110.回復士レシスと元勇者、再会する 後編
再会するとは思っていなかった。
ラフナンを目の前にしながら、レシスは何度も首を振り続けている。
少し離れた所で彼女らを見守るリウは、警戒したままだ。
アースキン、ルールイも不安な表情を浮かべている。
「む、むぅ。エンジに言われた通りに連れて来たが、あの娘のあんな表情は初めて見る」
「ええ、それはわたくしも同じですわ。あんなドジで間抜けで、放っておけない娘があそこまで強張るなんて、アルジさまはどうして……」
「何かあったらリウ、容赦しないにぁ!」
「その気持ちが分からないでも無いが、エンジの命令だぞ?」
「にぁ……ぅぅ」
三人それぞれの心配を感じつつ、レシスは下を向いていた顔を上げる。
ラフナンとまともに向き合い、きちんと話をする意思を固めたようだ。
「あのっ――! ラフナンさんはいつから……」
「全て話すよ」
「ログナを、ギルドを追い出した時からエンジさんを憎んでいたのですか?」
「僕がおかしくなったのはその前だよ。君の杖と古代書を見つけたダンジョン……全てはそこからなんだ」
「そんなっ――! そんな時からなんて……」
「でも、本当に自分を抑えることが出来なくなったのは、魔法兵の女と接触した頃なんだ。それまではそこまでじゃなくて――」
「で、でも、何度もしつこく砦を襲いに来ましたよね?」
「あれは……どうかしていたかもしれないけど、彼と戦うのが楽しくなっていたっていう、言い訳に過ぎないものなんだよ。レシス……君を巻き込んで本当にごめん」
ラフナンから聞かされた真実に、レシスは口を手で覆うほどのショックを受けた。
同時に、理解の出来ない戦いの繰り返しをした彼には、信じがたい気持ちしか芽生えない。
「わたしはラフナンさんを信じて、信じ抜いて言うことを聞いていました。それなのに、楽しいというただそれだけで、人を傷つけられるんですか!?」
「……そうだね、本当にどうかしていたんだ」
「どうしてそこまで……」
信じ切っていた勇者ラフナンに酷い目に遭わされた。
それがありながらも、そうじゃないと言い聞かせた自分。
レシスは心底落胆を覚えてしまう。
「僕は……君を、レシスをエンジくんに取られたくなかったんだ」
「――? え、どういう意味ですか?」
「レシスを僕の傍に置いておきたかった……君のことが好きだからだ」
「ほえ?」
「だ、だから僕はエンジくんに勝負を挑ん……レシス? 言葉の意味を理解していないとかじゃ?」
回復士レシスの緊張が唐突に途切れる。
ラフナンからの『好き』という言葉により、エンジから言われたことを思い出したからだ。
「ラフナンさん、わたしのことが好きだったんですか?」
「そ、そうなんだ。だから僕は――」
「それならわたしもですよ~!」
「えっ? じゃ、じゃあ……」
「それがですね、わたし、エンジさんに噛まれてしまいまして~……しかもですよ? 同じ湯の中に裸で入ったんです! エンジさんには何もかも奪われたようなものでして~」
「そ、そんな……くぅぅっ。完敗すぎる……彼には敵わなかったんだ」
元勇者ラフナンの告白、天然娘レシスの復活。
彼と彼女の緊張の再会は、あっさり終えた。
「にぁ? シェラが元に戻っているのにぁ」
「全く、油断も隙も無い娘ですわね」
「でもでも、これでエンジさまの元に帰れるにぅ!」
「……ふ。この俺が、ラフナンを鍛え直してやるとするか」




