106.ネコと回復士 ルナリア王国と人助け編 前編
「リウちゃん、どこまで降りて行くの?」
「フンフンフン……こっちにぁ。こっちが匂うにぁ~! シェラも手伝うにぅ!」
「こ、こんな草木も生えない崖下に、万能草なんてあるのかなぁ」
「リウ、鼻はいいのにぁ! エンジさまも褒めてくれたにぅ」
「ううぅっ、怖いなぁ……下を見ちゃ駄目だよね……あぅぅ」
「リウにしっかり掴まっていれば問題無いにぅ」
◇◇
レシスとリウは、ルナリア王国を訪れていた。
ここは賢者アースキンがエンジに敵対していた時に訪れた国。
そして、レッテと出会えた場所でもある。
ルナリア王国はすでにエンジとは友好関係にあり、リウたちも気兼ねなく入国していた。
「ここではリウ、自然でいられるのにぁ~」
「ほええ、狼族ばかりなんだ~! 確かにリウちゃんなら、ここにいても不自然じゃないね~」
「にぅ」
「でもどうしようか? 狼さんたちにエンジさんに関われそうな何か――ううう~ん……」
嬉しそうにしているリウを見ながら、レシスはこれからどうするのか悩み始めている。
そんな彼女の前に、狼族の女性たちが数人ほど近づいて来た。
「ほへ? え、何……?」
「にぁ? シェラの知り合いかにぁ? ぞろぞろと寄って来てるにぅ」
狼族の女性たちはレシスの前に整列している。
動揺するレシスに対し、女性たちはそのまま膝をつき、一斉に頭を下げ始めた。
「あの……私に何か?」
意味が分からないレシスは思わず口を開く。
すると、宝石を腕に付けた一人の女性が顔を上げた。
『我が王国を訪れし回復士様! どうかお願いしたきことがございます』
レシスに向けて女性が声を張り上げる。
「ひぅっ!? わ、私ですよね? そうだよね、リウちゃん」
「ピカピカにぁ~」
「あぅ……今はそれどころじゃないんだよ?」
「他の人は付いてないにぅ」
「本当だ。もしかして高貴な人?」
宝石を身に着けていることに不思議がっていると、
『はい。わたくしは、ルナリア王国の聖堂騎士ローザにございます。彼女らはわたくしの部下です。回復士様、我が国をお救い下さいませ!』
「えぇっ!? わ、私が~?」
「シェラの出番なのにぁ!」
「な、何でしょうか?」
レシスは、今まで誰かに頭を下げられたことがない。
お願いをされたことのないレシスは、困惑しながら話を聞くことにした。
「は。我が王国は今、病に冒されております。以前は賢者が住んでいたこともありそのようなことは無かったのですが、毒性の強い魔物が増えたことにより、騎士が病に倒れるようになったのです」
「ふむふむむ……魔物が」
「我が国の問題は、毒を治す回復士がいないことにあります。どうか、回復士様のお力添えをお願いいたします! そうでなければ、王国に住む民を守りきれません」
「ほええっ!? ど、毒を治す回復士……って、私!?」
「シェラしかいないにぅ」
「わたくしの見立てでは、相当な使い手かと……」
「ひぃえぇぇぇ!? そ、そんなそんな……杖も無いのに~」
いきなりのことでレシスが動揺しまくっていると、
「失礼いたしました。ここへは旅の訪れか何かだと思われます。そんな回復士さまに負担をさせるのも失礼な話。……それであれば、ネコ族のあなたに協力をお願いしたい!」
「にぁ?」
「はぅぅ……ごめんなさい」
「リウ、役に立てそうならやるにぁ!」
「では――」
聖堂騎士ローザはレシスの隣にいるリウに助けを乞うことにして、事情を話し始めた。




