112.再起の魔法士、妖精に託される
「フェンダー、こっちに来て下さい。あなたにお願いしたいことがある」
うん? ザーリンの言葉が以前のように穏やかに戻っている。
自分の腕を自分で復元してみせたからかな?
レッテを白狼のルオに預け、俺だけで花畑のある奥に移動した。
花畑から俺と彼女たちの旅が始まったと言っても、過言ではない。
――とはいえ、今はそんな感傷にひたっている余裕は無いけど。
花畑に着くと、彼女は翅のある妖精姿に戻っていた。
山砦がフェルゼンという国になってから、しばらく寄ることが無かった場所。
まるで原点に戻れと示しているかのように、ザーリンは花の周りをぐるぐると飛び回る。
「魔法士エンジ・フェンダー。あなたにはまだやるべきことがある。忘れた?」
「え、いや。腕のことだよね?」
「そうじゃない。腕はかの国に行けば自然と戻る。あなたは魔法士として成長途中。味方を増やし続け、仲間も得た。でも、あなたには足りないものが沢山ある」
ザーリンは俺のメンターでもあるし、言いたいことがあるのは承知している。
それはきっと、
「経験……だよね?」
「そうとも言えるし、それだけでないとも言える。あなたがコピーした魔法、スキル、ステータス……それはまだ、世界の半分にも達していない。つまり?」
「極めていない状態で、油断をした……か」
「そう。わたしはあなたに願い、託す。この国の王としてではなく、世界を極める王として座して欲しい。そうでなければ妖精や獣、ドールたちが従うことは意味を持たない」
「あぁ、そうか。魔法のコピーだけじゃなかったんだ……」
「幸いにして、あなたは人間の味方を得られた。人間の力を頼り、フェンダーは次の大地に飛び立って欲しい」
ログナは元々人間が優勢の国。
ラフナンをきっかけに追放されてしまったけど、属国にした後に自国に出来た。
人間の国民と、獣たちを得られた。
つまり、
「次が最後の機会……それで合ってる?」
「そう。古代書に書かれた以上のことを、妖精ザーリンは望みます。味方の彼女たちを連れて、全てを極めて帰って来て欲しい」
古代書に書かれたことは俺は知らない。
コピーという力を得た以上、最強になれってことだろうけど。
「あぁ、分かったよ。ここはザーリンや、みんなに任せる。だから――」
「託す以上、心配いらない。うるさい小娘やネコたちを呼ぶから、来たらさっさと行く! ログナで顔を見せたあなたは、これ以上寄り道をする時間は無い」
「そうするよ。で、リウたちをどこに呼ぶって?」
「……ここ」
「――へ?」
ザーリンは妖精ではあるけど、そんな特別な力は無かったはず。
しかし、
『にぅぅ!!! エンジさまにぁぁぁ~!』
『ほえぇっ!? あれれれ、どうしてこんな所に!?』




