表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/78

王宮の生活

王妃サンドラが医師と共に、アデレードの治療についた。

痩せたアデレードは、サンドラの庇護欲をかきたてたのだろう。

治療だけでなく、仕立屋に家庭教師、サンドラが手配し、ミュゼイラとアリステア以外の侍女が王妃のところから回された。

治療と並行して、王女教育が始まった。




グフッ、アデレードが口を押さえてかがみこんだ。

昼食で用意されていたのは、アフタヌーンティーに出るような小さなサンドイッチであった。

ミュゼイラが青い顔のアデレードを別室に連れて行き介抱をする。


食べないといけない、という気持ちが強すぎて、身体が受け付けないのに口に入れてしまった。

「以前より食べれるようになって、無理をしてしまったわ。」

「姫様、焦りは禁物です。」

バーラン王宮に入ってから、アデレードの呼び名がお嬢様から姫様に変わった。


ミュゼイラがアデレードの元に来てから2年が経つ。

安全な食べ物も手に入るようになったが、食べれるようにならない。

栄養不良に陥った期間よりも、長い時間をかけても簡単には治らない拒食症という病。


わかっていても、人から遅れた成長を促したい。

その為には、食物摂取が必要なのだ。

「ミュゼイラ、心配かけてごめんなさい。

出来る事から頑張る。

散歩に行ってきます。体力をつけたい。」

細いアデレードの身体では、激しい運動は危険が大きいが、少しずつ体力をつける練習をしている。


ミュゼイラと警護を連れてアデレードは散歩に出たが、3ヶ月後のお披露目までは、外では貴族の令嬢として過ごしている。

王家に姫が出来た事は、まだ秘密の状態なのだ。


そのお披露目までに、少しでも肉を付けて、普通に近い身体にしたいのだ。

以前の骨の浮いた身体に比べれば格段によくなっているが、それでもまだまだ細い。

女性らしいドレスが似合う体型ではない。


周りには、現在のアデレードよりも美しい女性ばかりだ。

ダリルを信用はしているが、不安でしかたない。

片想いと思っていた頃より、お互いの想いを確認した後の方が強くもあり、弱くもある。




赤い花の続く道を歩いて行くと、軍部に続く道に出てしまった。

軍の練習を見る為に、多くの令嬢達が来ていた。

花に負けない色とりどりのドレスに着飾った令嬢達が、集まって見ている。

少し高台になっていて、そこから練習風景が見えるようだ。


黄色い声援が聞こえるのは、若い士官が練習をしているのだろうか。

戻ろうとしたアデレードに話し声が聞こえた。

「次は王太子様の番よ。

フランドル隊長と並ぶお姿は是非見ておきたいわ。」

王太子様よ、フランドル隊長よ、と令嬢達が騒いでいる。


こっそり覗くならいいわよね、アデレードだってダリルが軍で練習する姿は見たい。


女性達の声がする方向に向かうと、女性達もアデレード達に気が付いたようだが、アデレードの細い身体と少し緩めのドレスにクスクス笑っている。

アデレードは太る予定だからと、少し大きめのドレスを仕立てているのだ。

王妃は、太った時にしつらえればいいと言うのだが、自分で服を縫い直していたアデレードにはもったいなくて出来ない。


軍の練習を見ているのは貴族の令嬢ばかりのようだが、アデレードと一緒にいるミュゼイラに警備がついていると思ったようだ。


「貴女、貴族の令嬢なの?

ずいぶん、みすぼらしいこと。」

豪華なドレスで美しい令嬢がアデレードの前に立った。

「私はサンベール公爵家のユリシア。」

その名前は、ダリルの婚約者候補としてアデレードは知っている。

ダリルを見に来たのだろう、と思うとアデレードの胸に苦いものが湧きあがる。


アデレードは、すっと胸を張って背筋を伸ばした。

「どこがみすぼらしいのかしら?」

自分で言いながら、この細い身体のことだと分かっている。


ユリシアもアデレードが反論してくるとは思わなかったのだろう。

驚いたようだが、すぐにニヤリと笑った。

「そのギスギスの腕や、ブカブカのドレスの事よ。

どこから盗んできたのかしら、と思うぐらい似合ってないわ。」

ホホホ、と笑うユリシアに同意するかのように、周りの令嬢達も笑いだす。


「他には?」

ジェリーにもギリアンにもいろいろな事を言われた。

アデレードは悲しい事に、言われ慣れているのだ。

これぐらいで逃げたりはしない。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ