104.元勇者、味方となる
妖精ザーリンの癒しと説教により、俺はかなり回復した。
そこから立ち上がり、あの男が来ているという所に向かった。
自分の国として興したフェルゼンの様子は、相当目まぐるしく変わっている。
数年でも無いが、しばらく自分の国にいなかっただけに、国内の変化にただただ驚くばかりだ。
俺が眠っていた所は、白狼ルオがねぐらとしていた森の中。
森といってももちろん、国の中のことだ。
かつて俺がいくつかの魔法をコピーした花畑が、森となっている。
この国には、人間よりも獣、魔物、ドールの方が圧倒的に多い。
だからこそ、頼れる賢者を置いていたわけだが……。
「信用しろと、そう言いたいのか?」
「そ、そうだ。 アースキンにも迷惑をかけた。でも僕は、僕にはかつての力は残っていない! 勇者の力を持たない普通の人間なんだ。信用されなくても、彼に謝りたいんだ。頼む、友人!!」
何やら必死めいた人間の姿が見える。
そこには賢者アースキンの姿があり、ルオ、そしてルールイやレッテもいるようだ。
レッテはかなりの殺気を出しているが、ルオが制していてその場で留まっている。
目覚めたばかりの俺も、怒りを露わにしそうになったが……。
『アースキン! 何の騒ぎ?』
眠っていた時から何となく気配に気づいていたが、まずはアースキンに声をかけた。
『おぉ! 目が覚めたんだな! 動いても大丈夫なのか?』
ルオ、レッテ、ルールイも俺に気付き、嬉しそうにしている。
そして俺は気付かないフリのまま、アースキンに近づく。
「心配いらない。俺には大したダメージが無いからね」
「ふむ、そうか。ところでだな……」
「うん?」
『エンジ・フェンダーくん!! ぼ、僕は、僕は――』
目の前で見えているのでそろそろかなと思っていたが……。
勇者ラフナンは、すぐに俺に向かって土下座をし始めた。
かつての威光もなければ着ている衣服もボロボロだ。
仲間もいない状態の彼がここに来たのは、恐らく……。
「頭を上げてくれないか。君は勇者ラフナン……で、合ってる?」
「いや、僕は頭を上げては駄目なんだ!! 僕がしでかしたことは、決して許されるものではなく……だから、だから!!」
「……ラフナンさん、とにかく立ち上がって顔を見せて欲しい。俺はこの通り、何もする気はない」
俺の片腕は、現時点で消失している。
それはゲレイド新国の女に、してやられたからだ。
それ自体は油断に過ぎず、悔やんでも始まらないのでいいとして、まずは話をしなければそれこそ始まりそうにない。
「し、しかし……」
「……あなたがその姿勢を解かないのであれば、即座に移動させる。どうします?」
「うぅぅっ……すまない。で、では」
これだけの獣や魔物たちに囲まれていれば、下手な動きも出来ないと思うが。
それとは関係なく、ラフナンは俺に顔を向けられないようだ。
そういえばリウとレシスが見えないが、どこにいるのだろうか。
特にレシスは、ラフナンを気にしていたこともあるし、気になる所だ。
「勇者ラフナン、どうしてここへ?」
「僕はすでに勇者の資格を失っています。エンジさんなら、分かるはずです」
「……悪いけど、俺はまだ目覚めたばかりなので。でも、その見た目で何となく分かりますが」
「僕は元勇者になりました。僕はレシスが持つ杖と、隠されたスキルに惹かれ、そこから止められない衝動が絶えず膨れ上がりました。そして、タルブックの魔法兵士の女によって――」
しつこいくらいに俺の国に侵入して来たが、レシスの杖か。
あの杖もすでに無いけど。
ラフナン自身、止められない黒い心に支配されていたのか。
ルオがラフナンの入国を許している時点で、危険は無さそうだが。
仲間にするつもりは無いし、犯した罪を償ってもらおうとも思っていない。
しかし……
「アースキンに聞く。どう感じている?」
「む? ふむ……昔のラフナンに戻ったように思えるが」
「昔……というと、アースキンがパーティを組んでいた時?」
「うむ。ラフナンとて最初から勇者では無かったのだからな! その時の気持ちに似ているぞ」
「――分かった」
勇者の力は失っても、統制力は元々ある。
レシスの杖も無ければ、俺の国で悪さを働くことも無い。
ラフナンも途中から引き返せなくなったほど、被害者なのだろう。
それならもう、これしかないな。
「ラフナン。あなたをこの国の住人と認める! ここをもっと賑やかにする為の協力者となって欲しい」
「……えっ? そ、それはあのつまり……許してもらえると、そういう――」
「許しとか、そういうのじゃないですよ。ですが、一人でも多くの味方を得たい。その為にも、国の為に働いてもらうことになります。それでいいですか?」
「――あ、ありがとうございます……!! エンジさん、いえ国王。僕はあなたの味方となります!」
「よろしく」
これにはルオたちがあっけに取られていたが、アースキンは安堵していた。
黒い心がすでに無く、力を失くした元勇者には協力してもらわなければ。
「ルールイ、レッテ! こっちに来てもらえる?」
「は、はい! 今すぐ参りますわ」
「はいでーす」
リウとレシスが心配だ。
この二人なら何か知っているかもしれない。




