救出
どこにそんな力があったのか、背中にユリシアを乗せてアデレードが細い足で立ちあがる。
ユリシアの方が背が高いので、引きずるように乗せている。
その時だ、アデレードの声に反応したかのように、騎士服の男達が飛び込んできて、フルーラとボルドを抑え込んだ。
その勢いのまま4人の男達もなぎ倒す。
それを見て、アデレードが床に座り込んだ。
肩で息をして、ユリシアと支えあうように座っている。
もう立ち上がる体力も、気力もないだろう。
「アデレード!」
アデレードを抱き上げるのはダリルだ。
「アデレードの声が聞こえたよ。」
アデレードとダリルの警護達、ウォルフとベイゼル、マックスとショーンが穀物庫に飛び込んできたのだ。
内密に捜索するために、事情を知っている者のみが動員されていた。
「王太子様、違うの!
その娘に騙されたの!
私は呼ばれて、ここに来ただけ!」
ベイゼルに取り押さえられながらも、フルーラはダリルに助けてと言う。
「黙れ!
さらにアデレードに罪を擦り付けるか!」
ダリルがフルーラを見る目は、憎しみにみちて、フルーラが息をのむ。
普段の穏やかな王太子の仮面を脱ぎすてている。
「ダリル。」
アデレードが疲れ果てて、ダリルに身体を預けた。
「アデレードから話を聞いて、ボナペリ子爵令嬢の事を調べていた。
だから、ここも発見できて、アデレードの声が聞こえたんだ。」
ダリルがアデレードを大事そうに抱き締め、額にキスをしている。
「きっと助けてくれると思ってた。」
アデレードの言葉にダリルが微笑む。
その様子をフルーラは、力なく見ている。
どうして、どうして、ブツブツ呟いている。
腕は縛られ、ベイゼルが逃げないように縄を持っている。
ボルドも縛られウォルフが縄を持つ。
「友達ができたと思っていたのに・・・。」
ポロポロ、アデレードが涙を流し始めた。
初めての友達だったのだ。
一緒にいるのが、楽しかったことに間違いはない。
ただ、フルーラの方は痩せ衰えた身体のアデレードを、自分の引き立て役にしか考えてなかった。
惨めな娘に優しい令嬢を演じていたのだろう。
「ばかね、私がいるわよ。」
座りこんで動けないくせに、ユリシアがアデレードに声をかける。
「ユリシア様。」
ダリルの腕の中で、顔をあげたアデレードがユリシアを見る。
「ユリシアでいいわよ。」
王太子のキスを当然のように受けている貴女は何者?
言葉を胸に秘めたまま、ユリシアはアデレードを見つめる。
アデレードの代わりに、男達を警護と一緒に縛っていたショーンがユリシアを支えた。
「またお会いしましたね。
客室を救護室として準備してあります。
サンベール公爵には、直ぐに使いをだしましょう。」
アデレードもユリシアも抱き抱えられて、王宮の救護室に向かった。
アデレードはすでに意識なく、ダリルの腕の中で眠っている。
ウォルフとベイゼル、マックスと警護の騎士達は、犯人達を縛りあげ、軍部に連行する。
第2王子が先導して護送する様は人々の注目を集め、様々な噂が飛び交う事になる。
厳重に警備された部屋で、眠ったまま目が覚めないアデレードとユリシアが医師の診察を受けた。
マックスから連絡を受けたのであろう。王妃サンドラが部屋に入ってきた。
礼を取ろうとするユリシアに、必要ないと言う。
「大変でしたね。
すぐにサンベール公爵もいらっしゃるでしょうから、それまで休んでいらして。」
ユリシアに優しく言うと、アデレードの元に駆け寄り手を取る。
「ミュゼイラ、医師はなんと?」
アデレードの手を撫でながら、王妃が聞く。
「はい、王妃様。
大きな外傷はありませんが、衰弱がひどく、しばらく安静が必要だそうです。」
「そう、可哀想に。
ミュゼイラとアリステアは交替で、アデレードについてもらえるかしら?」
「もちろんです。」
二人の返事を聞いたサンドラは、ユリシアを居間の方に誘った。
侍女に支えてもらってユリシアはソファーに座る。
「申し訳ありません。
ケガはないのですが、恐怖のあまり神経が昂ぶっているとお医者様にも言われて。」
ユリシアも疲れがでているのだろう、顔色は良くない。
「無理しなくていいのよ。
貴女には、アデレードの事を話しておこうと思って。」
カチャン、とサンドラがティーカップをソーサーに置く。
「王妃様。」
ユリシアが気になっていたことだ。
「アデレードは、来月お披露目する予定の王家の姫です。
陛下の亡き妹、ロクサーヌ姫の娘になります。
国内外の調整の為、それまで秘密にすることが必要なのです。
協力していただきたいの。」
王太子の従妹になるのだ、それであんなに親密なのだと納得する。
「もちろんですわ。
彼女は私の命の恩人ですもの。」
その言葉に嘘はない。
アデレードと一緒でなかったら、すぐに諦めていただろう。
諦めずに頑張ったから、助けてもらえたのだ。