マックス・バーラン
「あれ、ガリガリがいるぞ。」
マックスが視線で教える方向をショーンが見た。
アデレードがいる。
マックスはショーンと、紹介されてすぐに意気投合したが、アデレードの事をガリガリと言う。
ギリアンの嫌悪を込めた表現とは違い、あっさりしているので嫌味がない。
ダリルから話を聞いているのだろう。
ポツリと可哀想にと言っていた。
マックスにとっても従妹になるのだ。
「陽に当たっていいじゃないか。
どうせ、母上達が体力がないのにって、心配するんだろうけどね。」
ははは、と笑う。
マックスはショーンと同い年だ。
ダリルがもうすぐ18歳になるので、3歳違いということだ。
「兄上。」
マックスが稽古途中でダリルに駆け寄って行くので、ショーンも跡を追う。
「やあ、ショーンも一緒か。」
ダリルの言葉にフランドル隊長が、ショーンを見る。
「噂の留学生か。」
「何だ?」
ダリルは噂を聞いていないのだろう。
「このショーンが、か弱きご令嬢を暴漢から助けたのに名も告げず去った留学生と噂なのです。」
フランドルが部下から聞いたと話す。
ほお、とダリルがショーンを見る。
「当然のことをしただけです。」
ショーンは気負いした風でもなく答える。
「それより兄上。
ガリガリが来てますよ。」
ガリガリの言葉で、ダリルもフランドルも女性達がいる方を見る。
「うわぁ、あれがガリガリか。
なんだ?細いって程度じゃないぞ。
病気か、こんなとこに出てくるな。」
アデレードを見つけたのだろう、フランドルが言った途端、喉元にダリルの剣が突き付けられ、女性達から悲鳴があがる。
「アデレードへの侮辱、決闘だ。」
「殿下!」
止めたのはショーンだ。
「初めて妹を見る人間は、もっとひどい事を言います。
知らないのです!」
剣をお下げください、とショーンが懇願する。
「アデレードは、今まで侮辱に耐え戦ってきました。
アデレードは勇者なのです。
殿下、剣をお収めください。」
ショーンはギリアン達の事を言っている。
「何かわからんが、悪かった。
女性に言う言葉ではなかった。」
フランドルが詫びをいれて、やっとダリルが剣を下ろす。
周りに会話は聞こえていないが、ダリルが剣を下ろしたことで安心したようだ。
部隊長と王太子の間に割って入れる兵士などいない、緊張した空気がゆるむ。
「フランドル、2度目はない。
大事な女性だ。」
「殿下!」
趣味が悪すぎます、という続く言葉をフランドルは飲み込む。
遠目で見ても、異常な細さ。
この留学生の妹らしいが、この留学生自体が怪しい。
何故か王家と親しくしているようだが。
フランドルはショーンを観察するように見る。
「フランドル。」
「はい、殿下。」
「アデレードは、3ヶ月後に披露される我が従妹だ。
王家の姫となる。
そうなれば、護衛に付く事もあろう。
王太子妃と思って仕えて欲しい。
披露までは、内密の事だ。」
あの痩せぽっちの子供が王家の姫、フランドルは驚きを隠せないようだ。
しかも王太子妃だと、優秀な王太子と思っていたが、女を見る目は間違っているとしか思えない。
「残念と顔に書いているぞ。」
ははは、とダリルが笑う。
ダリルがマックスとショーンを引き連れて去って行くと、フランドル派の令嬢を残して他の令嬢達は帰りだした。
アデレードはフルーラと、またここで会おうと約束して別れた。
誰かと、カッコいい男性の話をする、そんな事初めてだった。
なんだ、自分も普通の女の子なんだ、と思う。
ユリシアもフルーラも年頃の娘らしく美しかった。
今の自分では太刀打ち出来ない。
綺麗になりたい、ダリルの為に。自分の為に。
ダリルの横に立つ為に。
「ミュゼイラ、王妃様のご都合を聞いてきて欲しいの。」
今の自分に似合うドレスをサンドラに相談しよう。
ふと思う。
ジェリーも最初は優しかった。
頑なに拒否したのは自分だ。
もし・・。
ふるふると頭を振る。
もし、などないのだ。過去には戻れない、前に進むのみだ。
「アリステア、喉が渇いたわ。お茶ではなく、ジュースがあるかしら?」
いつもアデレードはお茶を好む。透明で底まで見えるからだ。
アデレードの言葉にアリステアの顔に喜びと不安が現れる。
出されたジュースを一口飲む。
大丈夫、とアデレードは確認する。
もう一口飲む。
「美味しい。」
何年かぶりに言う言葉だ。
「姫様。」
アリステアも、王妃のところから戻ってきたミュゼイラも喜んでいる。
二人の気遣いが、とても嬉しい。
美味しいのは、味だけではない、気持ちが入っているからだと思う。
今まで自分の事でいっぱいだった。少し周りの事を見る事ができるのかな、アデレード自身が気持ちの変化に気づいていた。