表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫に転生しましたが、思ったよりも大変です。  作者: カナリア55
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/62

31 愛しています

 体が、フワフワする。

 周りの人達の声が、遠く聞こえる。


「彼女は、私が内密に使っている者です。素性は明かせませんが、決して怪しい者ではありません」

「まあ、お前がそう言うのなら……しかし、どうやって子供らを救い出したのか、犯人はどうしたのか、そのあたりの事をだなぁ」

「犯人がいた森の奥の小屋に、眠り薬を焚いて二人を救い出したようです。ここへ来るのに使った犯人の馬を、今兵士達が追っているそうです。その場所まで行けるかどうかは分りませんが」

「彼女にその場所まで案内してもらおう!」

「街の明かりを探して必死に逃げてきたそうです。わかる限りの事を聞いて、可能性がある場所を割り出し兵に行かせます。が、これから彼女に案内させるのは無理です。もう、休ませないと。あんな状態ですから」

「確かに気が抜けてしまって、心ここにあらず、って感じだが……お前のせいじゃないのか?」

「は? 私の?」

「お前がこんな所であんな事するから……」


 デューイとリュカの会話を、ぼんやり他人事のように話を聞いていたリリーは、真っ赤になって俯いた。 


「……はぁ、なんなんだ、全く。昼間、再婚はいいだの、リリーがいればいいだの、さんざん言ってたくせに」

「彼女がリリーですよ」

「はあ!? どう見たって猫じゃないだろうが!」

「彼女、リリーという名なんです」


 しれっと言うリュカに、デューイは溜息をついたが、


「まあいい、わかった」


 そう言うとリリーの前に移動し、目線を合わせるようにしゃがみこんだ。


「私は近衛騎士団団長のディガルだ。アンジェレッタは私の娘なんだ。救ってくれた事、心から感謝する。詳しい事は後日聞くことにしよう。今日はゆっくり休んでくれ。あー、あと、何か困ったことがあった時には力になるからな。いつでも頼ってくれ」

「は、はい、ありがとうございます」


 ペコリと頭を下げたリリーの肩に、リュカが手を置く。


「さあ、帰ろう」

「はい……えっ、どこに……」

「屋敷に決まっているだろう。ミッシェルと一緒に」

「えっ? でもわたしはお屋敷に行くわけには……」

「もう、一瞬だって手放す気はないからな」


 慌てるリリーに、リュカは真顔で言う。


(座ってなきゃ倒れてるわ、絶対……)


 リュカの変わりようにリリーはついていけず、真っ赤になってうつむくしかなかった。

 そのうち、馬車の用意ができたと知らせが入り、アンジェレッタを抱いたデューイと、ミッシェルを抱いたリュカが外に出る。


(リュカ様はああ言ったけど、本当についてっていいの?)


 そう戸惑っているリリーのところに、ニックがやって来て頭を下げる。


「旦那様の大切な方だとは知らず、先ほどは失礼致しました」

「ああっ! いえ、こちらこそ! ちゃんと説明もせず……その……なんと説明していいのか、本当にわからなかったんです。すみませんでした」

「いいんですよ。さあ、旦那様がお待ちです、行きましょう。……それと」


 声を潜め、リリーの耳元で囁く。


「さっき言ってた犯人の件。リュカ様に、そして侯爵様にも報告済みなので安心して下さい」

「あ、ありがとうございます」


 そう、この事件はまだ終わってはいないのだ。


(でも、この先は団長さんやリュカ様にお任せしよう)


 そう思いながら、リリーはニックに促され、リュカの待つ馬車に乗り込んだ。 




 疲労と安堵と、照れからくる気まずさもあり、馬車の中では二人とも無言のままだった。

 屋敷に着き馬車を降りるとすぐ、目を真っ赤に泣きはらしたキャシーが駆け寄ってきた。


「ああ、ミッシェル様! よくご無事で!」

「ん……あー、キャシー」 


 眠り薬の効き目がようやく切れてきたミッシェルが、薄く目を開ける。


「あ……父上……リリーも……ここは、おうち? アンジェちゃんは……」

「安心しなさい、アンジェレッタ嬢も無事だ。彼女も屋敷へ戻ったよ」

「よかった……」


 そう言うと、また眠そうに目を閉じる。


「ミッシェルを部屋に運んでやってくれ。私も後で行く」

「かしこまりました。」


 ニックがミッシェルを抱き、キャシーが横にピッタリとついてミッシェルの部屋に向かう。


「旦那様、本当にご無事でなによりです」

「ああ、心配かけたな、ロイド」


 執事のロイドは、心底ホッとしたような笑顔だったが、


「旦那様、そちらのお嬢様は……」

 

 リュカの後ろにピッタリくっつき隠れているリリーに気づき、尋ねた。


「彼女が、ミッシェルを救い出してくれたんだ」

「それはなんと! ありがとうございます」


 片手を胸に当て、深々とお辞儀をするロイド。

 そんなロイドにリュカは、些細な補足、というように、


「そして、私の最愛の女性だ」


 とさらりと言う。


「……さようでございますか」 


 内心は驚いているだろうが表情には出さず、ロイドは笑顔を浮かべた。


「ようこそいらっしゃいました。さあ、中へ」


 屋敷の中は、少しの使用人しかいなかった。


「ミッシェル様がご無事だったとの知らせを受けましたので、少数を残して休ませました。あまり、騒がしくしてはと思いまして」

「ああ、その方がいい」

「厨房の火は落としておりません。何かお持ち致しましょうか」

「そうだな。ミッシェルと彼女に、食べやすい食事を。彼女の分は私の部屋に運んでくれ」

「かしこまりました、すぐに用意させます」


 そんな会話をしながら自室に向かうリュカの影に隠れるように、リリーはちょこちょこついて行った。

 良く知る屋敷内だが、猫の姿で歩くのと、人間の姿で歩くのとでは印象が全く違う。

 しかも、少数とはいえ使用人達がいるので、その視線も気になる。まあ実際は、教育がしっかりとされている使用人達は頭を下げ、主人の恋人の姿を見ないようにしていたのだが。


 緊張しながらようやくリュカの部屋に着き、二人きりになったのだが、


(これはこれで、緊張するんだけど……)


 そう思いながら、リリーはリュカに促されていつものソファに座った。

 リュカは隣りに座り、すぐにリリーの手を握る。


「ミッシェルの事、感謝する。君が無事で本当に良かった」

「いえ、ご心配をおかけして申し訳ございませんでした」

「……ああ……本当に、心配した……」


 そう言って、リュカはリリーを抱き寄せた。


「考えたくはなかったが、二度と会えないんじゃないかと不安になった。これまでは、そんな事無いと自分をごまかしていたが、今回の事で、私はリリーを愛しているのだと思い知らされた。今こうやってリリーを抱きしめる事ができて、本当に良かった。」

「でも……わたしは孤児だし、しかもほとんど猫だし、とてもリュカ様にそう言っていただけるような人間ではなく」

「リリーは?」

「えっ?」

「リリーは、私の事をどう思っている?」


 少し体を離し、目をじっと見つめながら問われる。


「わ、わたしは、その……」


 見つめられ、頭がクラクラしてくるのに耐えながら、リリーは答えた。


「リュカ様は素敵です。かっこよくて、大人で、冷静で、優しくて……」

「…………」

「そのぉ……」


 続く言葉を。

 並べたてた褒め言葉以外の言葉をリュカが待っている事は、リリーにもわかっていた。


(ちゃんと、言わなきゃ。わたしの、本当の気持ち)


 緊張で息苦しくなり、深呼吸を繰り返してから、リリーはリュカ見つめた。


「わたし、リュカ様を愛しています。庶民だから、猫だから、好きになってもどうしようもないってわかっていても、気持ちを変える事はできません。リュカ様の事が大好きです!」

「君がそう思ってくれていて良かった……リリー」

「リュカ様……」


 ゆっくりとリュカの顔が近づいてきて、リリーはそっと目を閉じた。が、


「コンコンコン」


 大きなノックの音が響く。

 驚いてリリーは目を開けたが、リュカは気にせず口づけをしようと迫ってきていて、


「リュ、リュカ様! 誰か来ました!」

「……放っておけ」

「放っておけません!」


 真っ赤になったリリーが顔をクッションでガードしてしまったため、リュカは溜息をついて「入れ」と声をかけた。


「失礼致します」


 扉を開けて入ってきたのは、ロイドとワゴンを押したメイドだった。


「お茶と食事をお持ちしました。そちらにご用意しても?」

「ああ、頼む。」


 二人の前にお茶と焼き菓子、そしてリリーの前には具沢山のスープとパンが置かれた。


「簡単な物で申し訳ございません」

「いえ! すごくおいしそうです、ありがとうございます」


 ペコリと頭を下げるリリーに、ロイドは優しげに微笑んだ。


「ミッシェル様のところにも運ばせました。それと、入浴の準備もできておりますがいかがいたしましょう」

「リリー、どうする?」

「えっ? えーと……」


 地面を転がったり、ベットの下に潜り込んだり、馬に乗ったり……見ると、全身汚れている。


「入りたいです、もし良ければ」

「かしこまりました。食事が済んだ頃に、お手伝いする者をよこします」

「ああ。それなりの者を頼む」

「はっ、かしこまりました」


 そう言うと、ロイドは下がって行った。


「それなりって……?」

「噂話をしたりしない、しっかりとした者でないとな」


 そう言うと、リュカはさっきの続きとばかりに、もう一度リリーを抱き寄せようとしたが、


「じゃ、じゃあ、わたし、食事いただきます!」


 照れたリリーがスープを食べ始めてしまったので、苦笑しながら、自分もお茶に手を伸ばした。




リュカの変化にタジタジ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ