話しかけて来た。
「エンジさま。ピカピカの光の中に、ニセモノがあったにぁ。気付いてたかにぁ?」
「うん、それはね」
「リウ、何か予感があるにぁ。だからこの先何かがあっても、エンジさまを守るにぅ!」
「予感が? ふむ……」
「わたくしもさすがに気付きましたわ。偽の光と言うべきですわね。そしてあの女と周りの人間も……」
「魔物ってわけじゃないんだよね?」
「それは違いましたわ。リウの言うように、わたくしもアルジさまのお傍から離れませんわよ!」
リウはさすがだし、ルールイも常に気を張っているみたいで心強い。
それに引き換えレシスはともかく、レッテまでもがレシスに影響を受けているのは何でなのか。
「いーや! この宝石はレッテとヌシさまの!!」
「違いますよ~! きっとエンジさんは、この町で私と祝言を挙げるに決まっているんですよ! むふっ」
「ガウッ!! 違う!!」
「いえいえいえ、それも違いますよ~!」
偽の光に気付いていないのか、それとも偽にすらあてられてしまったんじゃないよな。
どこに来ても行っても、レシスは変わらないようだ。
――いいのか悪いのか。




