特別な日
その日は、朝から晴れていた。
数日前からざわついていたベルナルド伯爵家はその日、今までに無いほど騒がしく、活気に溢れていた。
「ロイドさん! 楽団の方が到着しました」
「遅いから心配したが、良かった。控室にご案内して」
「お祝いの品がどんどん届いています!」
「警備の者にきちんとチェックさせてから中に入れるよう徹底しなさい」
「ロイドさん、わたし達接待係はどうすれば……」
「手の空いた者から食事をとりなさい。お客様方がお見えになったら、もう休めないですよ。済んだ者はもう一度、自分の持ち場をしっかり確認するように」
「あの、ロイドさん、料理長がお客様にお出しするお料理の事で確認がしたいそうです。厨房の方にお願いできますか?」
「警備長も、最終確認をしたいと……」
「エリナさんに大至急呼んでくるようにと言われたのですが……」
一度に複数の同行を頼まれたロイドは、すぐに判断し回答する。
「厨房に行った後で行くと警備長に伝えて。エリナには、行けないから自分でどうにかするようにと」
「ええーっ? そんなぁ……わかりましたぁ」
使いのメイドがトボトボと去って行くのを見ながら、『いいんですか?』とニックが尋ねる。
「後で怒られるんじゃないですか?」
「やむを得ない。恐らく、リリーさんのドレスがどうとか、持ち物がどうとかだろうから、そういうことはあちらで判断してもらおう。あと1時間で結婚式とパーティーが始まってしまう。私は執事としての仕事をしなければ。……そうだ、ニック、ミッシェル様のご準備は出来ているか確認してきてくれ」
「えっ? あ、いや、私はロイドさんを呼びに来ただけなので、すぐに警備長の所に戻らないと……」
「戻る前に寄るくらいできるだろう。ついでにキャシーが無理をしていないか見てきなさい。まったく……休みをとるように言ったのに」
「あー、はい、すいません」
頭をかきながら、ニックは急いでミッシェルの部屋に向かった。
「失礼します。ミッシェル様、準備はどうですか?」
「あ、ニック、見て見て! かっこいいでしょう、これ」
部屋に入っていくと、ミッシェルが自慢げに両手を広げ、くるりと回ってみせる。
「父上と同じ、白い近衛騎士団の制服だよ!」
「ほんとだ! 凄いですね、いつもより凛々しく見えますよ!」
「ええ、とても立派に見えますよ。なので! 何か食べたり飲んだりするときは、こぼさないように気を付けて下さいね。白は目立ちますから」
「はーい」
元気良く返事をするミッシェルに、キャシーは微笑みながら、目立ってきたお腹をさすった。
その姿を見て、ニックは少し眉を寄せる。
「お前が無理をしていないか、ロイドさんが心配してたぞ? 大丈夫か?」
「あー、大丈夫大丈夫。出産はまだ先だし、今一番安定している安全な時期だから」
「いや、妊娠中に、安全な時とかってあるのかよ……見てるこっちがハラハラするぜ。ロイドさんが言うように休めば良かったのに……」
「イヤよ! 旦那様とリリーの結婚式なのよ!? 休んでいられるわけないじゃない! 見て! この日の為に、スピカとチェイスにも素敵なお洋服を……って、やだっ! チェイス、なんでそんなボロボロにしちゃったの!?」
花のモチーフとフリルが付けられたワンピースのような服を着せられたスピカと、ベストだったと思われる布を背中に乗せ、ブンブン尻尾を振っているチェイス。
「チェイスがおとなしくそんなの着ているわけないだろう?」
「あーもう、せっかく作ったのに……じゃあチェイスは首に蝶ネクタイするだけでいいわ、まったく……。ところで、わたし達そろそろリリーの所に行くけど、ニックはどうする?」
「ん? じゃあ、一緒に行ってみて、様子をロイドさんに伝えようかな」
「そう。じゃあ行きましょ」
そうして全員ぞろぞろと、花嫁の控室へと向かった。
「あーどうしよう、あー緊張する」
「あーあー言ってないで、何か食べなさい。花嫁さんはパーティーではあまり食べられないんだから」
「でもエリナさん、緊張しすぎてなんだか気持ち悪いし、お腹締め付けられてて苦しいし、白いドレスにシミとかつけちゃいそうで、怖くて食べられません!」
「料理長さんが、一口で食べられるものを用意してくれたから、見てごらんなさい。……それにしても、あの人ったら忙しい忙しいって、リリーさんの事は全部わたしに任せっきりにするなんて!」
「……あ、ごめんなさい」
さっきまで食べられないと言っていたが、いざ、色とりどりの小さくて可愛いパンやお菓子を見たら食欲がわいてきて、さっそく摘まみだしたリリーが、すまなそうに言う。
「こういう事ってわからない事だらけで、全部エリナさんに任せちゃって……」
「ああ、いいのよ! リリーさんは気にしないで。わたしがやりたくて夫に頼み込んだ事ですもの。ただね、わたしだって、迷う事があるじゃない! 相談したい事があるじゃない! ああ、首飾り、どれにしようかしら。やっぱり一番豪華な物がいい? でも、こっちのリリーさんの瞳と同じ色の方がいいかしら」
「あ、あの……それなら最初に決めてた方の……」
「思い切って、真珠にしちゃう? あら、これもあったわね……これもなかなか……」
そうやって、エリナが悩んでいるところに、キャシーが顔を出す。
「どうしたんですか? エリナさん」
「あらキャシー、いい所に来たわ。ちょっとこっち来て。あー、ニック! あなたはそこまでよ。旦那様より先に、花嫁さんを見るつもり?」
「あ、そっか! はい、すいません。準備の方はどうですか? ロイドさんも気にしてましたけど、いろいろ忙しくて来られないみたいだったから。なんか伝えますか?」
「いいわ、どうにかするから。キャシーが来てくれたから、大丈夫よ」
「わかりました、そう伝えます」
そう言って、ニックは駆け足で去って行き、キャシーは控室に入ると、リリーの姿を見て歓声を上げた。
「うわー、リリー、すっっっごく綺麗よ。綺麗ですね! ミッシェル様」
「うん! とってもきれい!」
「ありがとうございます、ミッシェル様も素敵ですよ。ところでキャシー、あなた、大丈夫? 椅子に座った方がいいわ。あとこれ、キャシーも食べて。赤ちゃんの分も食べなきゃ!」
「もう、リリーまでそんな……大丈夫よ。でも、せっかくだからお言葉に甘えて……あ、これミッシェル様が好きなお菓子ですよ。いただきましょうか」
そうして、キャッキャと軽食を摘まんでいるところを、エリナが覗き込む。
「ちょっとキャシー、食べながらでいいからこれ見て! こっちとこっち、どっちの首飾りの方がいいと思う?」
「えっ? もう決めてたんじゃないですか?」
「決めてたんだけど、いざ今日になったら、本当にこれでいいか悩んじゃって」
「んー……リリーはどっちがいいの?」
「えーと、決めてたこっちでいいかなって……」
「でもこっちの方が華やかじゃない?」
実は、何度か『決めていた方で』とリリーは言っていたのだが、エリナは迷い続けていた。
その状態を察し、キャシーは『リリーもこう言ってることですし、予定通りでいいのでは?』と言う。
「ドレスに一番合ったものを、ということもあって決めたんでしょうし」
「……そういわれてみると、そうね、そうしましょう」
ようやく迷いが無くなり、エリナが首飾りをリリーに付けていると、
「こんにちは。今日はいい天気で良かったねぇ」
紺色の落ち着いたドレス姿のカミーユが、ルウと一緒に控え室にやってきた。
「パーティーが始まる前に、ちょっと顔を見ておこうと思ったんだが、準備の邪魔になるかい?」
「丁度、支度ができたところですよ。さあ、見てやって下さい」
ニコニコと、エリナが対応する。
「ああ、これはいいね! 素晴らしいドレスと宝石だ! リリーによく似合ってる」
「ドレスは、ディガル侯爵夫人のご厚意で、王室専用工房で仕立てていただいたものです。そして宝石類は、伯爵家に伝わる逸品です」
「なるほど、素晴らしいはずだね」
「……それが、素晴らしすぎて、わたしなんかが身に着けていいような物じゃなくて……」
「なに言ってるんだい! リリーはもう伯爵夫人になるんだから、そんな情けない事言わないで堂々としてなさい! それに、ホップ侯爵の養女になって三か月間、住み込みで夫人から行儀作法をしっかり学んだんだろう?」
「……はい……」
「だったら、ホップ侯爵夫人の為にも、今日しっかりと貴婦人らしく振舞わないと!」
「……うう、緊張で具合が……」
「おっと、気負わせすぎたかい? まあ、大丈夫さ。こういう祝いの場は、あまりみんな、見てないものさ」
「そうそう、カミーユさんの言う通りよ。それに、何かあったらリュカ様がフォローして下さいますよ。さて、わたしはちょっと会場の方を見てきますね」
「あ、わたし達もそろそろ会場の方に行かないと」
「それじゃあすいませんが、カミーユさん、ちょっと行ってきますね」
そう言うと、カミーユとルウを残し、全員控室を出て行った。
「リリー、本当に綺麗だわ。」
皆がいなくなったのを確認し、ルウがリリーに話しかける。
「さっきちょっと話したんだけど、スピカさん、とても喜んでいたわ。死ぬ前に、あなたの花嫁姿が見られて良かったって」
「えっ? スピカお姉さま、具合が悪いの?」
驚くリリーに、ルウが笑いながら『大丈夫』と言う。
「年齢的に、ってことよ。全く問題なく、お元気だから安心して」
「なんだ、良かった~。猫になれなくなってから、お姉さまやチェイスと話しができなくなっちゃって不便でしょうがなくて……」
「まあ、それはね……。でも悪い事だけじゃないでしょ? 猫の姿にならなくなったおかげで、こうやって結婚もできる訳だし。ねっ」
「でも、正式に結婚となると不安で」
大きな溜息をつくリリーに、カミーユは笑いかけた。
「大丈夫さ。リュカ様がリリーと結婚したいのは、貴族の妻としてそれらしく振舞ってもらいたいわけじゃなく、結婚しなけりゃ、今までのように毎日会う事ができないから、なんだから。そう言われてるんだろう?」
カミーユに尋ねられ、リリーは頷く。
「わたしが人間の姿になれた原因はわからないし、今後、どうなるかもわからないし……結婚なんて無理だと思ったんですけど……」
「だからこそ、一緒にいられるうちに、できるだけ一緒にいたいって、リュカ様たっての願いだったからねぇ。」
『心配ばかりして、貴重な時間を無駄にしたくはありません。誰だって、次の瞬間、どうなっているかわかりません。ならば私は、多少のリスクがあろうとも、リリーと共にありたいのです』
そう言って、決して結婚を諦めなかったリュカを思い出し、カミーユは笑った。
「猫にならなくなったあんたを、体調管理の意味も含めて預かってた時は、毎日毎日うちに通って……ちょっと邪魔なくらいだったからねぇ。それに元々リュカ様は、社交界とか貴族同士の付き合いとか、必要最低限にしかしない方だろう? 今日のパーティーでさえ、やる予定がなかったところを、一度はきちんと紹介した方がいいと周りに言われて、渋々承諾したとか」
「そうみたいです……」
「招待客は、リュカ様の同僚がほとんどだっていうし、彼の性格をよく知る人達だから大丈夫さ」
「そうよ、リリー。さ、そろそろ時間みたいよ」
ルウがそう言った直後、エリナが控室に入ってきた。
「さあ! 行きましょうか。リュカ様の所へ」
ベルナルド伯爵家の庭に集まった人々は、美しく飾られた庭で、今日の主役が現れるのを待っていた。
「リュカの奥方は、庶民の出だけどすごい美人らしいな」
「しかも副団長の養女になったそうだから、侯爵令嬢だ。すごいよな」
団員達のそんな会話を聞きながら、団長夫人であるマリアンヌが不服そうに口を尖らせる。
「わたくしも、養女に迎える準備があると申しましたのに、リュカ様に断られてしまいましたの。なにが不服だったのかしら」
「不服など、あるはずございません。ただ、わたくし達の方が、なにかと都合が良かっただけですわ。わたくしどもには子供がおりませんし、それに聞けば、アンジェレッタ嬢とミッシェル坊ちゃんは、近々婚約の予定だとか。そうなると、リリーはアンジェレッタ嬢の義姉であり義母という、難しい関係になってしまいますでしょう?」
リリーの養母となった、ダイアンの妻のメアリになだめるようにそう言われ、マリアンヌは手にしていた扇子で、パシッと手のひらを叩いた。
「そういえば、そうね。いやだわ、わたくしったらちゃんと考えずに。ほら、リリーさんってアンジェレッタが誘拐された時、救い出してくれた恩人だから、とにかくなにかお礼がしたくて……その事ばかり考えてましたわ。失礼しました、ホップ夫人」
「とんでもないですわ、マリアンヌ様。マリアンヌ様には、素晴らしいドレスを頂いて……リリーは本当に、幸せ者です。わたくしも母として、できるだけの事をしたつもりですが、なんせわたくし自身、これまで体の調子が悪く、社交界にはあまり出ておりませんでしたので、そのあたり、社交界の花であらせられるマリアンヌ様にご指導いただけたらありがたいですわ。どうぞこれからも、娘をよろしくお願い致します」
「ええ、ええ、それは勿論。ドレスの採寸や仮縫いの時にご一緒して、わたくし、リリーさんの事、とても気に入りましたもの。それにしても、ポップ夫人のお加減が良くなって、本当に良かったですわ」
「ええ。良い薬を手に入れる事ができまして。実はそのお薬を作っている薬師様は、リリーの知り合いの方なのです。ですからわたくし、以前からベルナルド伯爵には恩返しをしたいと思っておりまして、今回のお話は、こちらとしても有難かったんです。ねえ、あなた」
「ああ」
一言そう答え、ムスッとしているダイアンに、デューイは弱い酒の入った細いグラスを渡し、自分もグラスを持ち上げると、軽く合わせた。
「花嫁の父上殿、乾杯」
「……養女にして数か月だが、なかなか、感慨深いものがあるものだな。短い期間でも一緒に住んでいるうちに情が移るものだ。メアリも彼女を気に入って、もっと一緒に暮らしたいと言っていたほどだ」
「あー、確かに、そういうものかもな。……ところで薬師って、一年前のあの夜、一緒にいた女性だよな。俺、馬車にも一緒に乗っていて、長い時間一緒にいたはずなんだけど……なんだか、あんまり覚えていないんだよな……」
「そうなのか? 『疲れただろうから』と、回復薬を貰っていただろう。それも覚えてないのか? おお、噂をすれば……あの、紺色のドレスの女性だ。妻の薬の礼を言わねば。カミーユ殿!」
軽く手を上げ声を掛けたダイアンに軽く会釈をし、カミーユが近づいてきた。
「ホップ侯爵様、奥様、お元気そうでなによりです」
「カミーユさんのお薬のおかげですわ、ありがとうございます。あら、かわいらしい猫ちゃん。……リリーちゃんではないんですよね?」
「ええ。リリーの母猫です。リリーはずっと、行方不明だそうで」
「……あれは、とても良い猫だった。残念だ」
渋い表情でダイアンが言う。
「わたくしも一度、リリーちゃんに会った事があるんです。とても可愛くていい子でしたわ」
「……そう……いい子だった……」
不意に、すぐ横で料理の並べ方を指示していた男が絞り出すように言い……ハッとしたように深々と頭を下げた。
「すいません、つい……」
「いや、構わない。あなたも、猫のリリーの事が?」
「あ、はい。私、伯爵家の料理長をしておりまして。リリーは本当に可愛いし賢い猫でした。いつもわたしが作った食事をおいしそうに食べて……。急にいなくなってしまって、寂しくてしょうがないですよ。どこかで元気にしているといいのですが……」
「うむ……確かに寂しい。……カミーユ殿、もしこちらの猫ちゃんが子猫を産んだときには、是非譲っていただけないかな?」
「そのときは是非、伯爵家にも!」
「え? ええ……まあ、もしそのときは……。でも、同じ母猫から産まれたからといって、賢いとはかぎりませんよ? リリーは特別で……」
「ああ、それは別に構わない。賢くても賢くなくても関係ない。猫は、とにかく可愛いから」
「ですよね! うちの場合は、旦那様が可愛がっていたリリーの弟妹ってことになれば、飼う許可が下りやすいかと思いまして。おっと、そろそろ厨房に戻らないと! 今日は最高の料理をお出ししますので! それでは、失礼致します」
そう言って、料理長は屋敷の方へ去って行き、
「では、わたしも失礼します。この猫、こちらのワンちゃん達と仲がいいもので、連れてってやらないと」
カミーユもその場を去る事にした。
「ほう、それは珍しい。我々も後で行ってみよう」
「ええ、あなた。是非!」
そう笑顔で言う猫好きのホップ侯爵夫妻と別れて歩き出し、胸に抱いたルウにこっそり話しかける。
「……ルウ、どうする? 子猫を期待されてるが」
「素敵な雄と出会ったらね。それにしても団長さんは、あなたの事すっかり忘れているみたいね。あの時回復薬と謀って飲ませた忘却薬、よく効いたみたいね」
「屋敷に入るタイミングを指示したりした事で、何者なんだ、と言われてしまったからねぇ。今日会うのがちょっと不安だったんだが、ほっとしたよ。さあ、あそこでみんなと一緒に、二人の晴れ姿をみようじゃないか」
手を振るキャシーとニック、そしてちぎれんばかりに尻尾を振っている二匹の犬のところへ、カミーユはゆったりと向かった。
「さあ、いよいよ本番よ。行きましょう」
エリナにそう言われ、リリーは緊張しながらパーティーの準備がされた庭へと出る、屋敷の正面扉へ向かった。
そこには、先に着いたリュカが待っていて、
「……リュカ様……」
特別に仕立てた、白い近衛騎士団の団服姿のリュカに動揺してしまう。
『うわー、かっこいいかっこいい!! やっぱり結婚式をすることにして良かった! メアリお母様、お母様の言う通りでした!』
当初、こういった披露目の催しを行う予定はなかった。
しかし、リュカから『やはり、同僚や親戚関係の者達くらいには、リリーを紹介した方がいいかと思うのだが……まあ、気が進まなければ無理しなくていい』と言われ、どうしたらいいかリリーは悩んでいたのだが、養母のメアリに相談すると、
「結婚式をするなら、騎士団員は普段のものとは違う、白い特別な団服を着るのよ。わたくし達の時もそうだったのだけれど……かなり素敵よ、白の団服は。あれを見る為だけにでも、やった方がいいと思うけれど……」
と教えられ、リリーはどうしてもリュカの白い団服姿を見たくなり、承諾したのだ。
『本当に素敵! はぁぁぁぁ、素敵過ぎて直視できない!』
見たいのと、見れないのとで混乱してしまったリリーは、真っ赤になって俯いた。
一方リュカの方は、
『……なんて美しいんだ……やはり、結婚式を行うことにして良かった。照れて俯いている姿も、なんと愛らしい……』
リリーが大変だろうと思い、客を呼んでの結婚式、そして披露目のパーティーをするつもりはなかった。しかしデューイに、
『団員とその家族くらいには紹介してくれよ。何かあって、どうしても他家のお茶会や夜会に出なくちゃいけなくなった時、女性の知り合いがいた方が彼女の為にもいいと思うぞ。そういやマリアンヌが、結婚式をするのなら、ドレスを贈りたいって言ってた。特別に、王室専用工房で作らせるそうだ。いくら金を積んでも、王族が依頼しなければ作ってもらえないんだから、滅多にあることじゃないぞ。最高の布で、最高の職人が、彼女の為に最高のドレスを作るんだ。そんなの着たらどれだけ美しいか……見たくないか?』
そう言われ、どうしてもリリーの花嫁姿が見たくなったリュカは、リリーにある程度の負担をかけてしまうことは承知で、結婚式をしようと提案したのだが、
『良かった、本当に』
そう、しみじみと思うのだった。
「……リリー、息を飲む美しさだ」
「あ、ありがとう、ございます。でもわたしより、リュカ様の方が……なんかもう、キラキラ輝いているみたいで……素敵です!」
「いや、リリーの方が輝いている。本当に美しい」
「いえ、わたしなんて、ドレスと宝石のおかげで……」
「さあさ、お二人とも! 褒め合うのはそのくらいにして下さい。お客様がお待ちですよ」
にこにこしながらエリナが言い、二人は赤くなりながら正面を向いた。
「リリー」
「はい」
脇をあけ、組みやすいように出されたリュカの腕に、リリーは自分の腕を絡めた。
大きな両開きの扉が、ゆっくりと開かれ、日の光が差し込む。
「父上、母上、おめでとうございます!」
扉のすぐ横に立っていたミッシェルが、ペコリと頭を下げた。
「ミッシェル様、母上って……」
「エヘヘ。もう、母上って呼んでいいんですよね? 父上」
「そうだな」
にっこりと微笑むリュカに、感動して思わず涙目になってしまうリリー。
「お義父様、お義母様、おめでとうございます。お義母様、とってもお美しいです!」
ミッシェルの横にアンジェレッタが並び、目をキラキラさせて言う。
「すごく素敵です! 二人が並んでいると、もう、完璧です! とってもお似合いです!」
「ありがとうございます、アンジェレッタ様。ミッシェル様とアンジェッタ様も、とってもお似合いですよ。小さな花婿さんと花嫁さんみたいです」
そう言われ、嬉しそうにしているアンジェレッタに、ミッシェルは白い花びらが入った籠を渡した。
「さあアンジェ、僕たち、お花をまかなきゃ!」
「はい! ミッシェルくん!」
二人が、花びらを巻きながら先を行き、その後を、盛大な拍手に迎えられ、リュカとリリーが進む。
特別な、幸せな日。
その日はとてもとても、素晴らしい日だった。
第三章完結。そして、この話は完結です! 最後まで読んでいただきまして、本当にありがとうございました。




