115.ゼースヒルの洞窟 1
「なっ……!? そんなバカな……どうしてこんなことに」
「む、むぅ……ここがそうなのか? しかしこの禍々しき気配は、たとえ俺であっても入ることを躊躇うぞ。回復娘は分からぬが、勇者だったから感じなかったのか?」
「い、いや、僕らが入った時には、こんなんじゃなかった。それがどうして、勇者じゃなくなった僕にも分かるくらいの恐ろしさが漂っているというんだ……」
◆◆
元勇者ラフナンと賢者アースキンを連れ、俺たちは古代書があったとされるゼースヒル洞窟に来た。
アースキンは渋っていたが、俺のコピースキルとレシスの絶対防御の関わりが知りたい一心で、半ば強引に移動。
リウとレシスはすでに準備万端で、ルールイとレッテは驚きながらも黙ってついて来てくれた。
俺の移動魔法は、基本的に植物を介した移動。
そういう意味ではかなり不便なのだが、幸いなことに比較的近場にその洞窟はあった。
ログナに程近い村近くの森。
そこに着いた俺たちは、遠目からでもはっきり見える洞窟に向かって歩き出す。
「エンジさま、あそこに見える穴に入って行くのにぁ?」
「俺も場所は分からないんだよ。だけど、ラフナンとアースキンが様子を見て来るってことは、多分ここなんじゃないかな?」
「にぅ」
「あ、あのぅ……わたしも様子を見に行かなくてもいいんでしょうか?」
「レシスは覚えがあるのかい?」
「何となぁく……ですけど、多分そうかなぁと」
「何があるか分からないから、キミはここにいてくれ。その為にアースキンを彼につけたんだ」
「そ、そこまでわたしをお傍に!? ほええ~!!」
天然レシスは、勇者ラフナンにくっついて行動していた。
――ということは、彼が見えたもの、見てしまったものを彼女自身は見ていない。
後方支援で回復士の彼女。
レシスを傍に置きたかった彼が、わざわざ危なそうな場所に同行させるはずがないと思ってしまった。
いくら狂っていたラフナンだったとしても、レシスは安全な所に待機させていたはず。
それよりも、勇者が古代書を手に入れた後が問題だ。
レシスの話では、何かしらのタイミングで光の属性石を拾ったとも聞いている。
洞窟がすでにその役目を終えて危険が去った後なのか、それとも――。
そういう予感もあり、ラフナンとアースキンだけを洞窟付近に先行させた。
だが、
『うっうあああああああ!!!』
『ぬおおおおおお!?』
ラフナンとアースキンの叫び声が聞こえると同時に、彼らは大慌てで戻って来た。
特にラフナンの表情は、相当に深刻そうだ。
「な、何ですの!? 男二人が血相変えて逃げて来るだなんて、情けないことですわ!」
「にぁ? アースキンの方が足が早いにぁ」
「本当ですね~! さすが賢者さま」
そういうことじゃないと思うが。
「ヌシさま、何か来るです。レッテがやっつけてもいいですかー?」
「何か? 何かって、敵?」
「分からないでーす。けど、あの二人の後方から何か来ていますです」
「むむ?」




