108.片腕、復元
「レッテ、ここで少し待っててくれるかい?」
「はいです!」
「すぐ……かは分からないけど、遅くならないと思うから!」
「お待ちしてますでーす」
レッテとログナへ行く前に、彼女の所に行く必要があると思った。
フェルゼンの中では、人間よりも獣やドールの方が数が多い。
しかしログナは昔から暮らす人間たちが圧倒的だ。
俺の身に起きたことを知らない住民に、今の姿を見せるわけにはいかないだろう。
「……フェンダー、何?」
「えっと、この腕のことなんだけど――」
「それじゃあイメージして。フェンダーの腕を自分で浮かべる。そうすれば、難しくない」
「そ、それだけ?」
「そう」
俺が魔法士として目覚めた時は、厳しさを失くしたと感じていた。
それが油断で腕を一本失くした、それだけでザーリンの俺への厳しさは以前より上がってしまった。
イメージ……俺の腕をコピーして、それから……。
「右なら右。左なら左。そうしないと人間はすぐに気付く」
「うん、分かってるよ」
「それなら早くする!」
「うぅっ、厳しいな」
片腕をコピー、右は右、左を左とする。
左腕に属性耐性を付与。右腕から全魔法の発動を可能に変更。
こんなところか。
利き腕の右では無く左腕を奪われてしまったが、片腕だけで助かった。
「……出来た?」
「右をコピーして、それを左に付けた後に左腕として変えたよ。これでどうかな?」
「……ん。フェンダーは国王。王が五体満足で無ければ、また以前のようにしつこい奴が来ても全てを防ぎきれなくなる。たとえコピーされた腕だとしても、民は安心する」
「やっぱりそうだよね。ありがとう、ザーリン!」
「あなたは国王。魔法士。魔物と獣の王だから、何も心配いらない。気を付けて行く! 行っていい!」
やはりザーリンは、以前よりは優しくなっているようだ。
俺が思っていたことと同じ考えを持っていたし、離れていても分かっているのは本当だった。
コピーした左腕は見せかけではあるが、敵をあざむくには十分な出来だ。
これならログナの住人にも違和感なく接することが出来る。
「レッテ、待たせたね!」
「! ヌシさま、その腕はどうされたのです!? どうやって……」
「レッテは忘れたのかい? 俺はコピースキルがある魔法士。これくらいのことは出来るってわけだ」
「さ、さすがです! さすがレッテのヌシさまなのでーす!!」
「よし、今度こそログナに行こうか」
「はいでーす!」
ずっと旅に出てフェルゼンはおろか、ログナにもろくに立ち入ってなかった。
住民は俺のことを王と認めてくれているだろうか。
レシス、リウがどこかに行っている今だからこそ、威厳を示せるいい機会かもしれない。
レッテとふたりだけで動くのもあまり無いことだし、ログナを見て回るとするか。
「ヌシさま、耳と尻尾は隠した方がいいです?」
「いや、ログナにも狼族は住んでいるはずだから、そのままでいいよ」
「分かりましたです! ヌシさまの身は、レッテがお守りするでーす!」
「うん、頼むよ」




