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猫に転生しましたが、思ったよりも大変です。  作者: カナリア55
第二章

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35 事件について

 翌日、いつもよりだいぶ早い時間。

 デューイが近衛騎士団の団室へ行くと、既にほとんどの団員達がいて、難しい顔で話をしていた。


「おはよう、皆、随分早いな。ん? リュカまでいるのか、今日は休んでいいと言っといただろう?」

「おはようございます、団長。確かにそう言われましたが、我が子の件で皆に迷惑をかけたのに休むわけにはいきません」

「まあ、お前ならそう言うと想像できたがな」


 苦笑しながら、デューイは部屋にいる団員達を見回した。


「皆、昨日はよくやってくれた。おかげで俺の娘とリュカの息子、二人とも無事に救い出す事ができた。捜索に加わってくれた者は勿論、残って本来の任務を務めてくれた者達も、本当に感謝する。で、もう耳に入っているかもしれないが、今回の事件について残念な知らせがある。誘拐に係わった者として、我々の仲間のジフリー・コッティが捕まった」


 その言葉に、『だから本当だって言っただろう』『間違いだったら良かったのに』等の声が上がる。


「詳しい調べはまだだが……状況から見て間違いないだろう。詳しい事はわかり次第知らせる。という事で、我々は本来の任務に戻る。リュカはこの後俺の部屋へ来い。以上!」


 ガヤガヤする中、リュカはデューイに続いて団長室へ入った。


「全く……仲間から犯人が出るというのは、やりきれんな」


 溜息をつき、大きな革張りの椅子に腰かけるデューイの横に立ち、リュカは今朝聞いた話が本当か尋ねた。


「犯人の馬の後を追い山小屋に辿りついたところ、男二名は既に殺されており、そこに返り血を浴びたジフリーがいたとか」

「ああ。最初は犯罪者を見つけ、襲い掛かられたので返り討ちにしたと言ったそうだが、その説明が何やらおかしくて。その場は強引にそれで押し通したが、その後、兵から報告を受けた団員数人があいつの家に行ったところ、逃げる準備をしていたそうだ」

「そうですか……」

「あと、うちの屋敷の護衛のジェイムスな。あいつも昨日、犯人捜しに参加するとか言って、そのまま逃げようとしたから捕えてある。他の仲間が殺された事を話したら、酒場で知り合った男に頼まれたと自供し始めたそうだ」

「その男は、アンジェレッタ嬢もミッシェルも知っているのですから、言い逃れできませんからね」

「そうだな。リュカの方はどうだ? 何かわかった事は?」

「ミッシェルに聞いた事なので、団長も既にアンジェレッタ嬢から聞いているかもしれませんが」


 リリーが言ったと話せば、いつからその場にいてどこで聞いていたのか説明出来ない事が出てくるので、ミッシェルに聞いた事にしてリュカは話した。


「最初は、アンジェレッタ嬢のみを誘拐する予定だったようです。ミッシェルについては「もう一人の邪魔者の子供」という事で、都合が良かったようで。あと、二人の他に小屋に様子を見に来た鳥の仮面を着けた若い男がいて、子供達を見て「なるほどなるほど、間違いない」と言っていたそうです」

「ジフリーの口癖と一緒だな」

「はい。勿論、誰でも使う言葉ですが、しょっちゅう『なるほどなるほど』と言っていますからね、彼は。それと、ミッシェルを誘拐したのは予定外だから、指示を仰がなければいけないと言っていたそうです」

「と言う事は、あいつの上に更に誰か黒幕がいると?」 

「そういう事になりますね。団長と私が邪魔な、ジフリーを使いにできる人物が」

「たとえば、彼に目をかけている副団長のダイアン・ホップとか……。ちなみにあいつ、今日は来ていないな。まあ、想像だけで思い込むのは賢明じゃないが、しっくりくる話ではある。ダイアンは年下で団長となった俺の事を敵視している。あいつにとってはリュカも邪魔だな」

「一つの可能性として、心に留めておいた方がいいでしょう」


 渋い表情で頷いたデューイだったが、ふいにリュカを見上げ、


「……ところで、彼女はいいのか?」


 思い出したように尋ねる。


「いいのか、とは?」

「屋敷に残してきたんだろう? 可愛いリリー嬢を。何も知らない屋敷に一人じゃ心細いだろう」

「ああ、彼女も私と一緒に屋敷を出ましたから大丈夫です。それより団長」

「ええ!? そうなのか? 昨日は大変だっただろうに、早くから起こして可愛そうじゃないか」

「大丈夫ですよ」


 本当は、まだ寝ているだろうし、と、今朝出る時に見たリリーを思い出す。


 足を全部しっかりと体の下に入れ、尻尾もきちんと体の側面に付け、頭をベッドにくっつけて、


(今まで見た事ないくらい、箱みたいになって寝ていたが……あれはきっと、恥ずかしがって顔を隠していたんだろうな)


 そう思い、ほんの少し口元が緩んだのをデューイは見逃さなかった。


「なんだなんだ? にやけてるじゃないか。昨日は楽しい事があったのか?」

「……楽しい事はありましたよ」


 その答えに、『何言ってるんですか、全く』と冷たい目で返されると思っていたデューイは、恐ろしいものを見るかのような目でリュカを見つめる。


「リュ、カ、お前、大丈夫……」

「大丈夫ですよ。だいたい、愛する女性と一緒にいて楽しくない訳がないでしょう。ただし、あなたが考えているような事ではありませんがね。それより、早く彼らの尋問をして、黒幕を探し出さなければ」

「まあ、そうだな。じゃあ、あと一つだけ。どうするんだ? 彼女と結婚するのか?」

「結婚はしません」


 即答するリュカに、デューイは眉をひそめる。


「どうしてだ? 身分の問題か? それならどこか然るべし貴族の養女にすればいい。俺も力になれるぞ」

「そのつもりはありません。彼女を、堅苦しくドロドロとした貴族の世界に入れたくないのですよ。結婚なんてしなくても、私が彼女を愛している事に変わりはありませんから」

「とはいえなぁ……」

「団長、いい加減、尋問を始めなければ」

「まあ、そうだな……。もし気が変わったら、俺に言うんだぞ!」

「わかりました。お気遣い、ありがとうございます」


 そうして二人は、団長室を出た。




「……全部、私が考え、行ったことです。子供が誘拐されれば、団長は国王陛下の信頼を失い、失脚するのではないかと……。団長が失脚し、副団長のホップ様が団長となれば、私も出世できると思ったのです。ベルナルドも、邪魔な存在でした。私より年下だけど、団長のお気に入りだし……。そうです、全部私が……」


 それまで、何も話そうとしなかったジフリー・コッティは、黒幕の存在を尋ねると、急に自供を始めた。全て、自分一人がやった事と。


「私は何もしていない。大体こんな事で、ディガルが失脚する訳がないだろう。全く……目をかけてやっていたのにこんな事をするなんて、裏切られたとしか言いようがない。……私は昨日から体調が悪いんだ。どうしてもと言うから無理して来たが、もういいだろう。屋敷に帰らせてもらう」


 ダイアン・ホップ副団長は、関与を全面否定した。


「まあ、言ってる事は正しいな」

「そうですね」

「姿を確認させたところ、うちのジェイムスが飲み屋で知り合ったというのはジフリーで間違いなく、その上に誰かいたかはわからないそうだ。少しでも減刑してもらいたいこの状況で嘘は言わないだろう」

「と、いう事は、ジフリーが本当の事を話さない限り、これ以上の事は無理ですか……」

「そういう事だな。……まあ、今後も調べは続けていこう」


 こうして、事件はとりあえずの解決を迎えた。



とりあえず、ですね。まだまだ本当の解決にはほど遠い。

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