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追放されたギルドの書記ですが、落ちこぼれスキル《転写》が覚醒して何でも《コピー》出来るようになったので、魔法を極めることにしました  作者: 遥風 かずら
零頁:落ちこぼれの書記

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11.書記、懲りない勇者に見せつける


 俺は今までログナ周辺から出たことが無かった。

 それがまさか、初めて訪れた村で岩石の魔法を覚えられるなんて。


 こうなることが初めから分かっていたかのような、そんな導きをしてくれるザーリン。彼女には感謝してもしきれない。


 村の人にも感謝され、次の村に向けて出発しようとするとザーリンが意外なことを言って来た。


「フェンダーは魔法に慣れるまで山に居続けた方がいい」

「――えっ? 山って拠点のことだよね? 何で?」

「にぅ?」


 ザーリンの言葉に、俺もリウも揃って首を傾げた。


「先に進むべきじゃなかったの?」

「リウもそう思ったのにぁ! エンジさまとリウの目は先も見えるにぁりん」

「……フェンダーは勇者……あの人間がもう来ないとでも?」

「しばらくは来ないはずだけど……」


 岩窟を放棄するわけじゃない。

 だけどリウが長く住んでいたあそこは、元々ログナの拠点。


 そこに勇者が来るのは予想出来るし、ギルドからの依頼で来ることも分かっている……。


「フェンダーはあの山で築く、べき。そうじゃないと進まない」

「築くって何を?」

「……国」

「ええええっ!? 山奥なのに、国を築くだって!?」

「にぁ? リウがいたあそこが村になるのかにぁ?」


 とんでもないことを言い出した。

 まさか岩窟を一つの国にするだなんて、思いつくことも無かったというのに。


「村じゃなくて、もっと大きい。……とにかくフェンダーは、花畑の存在とそこから外界に出られるということをあの人間たちに知られては駄目」

「えっと、じゃあ……とりあえず戻る、でいいのかな?」

「急いで戻って! 人間たち、特にあの勇者はすぐに来る」


 フェアリーなりの予感がするのだろうか。そもそも俺の古代の力のこともすでに知っていた。恐らく彼女には、先に何が起こるのか分かるのかもしれない。


「確かに花畑もそうだし、そこから外界にってのは知られたら良くないかもしれない。も、戻ろう」

「エンジさま、戻るのにぁ?」

「うん。リウは先に戻って、異常が無いか調べててくれるかな?」

「あい!」


 外界とログナ側は範囲サーチの境界。

 こちらからは(もや)のようなものがかかっていて、よく見えない状態だ。


 ザーリンの言うとおりラフナンたちが岩窟内を隈なく探し、奥の花畑に来てしまう……。その可能性は否定出来ない。


 使われなくなった山の拠点に何故今になってギルドが依頼をしたのか。そのことも気になるし、ここは素直に戻るべきか。


「ネコから何か聞こえる?」

「聞こえて来ないってことは、すでにログナ側に戻っているってことだよね?」

「とにかくあなたも急ぐ!」

「う、うん」


 花畑に戻りその足で岩窟から外を目指していた俺の目に、リウの威嚇した姿が飛び込んで来る。

 耳と尻尾をピンと立たせているということはやはり――


 ちょっと前のリウなら、人間に怯えていたはず。オークかく乱の経験からなのか、岩窟に近づいているらしき者たちに対し抵抗を見せている。


「エンジさま! いい所に戻って来たにぁ!!」

「もしかしなくても?」

「はいにぁ! この前の人間たち、それも沢山見えるですにぁ!!」

「え? 沢山?」


(勇者の仲間とラフナンだけなら何とかなりそうなのに)


 まさかログナが本気を出したのか。


「……フェンダーは先にここを強化」

「強化? それって――」

「魔法!! もう忘れた?」


(道を造った魔法ではあるけど、そこは編集で何とでもなるということかな)


「えーと、編集で……」


【スカラーを編集 岩窟を強化 魔法名アルクス 砦強化完了】


「こ、この砦は今から"アルクス"に変わったから」

「砦強化の固有魔法名?」

「多分、そうかな……魔法名さえ編集すれば攻撃にも転用が効くかも?」

「それでいい。すでに強化されたからその名前を変えても問題ない」


 強化さえすれば問題無いということは、編集次第ではどうとでも出来るのでは。


「え? そんなに便利なことなの?」

「あなたは何でもコピー出来る古代の(あるじ)。驚くこともじきに慣れる」


 慣れるかは分からない。しかし守りから先に覚えていっているのは確かだ。


「リウ! 敵の動きは?」

「少しずつこっちに向かって来てますにぁ」

「魔法を使う人間も来てるかな?」

「分からないにぁ。でもでもでも、顔を隠している人間がいるですにぁ」

「じゃあ間違いないね」


 そういえばあの子も来ているんだろうか。

 勇者パーティーで荷物扱いをされているなら、俺と一緒に来てもらいたい……。


「ここに火を点けられたらひとたまりもないな……」

「それならそれで、コピーすればいい」

「あ、そうか」

「だけどここは人間が奪い返したい場所。火は使わない」


 ログナのギルド、はたまた国王の依頼……。そうだとしても山を燃やす行動はしないはず。

 覚えたての岩で攻撃したとして、素直に帰ってくれるんだろうか。


 あの勇者はどこまでも追いかけて来そうだ。

 そうかと言ってここの砦はもう渡したくないし、難しい問題かもしれない。


「フェンダーのするべきことは、決まっている」

「……うん。分かっているよ」


 するべきこと……それはもちろん――


「そこに隠れているんだろ! 書記エンジ!! この前のことは、ギルドマスターにも話をしてある。キミが地べたに這いつくばって謝るなら、ログナに戻ることも許してやる! さぁ、出て来たまえ!!」


 今さらギルドマスターに言われても関係が無いことだ。

 こっちの状況にすら気付かず、反省どころか俺の非を打ち出すとは。


 つくづくどうしようもない。勇者たちを痛めつけるのはさほど難しいことじゃないが……。

 勇者はさておき、ログナという国が何かをして来ることは明らかだろう。


 まずは俺が今出来ることを見せつける。そのうえで、勇者の出鼻をくじく。


「勇者ラフナン!! 中腹(そこ)から動かず、俺のすることをよく見てもらうよ!」

 

「何をするって? 書記の君がまた麻痺でも唱えるつもりか?」


(……勇者でも、そこから先へは登って来られない)


 岩窟を強化した固有魔法アルクス。

 これを頭の中にイメージして、魔法名を心の中で呟く。


 そこには何も無く、吹きさらしの風が吹きまくっていた場所。

 

 そして――勇者のいる中腹より上の辺り、そこに城壁らしき岩の壁が姿を見せた。


「なっ!? 何だっ? 岩……違う、城壁!?」


「ただの岩ですよ。さぁ、どうします? ラフナンさん」

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