友達
きゃあー、と声援があがる。
王太子とフランドル隊長が出てきたようだ。
ユリシアは、アデレードなどかまってられないと、練習場の方を見た。
アデレードもつられて、練習場を見ると見目麗しい二人の男性が目についた。
一人はダリルで、もう一人がフランドル隊長なのだろう。
ダリルを見つめるアデレードに、ミュゼイラは息をのむ。
公爵令嬢から目を放さないように警護に注意し、少し離れた場所からアデレードを見る。
目がキラキラ輝いている。ダリル殿下が好きなのだろう、とよくわかる。
ダリル殿下の指示でミュゼイラは、トルスト王国のキリエ侯爵家にアデレードを守りに行った。
やっと、ここに戻ってきたが、自分の責務が終わったわけではないのだ。
ダリルは慣れているのか、女性達が声援をおくるも、一瞥もしない。
アデレードは、バーランに来てから教師の勉強を思い出す。
クルスセン・フランドル第2部隊長、フランドル侯爵家の次男でカルーダ子爵である。
この若さで部隊長とは、武術に優れているだけではないのだろう。
「こんにちは。」
アデレードに声をかけてきたのは、可愛らしい雰囲気の令嬢だ。
「ユリシア様に言い返すなんて、凄いわ。
私は、フルーラ・ボナペリ。子爵家の私には怖くて出来ないわ。」
明るいブロンドに、小花を散らしたドレスが似合っている。
「こんにちは。
私はアデレード。
訳あって家名は名乗れないの。」
アデレードの言葉にフルーラは、爵位のない貧乏貴族だと思ったようだ。
「そのフリルいっぱいのドレスやめたら?」
アデレードだって、アデレードの細い身体にフリルは似合わないと思っている。
「これは、義伯母の好みで・・」
娘に着せたかったと、男の子しかいないサンドラが張り切っているのだ。
だが、アデレードの言葉だと、義伯母のお下がりと思わせる。
「そうなの?」
フルーラもそう思ったようである。
侍女達が頑張ってアデレードを磨いているが、アデレードの肌は潤いが足りない。髪も艶やかになるほどの栄養がない。
肌の抵抗力が弱いため、お化粧もしていない。
頬も肉付きが足りない。
ドレスから出ている腕も首も細過ぎている。
だが、アデレードにとって、ミュゼイラやアリステアの助けをかりて、ここまで回復してきたのだ。
何も恥じる事はない、と思っている。
このドレスだって、やがて似合うようになってみせる。
けれど、ユリシアの言う事もわかる。
意地になって、大きめのドレスと言ったけれど、今の自分が似合うドレスはあるはずだ。
サンドラに相談してみよう。
アデレードの中で小さな変化が起こりつつあった。
「アデレードどうしたの?
王太子様の練習を見ないの?」
考え込んだアデレードを不審に思ったフルーラがきいてくる。
「いいえ、少し考え事をしていただけ。
練習見るわ。」
「こちらの木陰ではなく、少し陽が当たるけど、良く見える場所があるのよ。
そちらに行かない?
ここよりは人が少ないわ。」
フルーラがアデレードを誘ってきた。
アデレードは初めての出来ごとに目を見開いたが、にっこり笑って返事をする。
「ありがとう。
一緒に行きたいわ。」
ミュゼイラは陽に当たるなんて、と体力の消耗を心配するが、アデレードはフルーラの後をついて行ってしまった。
「アデレードは王太子様派?フランドル隊長派?」
「フランドル様も独身なの?
私はダ・・、王太子様がいいわ。
フルーラ様は?」
ダリルと言いかけて、アデレードが言い直す。
「フルーラでいいわよ。
私も王太子様よ。でもライバルがいっぱい。
さっきのユリシア様もそうなの。
フランドル隊長の大人の魅力もいいわよね。
もちろん、独身よ。それも知らなかったの?」
母親に連れられて昼の社交に出るべき年齢に、母を亡くしたアデレード。
大人に囲まれて育ったアデレードは友達がいなかった。
フルーラと話すのが楽しい。
「すごい、今日は第2王子のマックス様も来ていらっしゃるわ。」
見て見て、とフルーラが指さす方向にマックスがいた。
マックスは初日に紹介されたが、それ以降の接触がない。
ショーンがマックスと同じ学校に通い始めたと聞いている。ショーンとも会っていない。
マックスが剣の打ち合いを始めたが、相手に目がいく、ショーンだ。
「あら、あの方。」
フルーラがショーンの事を言っていると気がつく。
「ユリシア様と侍女を、王都で暴漢から救ったのですって。
自分は留学生だからお礼など華美な事は遠慮する、って去られたそうなの。
公爵家が探して見つけたと話題の方なのよ。」
兄らしい、とアデレードが笑う。
「ステキなお話ね。」
「でね、人気急上昇中の方なの。」