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デビューの夜

今夜は、年に一度のデビュタントの夜会だ。

15歳で社交界にデビューする貴族の子息、令嬢が王宮に集まってくる。

其々が婚約者や、家族をパートナーにして会場に入場する。


この日は、昼から王宮が広く開放され、地方からきた貴族達が集っていた。

デビュタントは、国をあげてのお祝いとなるのだ。




鏡に自分の姿を映し、何度も確認して、期待に夢ふくらます。

デビュタントの夜は、女の子の憧れの夜だ。

「ありがとう、とても可愛い。」

アデレードが侍女達に礼を言って、後ろ姿を鏡で見る。


ダリルから贈られたドレスに身を包み、王家に伝わる宝飾品で飾る。

髪も化粧も侍女達の渾身の作である。芸術品のような仕上がりになったアデレード。


薄いピンクのドレスに重ねた白いオーガンジー。

芥子パールが散りばめられ、デイジーの白い花がドレスにも髪にも飾られている。

その豊かな髪をまとめるのは、ダイヤのティアラ。大粒のバロックパールがぶら下がっている。

アデレードは、自室でダリルの迎えを待っていた。


「とても綺麗だ。

まるで妖精のようだ。

デビューおめでとう、アデレード。」

時間通りにやって来たダリルは、黒の正装。


アデレードの手を取ると、膝をつき甲に口付けた。

「美しい姫君。

どうか、僕と結婚してくれませんか?」

驚くアデレードの瞳に涙の雫。

「アデレード?」

ダリルが尋ねると、アデレードが抱きついた。

「もちろん、イエスよ!」


二人で見つめ合い、交わす口付け。


「貴族議会の許可が降りた。

このデビュタントで、婚約の発表となる。」

従兄から、婚約者に昇格だと、ダリルが微笑む。


アデレードを他国との友好品と考えている貴族がなくなった訳でもないし、全てが終わったわけではないが、大きな前進である。

侍女達に化粧直しと、ドレスを整えてもらい、アデレードとダリルは会場に向かった。





煌めくシャンデリア、装飾された壁、壁画の天井。

この日だけは、王が先に入場して、デビューする子息、令嬢を迎える。

アデレードは王族の為に最後に入場する。

すでに、2年前に披露した姫のデビューであることは公示されているので、従兄のダリルがその時と同じくエスコートするのだろうと思われていた。

アデレード自身が知らなかったように、ダリルとの婚約が決まったのはギリギリのタイミングであったし、内密の協議だったのだ。


アデレードとダリルが入場すると、直ぐにダンスが始まる。

まずは、デビュタントを中心としたダンスである。


周りの貴族達も、自分のデビュタントを思い出すかのように、微笑ましく見ている。

やはり目を引くのは、アデレードとダリルのカップル。


曲が終わっても、二人はホールから下がらず、次の曲を踊りだした。

人々がおかしい、と気づきだす。


2曲が終わると、二人は王族の席へとひきあげる。

ダンスに誘おうと待っていた人々は、落胆を隠せない。


二人を迎えた王が椅子から立ち上がると、人々の注目が集まる。


「この夜会で、嬉しい知らせがある。」

ルドルフは、ダリルとアデレードを前に出すと続けた。

「ダリル・バーランは、アデレード・キリエ・バーランと婚約を結び、2年後に結婚式が決まった。」

ダリルがアデレードの腰を引寄せる。


会場から、驚きの声と祝福の拍手があがる。

アデレードは、他国に嫁ぐと思われていたが、ダリルは、反対に国内から選ばれると期待していた女性達の多くが、悲鳴をあげていた。


混乱がおさまってくると、王太子の婚約を祝う声が響いた。

ダリルはもう一度、アデレードとホールに行くと、3曲目を踊りだした。

他には誰も踊っていない。

婚約したばかりの二人に、祝福の拍手が降り注ぐ。



アデレードは、ダリルの腕の中で幸せをかみしめていた。

磨きあげられた緻密な組細工の床を、ダリルのリードで軽やかなステップを踏む。

デビュタントの夜は、忘れられない思い出が増えていく。


デビューをすれば、大人と認められる。

もう結婚ができるのだ。

華やかなデビュタントの夜は更けていく。




だが、幸せな時間は長くは続かない。暗い影が忍び寄ってきている事を誰も知らない。



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