118.ゼースヒルの洞窟 4
「わたくしは右がいいと思いますわ!」
「ウチは左がいいでーす」
「わたしはエンジさんに、どこまでもついて行きますよ~! 離れるなんて、そんなそんな……」
レシスの怪しげな視線は、どう考えても妄想が広がりすぎている。
ルールイとレッテの意見は分かれた。
ラーウス魔所でもそうだったが、分岐された道は意見が真っ二つになる。
しかし二手に分かれても、最終的には合流を果たすことが出来ているので、別行動を取ることに不安は無い。
それでも今回は不安がつきまとう。
未知の洞窟、それも恐ろしい虫が出て来たことを考えれば、分岐していてもみんなで行動すべきなのではないだろうか。
「リウはどう思う?」
「にぅ? リウの予感だと左だにぁ。エンジさまは何も感じていないにぅ?」
「……調子が戻ったとはいえ、サーチに意識が行ってないな」
「ふんふん? それなら、リウを信じてついて来てにぁ」
「そうだな、そうしようか」
コピーした腕がついたが、どうにも体の調子が上がっていない。
腕を失くしただけではなく、蓄積されたダメージが相当に残っているということかも。
「――そういうわけで、左に進むけどいいかな?」
「アルジさまがそうおっしゃるのなら、拒みはしませんわ」
「レッテも同じでーす!」
「いいのかい? ルールイ」
「いいも何も、アルジさまはわたくしたちがお守りしなければと感じていますわ」
「守るって、そんな……」
「にぅ! エンジさまはまだ回復しきっていないにぅ。リウは気付いているにぁ」
レシス以外の彼女たちには、隠しきれていなかったようだ。
そういうことなら、守られながら進むか。
「ほえ? エンジさん、どこか悪いんですか? 治しますよ?」
「……レシスがいるだけで十分だよ」
「むふふ……そう言うと思っていました! 何があっても、エンジさんには一番に回復をしますからね!」
「あ、ありがとう」
相変わらず能天気な彼女だ。もちろん悪い意味では無く、悩まない所が彼女のいい所だろう。
リウの言葉に従い、俺たちは左の道を進みだした。
かつて勇者だったラフナンの話を思い出す。
ここにはいくつかの部屋があり、そこにお宝でもあった古代書が置かれていたという。
残念ながらレシス自身は記憶に無いらしく、最奥となる所も定かではない。
それに関してはこれも冒険の醍醐味でもあるので、レシスを責めるのはおかしな話だ。
道伝いに進むと土が露わだった壁が、きちんとした石造りになっていることに気付く。
奥の方は、異変の影響を受けていないとみえる。
「エンジさま。両側の壁に何枚も扉が続いていますにぁ!」
「……むむ? 中の気配は?」
「リウ、扉の中までは見えないにぁ」
「しらみつぶしに開けて調べるしか無いのかな」
「ふみぅ……」
現状の配置は、見事に彼女たちの中心に俺がいる。
先に進んで調べるにしても、誰かに任せることになってしまう。
「はいはーい! エンジさん、わたしが扉を開けますよ!」
「「「「レシスは駄目!!」」」」
「ほええっ!? な、何ですと~!!」
ものの見事に、レシスを除いた俺たちはシンクロした。
彼女の無鉄砲ぶりには、リウたちも学習したということなのだろう。
魔所での油断があったというのもあるが、何かの行動を起こす時は、やはり俺がやるべきだ。
いくら守られであっても、仕掛けがあった時にはコピーが働いて、罠も覚えられる可能性がある。
「俺が行くよ。だからみんなは、いつでも戦闘態勢に入れるようにしてくれないか?」
「もちろんですわ! いえ、アルジさまは命令するべきですわ」
「レッテも命令されたいでーす!」
「にぅ!」
「め、命令……! エンジさんの命令であんなことやこんなことまで!? 夢が膨らみますよ!!」
レシスは本当に大丈夫なんだろうか。
楽天的である意味うらやましいが、いざとなったら動いてくれる……はず。
「よし、まずは手前の扉から行くよ!」




