128.ゼースヒル洞窟・属性石広場 5
ここで風魔法を発動すると、急かすレシスにも何かしらの影響を及ぼすが致し方無い。
リウたちが踏ん張っているのを無駄にしないためにも、ぶっ放すことにする。
『――スゥ……。ウィンドストーム!!』
壁相手にそこまでしなくてもいいのだが、影が消えるならと遠慮なく放った。
手当たり次第という訳にも行かないので、リウたちに当たらないように攻撃。
しかし、
「ひ、ひぃえぇぇぇぇ!? エンジさぁん~!! 私じゃなくて、壁に向けて下さいよぉぉぉぉぉぉ」
「――あっ」
予想はしていたが、レシスも一緒に吹き飛んでいた。
それでも攻撃対象はあくまで壁に対してなので、吹き飛んだレシスには多分ダメージを与えることは無いはずだ。
『にぁにぁ!? レシスが浮いているにぁ!』
『あら、楽しそうですわね』
『新しい遊びなのですー?』
――などと、誰もレシスを心配していなかった。
肝心の壁はどうなったかと気にすると、
『ミュオオォォォン……!!』
やはり何か得体の知れない魔物だったようで、聞いたことの無い声を上げていた。
風魔法が相当効いているのか、所々にヒビが入り始めている。
『エンジさぁぁぁん!! 壁にもう一度触れてくだ……ほえええええええ!!』
なるほど、崩れかけの壁をコピーすればいいのか。
飛ばされ中のレシスの言葉通りに、壁に触れてみた。
ダークヴァント 闇属性 影を従えることが出来る ランクB 魔力消費S
発動条件 石または土が近くにあること コピー完了
おぉ、これは使えそうな感じがする。しかも腕を失くしてから、久しぶりのコピーだ。
条件は限られているし、魔力消費も激しそうだけど特殊な感じがしてよさげ。
『アルジさまっ! 崩れ始めましたわ! お早く!!』
『え? 崩れって、洞窟が……?』
『エンジさま、早くにぁ!』
そういえばレシスの声が聞こえなくなったけど、外に排出されてしまったんだろうか。
ルールイとリウが慌てているということは、壁の魔物に攻撃して撃退したことが関係していそうだ。
『ヌシさま、失礼しますでーす!』
『うわっ!?』
驚くよりも先に、レッテが俺の体を抱えて外に出て行こうとしている。
この洞窟で古代書の謎が分かるかと思っていたのに、人工的な試練部屋の経験と新たなコピーが出来ただけだった。
入る前に禍々しさを感じたのは、この壁によるものだったのだろうか。
それとも……。
しかしようやく洞窟から脱出出来ることを考えれば、細かいことは気にすべきではないかもしれない。
「ヌシさま、もう少しの辛抱でーす!」
「ありがとう、レッテ」
「ガウ! レッテ、ヌシさまの為ならいつだって役に立つでーす!」
思った以上に、戦い方を忘れてしまった。
腕はすでにコピーして違和感なく動かせているというのに、すっかり彼女たちに守られ慣れてしまったか。
それにしても古代書、そして光の属性石だ。
古代書は俺の能力にあって本そのものは存在しないが、これで良かったのかもしれないな。
光でありながら、良くないことを起こす光の属性石についてはよく調べるべきか。
「にぅ~エンジさまにぁ!」
「ウフフッ、アルジさまを抱くことが出来なくて残念でしたわ」
リウとルールイは、一足先に外に出ていて俺たちを出迎えてくれた。
そういえば何かを忘れているような……。
「あっ! リウ、レシスを見かけなかったかい?」
「にぁ? レシス~? 見なかったにぁ」
「わたくしも見ていませんわ。どうせあの娘のことですから、無傷のままさっさと帰っているのでは?」
「そ、それならいいんだけど……」
「ヌシさま。このまま国に帰るです?」
「先に降ろしてもらおうかな。そうだな、先にログナに寄ろう! レシスのことだから、恐らく……」
「はいでーす!」
ログナにはラフナンとアースキンが戻っているはず。
そこにレシスがいれば……。




