122.ゼースヒルの試練部屋 1-4
こういう時こそ知恵を絞るべきなのに、魔所の時から何も学んでいない。
敵が出て来ない仕掛け部屋、しかも魔法とは無縁。
こんなことなら、賢者の知識でもコピーしとけば良かった。
「むむむむ……」
「にぅ? エンジさま、苦しいのにぁ?」
「きっと迷われているに違いなくってよ? アルジさまなら、きっと解決しますもの。わたくしたちは黙って見守るしか無いですわ!」
「にぁるほろ~!」
いや、助けて欲しい……と言おうとしたら、レシスたちの様子に変化が生じ始めた。
「ありゃりゃ!?」
「わぅぅ? 不思議なことがあるものでーす」
「こんなことってあり得ますの? 明らかに肥えまくっていたのに……」
「何てこと言うんですか~!! わ、わたしは肥えてなんかいませんよ~? そうですよね、エンジさん」
「……」
さっきまで苦しそうにお腹を抱えていた二人が、元に戻った。
料理の効果が切れたのか、それとも……。
「にぅぅ!? エ、エンジさま、大変にぁ!」
「……うん? どうしたの、リウ――っうっ? ま、また現れているのか……」
レシスたちが回復したと思ったら、再び大量の料理が出現。
――ということは、やはり料理の効果が有効なうちに重りを解く必要がありそうだ。
コピーが出来ない料理という時点で、そういう仕掛けがあったに違いない。
ここは嫌がられても、もう一度レシスたちに食べてもらって解いてもらうか。
「レシス、レッテ! 悪いんだけど、もう一度料理を……出来れば怪鳥肉のソテーだけを食べて欲しいんだけど……って――」
「呆れますでしょう? お腹が空いているからって、出た途端に食べまくっていますわ」
「いや、それでいい。ルールイも肉をメインにつまんでくれないか?」
「わ、わたくしもですか!?」
「頼むよ、ルールイ」
「はうっ……! アルジさまに見つめられたら拒むことなんて、誰が出来るというの!?」
そこまで強く見つめていなかったのに、ルールイは全身をくねくねさせながら料理のある方に近づいた。
「にぁ? リウは食べなくてもいいのにぁ?」
「リウは俺と一緒に見ていようか」
「にぅ!」
そしてそれほどかからずに、またしてもレシスたちは苦しそうにしている。
少しだけしかつまんでいないルールイも、お腹を膨らませて深く息を吐いた。
「こ、これがアルジさまの将来の為の試練ですのね! これくらい大きければ、きっと元気な子が……」
ルールイだけ、何やら壮大な妄想を膨らませている。
顔を赤らめさせて、チラチラと見つめて来るがこれで準備は整った。
レシスとレッテも、全く動くことが出来なかった初めに比べれば歩くことが出来ているようなので、彼女たちには閉ざされた扉の前まで進んでもらうことにした。
「はひーはひー……」
「ガゥゥ」
「フフフ、そういうことですのね」
三人で600㎏になったかは計りようが無いが、どうやら正解だったらしい。
「にぁ~! エンジさま、開いたにぅ。先に進めるにぁ!」
「そうみたいだね。やっぱり、あの料理がそうだった」
「リウ、先に行くにぅ!」
扉が開いたことで、身軽なリウを先に行かせて様子を確かめてもらうことにした。
それというのも、さっきは消えていた料理の効果が消えずに残っているからだ。
「ほへぇぇぇぇ……、エンジさん~苦しいいい」
「ヌシさまぁぁぁ」
「アルジさま、良ければわたくしのお腹を、優しくさすって頂けませんですこと?」
食べすぎたレシスとレッテは、どう見ても苦しそうだ。
しかしつまんだだけのルールイは、余裕そうにしている。
俺にちょっかいを出して来ているが、協力してくれたので言う通りにしてみた。
「はふぅん~……こ、これは予行演習ですのね」
「……ち、違うからね?」
変な気分にさせつつもレシスたちの回復を待っていると、リウの呼ぶ声が聞こえて来る。
『エンジさま~!! 広いお部屋に出られるにぅ! こっちにぁ~!!』
なるほど、料理の試練部屋でとりあえずのクリアということか。
楽は楽だったけど、魔法を使う戦いの方が楽のような……そんな試練部屋だった。




