117.ゼースヒルの洞窟 3
アースキンとラフナンをログナに送り、すぐに戻って来た。
洞窟の手前では、リウたちが退屈そうに待っている姿が確認出来る。
ログナに送った時も彼ら、特にラフナンは、俺に何度も注意を促していた。
「今はもう、勇者の力は無いです。でも、無い状態でも恐ろしさは感じ取れたんです。ですから、エンジさん。くれぐれも油断無きようお願いします」
「……そんなに?」
「僕もアースキンも、エンジさんに比べたら非力です。そうだとしても、あの洞窟が危険な場所って分かってしまったんです。どうか、どうか――」
――などと、念を押されてしまった。
ラフナンたちが古代書を奪ったことで、洞窟内の敵の生態が変わってしまったのだろうか。
とにかく中に入って、それからだ。
◇◇
『にぁっ! エンジさまが戻って来たにぅ!! エンジさまぁ~こっちにいるにぁ!』
ゼースヒル洞窟に向かって歩き出したところで、リウが嬉しそうにぶんぶんと手を振っている。
他の彼女たちの様子を見る限り、今回はケンカも起きていないようだ。
これは心してかからなければならない。
「みんな、待たせたね! 準備はいいかい?」
「にぅ!」
「当然ですわ! わたくしは二度と油断をするつもりがありませんもの」
「リウもルールイも頼りにしているよ」
「にぅぅ!」
「お任せされましたわ!」
リウは一番やる気を出しているし、ルールイも気合十分なようだ。
しかし、
「ど、どうしたの? レッテ?」
珍しくレシスがレッテを介抱しているように見えるが、まさか具合でも悪いのか。
「聞いてくださいよ、エンジさん! さっきからずっとレッテさんが身悶えているんですよ~。あの虫のせいなんですかね~?」
「身悶え……?」
「そうなんですよ。エンジさんがいなくなってからずっとですよ! ウキュゥンとか、キュゥンとか鳴いてて、これってもしかして発情期だったりするんですかね!?」
いや、違うだろ。
その原因は多分俺だな。耳とか頭とかを撫でてしまったから、きっとそれの影響だ。
「そうじゃないぞ」
「ほえ?」
「レッテ! 洞窟に行くぞ! 来い!!」
「! ガウッ!! 行くでーす」
また撫でてみようかと思ったが、こういう時は命令が一番いい。
レシスには何が起きたか分からなかったようだが、彼女も慌てて付いて来る。
◇
「トルタル!」
今回は前もって、初めから防御魔法をかけておくことにした。
魔法攻撃に関しては俺が引き受けられるが、物理攻撃は個々で対応してもらわなければならない。
その意味もあって、防御魔法を範囲でかけた。みんなまとめてかけておくに越したことは無い。
洞窟の入り口で強化魔法をかけ、俺たちは進み出した。
どうやらこの洞窟は、人工的な造りになっていて魔法不要で明るさがあるらしい。
レシスがどこかで拾ったとされる光の属性石らしき欠片が、小粒ながらもあちこちに落ちている。
そう考えると光の属性石を拾ったとしても、洞窟内に異変が起こるということには繋がらない。
壁は大部分が石で出来ていて、所々がむき出しの土となっている。
話によれば、魔物が古代書を守っていたらしい。
果たしてここが古代書の始まりなのか、それとも魔物がどこかで拾って守っていたかの、どちらかだと思われる。
入り口から数百メートルは進んでいるが、魔物の気配は感じられない。
明らかに見て分かるのは、大量の虫が洞窟の壁を削りながら外に出て行ったことだけだ。
虫が逃げたのか、あるいは――。
「エンジさん、この先道が二手に分かれていますよ~? どっちに行くんですか?」
「ん、ん~……」




