119.ゼースヒルの試練部屋 1-1
俺たちは壁の両側にあった扉の内、手前の扉に入った。
そこにはまるで誰かがいたような、人工的な物が残されていた。
作業机や椅子が無造作に積まれているうえ、奥に見えるのは進むための頑丈な鉄扉。
俺がコピーを使えるようになった古代書があった魔物の洞窟と聞いていたのに、ここを見る限りでは、人の手で作り直された洞窟のような印象を受ける。
そして今まさに、人の手による仕掛けで先に進めない状況だ。
「ううう~ん!! う、動かないにぁ~」
「ガウウ……全くビクともしないですー」
――などと、リウとレッテが思いきり力を込めて鉄扉に挑むも、何も起こらないでいる。
何か無いのかと鉄扉の辺りをよく眺めていると、石板のようなものに文字が刻まれていた。
その文字は古代文字などではなく、レシスでも読めるものだった。
「え~と、先へ進むには試練に打ち勝て……? こんな仕掛けがある洞窟なのか。レシス、この洞窟って――」
「ほへぇ? 何でしょう?」
「あ、うん……何でもない」
「回復が必要ならいつでも声をかけて下さい! エンジさんを守って差し上げますからね」
「あ、あぁ、うん」
うっかり経験者に聞いてしまう癖が出てしまった。
レシスは洞窟には来ているが、何も知らない子であったことをついつい忘れてしまう。
「アルジさま、この洞窟も魔所のような場所ですの?」
「う~ん……。そこまで大掛かりな仕掛けじゃないと思うんだけどなぁ……」
「エンジさま、5ってなんかにぁ?」
「……5? 数字の?」
部屋の広さに対し、作業机は一つで椅子は……数えるのが億劫なほどの数。
机の床面には、椅子を置くための窪みが見えている。
数字の5が示すものは……。
「レシス。数字の5で思いつくのは?」
「5ですか? え~と、ご飯ですかねぇ」
「……ルールイ、君は?」
「うふふ、簡単な答えですわ。アルジさま、わたくしたちは何人かしら?」
「俺、リウ、レシス、レッテ、ルールイ……5人だな」
「少なくとも、ご飯なんかじゃありませんわね」
さすがルールイだ。
そうなると、鉄扉を開くためには……。
「なぁにをを~! ご飯を食べるには椅子が5個必要じゃないですか!!」
「椅子が5個……ご飯を食べる為にか。なるほど」
「にぁ? ご飯を食べるのにぁ?」
「レッテ、ご飯食べたいでーす!」
「いや、そうじゃなくてだな……」
「アルジさま、そこの椅子を窪みの通りに並べてみては?」
「そうだな。試すしかないな」
レシスのとぼけた答えも、案外バカに出来ない。
そう思いながら、無造作に積まれていた椅子を床面の窪みに置くことにした。
木製の椅子では無く、鉄製の椅子で重みがある。
そして最後の一つを置き終えると、どこからかゴゴゴという音が響いて来た。
「あっ! 鉄扉が開いているにぅ! エンジさま、先に進めるにぁ~」
「なるほど、こういう仕掛けか。魔所の時よりも仕掛けが人間っぽいな」
「アルジさま、とりあえずレシスのことはあまり信じすぎないようにされては?」
「分かってるよ。ルールイの機転を頼りにしている。頼むね」
「はうっ! 頼りにされていますのね! あぁぁっ……火照りが止まりそうにありませんわ」
「いや、うん……」
人工的な洞窟に変わっていることは理解した。
今の時点で、危険な魔物も出て来てはいないが、仕掛けを最後まで解決出来たとして何が待っているのか。
ラフナンとアースキンが感じた危険な気配が奥に潜んでいるとしたら、常に油断してはいけないということになる。
まずは最初をクリア、油断しないで進まないと駄目だ。
「エンジさん、ご飯は食べないんですか?」
「……先へ行ってからね」




