26 ディガル侯爵邸
『なにこれ……すごいお屋敷……』
侯爵家からの迎えの馬車に乗り、連れて行かれた屋敷を見て、思わず口が開いてしまう。
『立派なうちのお屋敷より、更に更に大きくて立派だわ! さすが、お姫様が嫁いだ侯爵家』
豪奢な客間に通され、ミッシェルの腕の中で口をポカンと開けたまま周りをキョロキョロ見ていると、
「おー、よく来てくれたな!」
大きな声でそう言いながら、大きな身体のデューイが入って来た。その後ろには、二十代後半くらいの美しい女性と、可愛い女の子の姿がある。
「団長、迎えの馬車をありがとうございました。お久し振りです、マリアンヌ様」
三日後の晴れた日。
リリーはミッシェルに抱かれ、四頭立ての馬車に揺られていた。
「いい? 今日は近衛騎士団長さんのお屋敷にお呼ばれしているんだから、お行儀良くしなくちゃダメだよ? いい子にできる?」
「ニャーン!」
元気よく返事をするリリーを、向かいの席に座ったリュカは心配そうに見ている。
あの後スピカに打診してみたが、『ご主人様に協力はしたいけれど、もう年で、最近疲れやすいのよ。できれば遠慮させて頂きたいわ』と辞退された。
『なに!? どっか行くの? 僕も行く!!』そう立候補したチェイスは、大きい犬は必要無いと却下された。
ということで、今回はリリーだけ参加となった。
(なにこれ……すごいお屋敷……)
侯爵家からの迎えの馬車に乗り、連れて行かれた屋敷を見て、思わず口が開いてしまう。
(立派なうちのお屋敷より、更に更に大きくて立派だわ! さすが、お姫様が嫁いだ侯爵家)
豪奢な客間に通され、ミッシェルの腕の中で口をポカンと開けたまま周りをキョロキョロ見ていると、
「おー、よく来てくれたな!」
大きな声を響かせ、大きな身体のデューイが入って来た。その後ろには二十代後半くらいの美しい女性と、可愛い女の子の姿がある。
「団長、迎えの馬車をありがとうございます。お久し振りです、マリアンヌ様」
「本当にお久しぶりですわね、リュカ様。今日はたまの休みだというのに、旦那様の思いつきに付き合ってもらっちゃって、ごめんなさいね」
にこやかな笑顔で話すマリアンヌ。
(うわー美人! 背高い! 顔小さい! さすが王族、気品があるわ。こんなに美人のお姫様が団長さんに一目惚れって……いや、団長さんも強そうで頼りがいがあってかっこいいけど、なんていうか……熊さんっぽいじゃない)
そんな失礼な事を考えながら、リリーはマリアンヌを見つめた。
王族に多い、赤い髪を結い上げ、流れるようなタイトな青いドレスがとてもよく似合っている美女だ。背の高いデューイと並ぶとそうは見えないが、リュカと同じくらいの長身がある。
「さあアンジェ、あなたのためにわざわざいらしていただいたのよ、ちゃんとご挨拶なさい」
そう促され、彼女の後ろにいた小さな女の子が一歩前に出た。
レースと花のモチーフの飾りが沢山ついたフワフワのピンクのドレスのスカートをチョンとつまみ、膝を少し曲げて「ごきげんよう」と挨拶をする。
(この子も赤い髪。お母さんに似てるわね。すっごくかわいい)
「こんにちは、アンジェレッタ嬢」
「リュカ様~ぁ、アンジェ、リュカ様にお会いしたかったです!」
リュカに声をかけられ嬉しそうに駆け寄り、腰のあたりに抱きつく。
「お父上に聞きましたよ。なにか生き物を飼いたいとか?」
「はい! うちには狩りに連れて行く大きくて怖そうな犬しかいないんですもの。わたくし、かわいいネコちゃんとか、ウサギさんとか、小鳥さんが欲しいんです。でもお父様は、何匹も飼うのはダメだって」
「生き物を飼うということは、案外大変ですからね。今日はうちで飼っている猫を連れてきました。息子と会うのは初めてですね」
「こんにちは! ミッシェル・ベルナルドです! 六歳です!」
元気良く挨拶したミッシェルを、アンジェレッタは「あら、わたくしと同い年なのね?」と上から下へ、そして下から上へとまじまじ見ながら近寄った。
「ふうん……あなた、あまりリュカ様と似ていないわね。それにわたくしより背が低いわ。リュカ様の息子だって言うから楽しみにしてたけど、ちょっとがっかり。……それが連れてきたネコ? 黒ネコなのね。真っ黒って、なんだかちょっと怖いわ」
眉をひそめて、大人達には聞こえない小さな声でそう言うアンジェレッタに、顔は可愛いけど性格キツそうな子だと不機嫌になりつつ、リリーは低い声で『ニーィ』と鳴いたが、
「まあ! 綺麗な猫ね。天鵞絨のような毛並みだし、青い瞳は宝石のようだわ。ミッシェル君、ちょっとわたくしに抱かせてくれない?」
母のマリアンヌはリリーを気に入ったらしい。
「どうぞ!」
ミッシェルは、笑顔でリリーをマリアンヌに渡した。
「ん~可愛い。いい子ね~」
(娘は生意気だけど、母親はいい人ね)
喉を撫でられゴロゴロ言いながら、リリーはマリアンヌの胸に頭を押し付けた。
(うわー、いい匂い。あー、この胸の柔らかさ、ついモミモミしちゃう)
「あらこの子、マッサージしてくれているわ。なんて可愛いんでしょう。旦那様からリュカ様はこの猫に夢中だって聞きましたけど、その気持ちが良くわかりますわ」
猫が前足を交互に動かし、モミモミしている姿は愛らしい。
さっき「怖い」と言ったアンジェレッタも、横からその姿を見て抱いてみたくなったらしい。
「お母様! わたくしも抱いてみたいです!」
「順番ね、順番。さあ、お茶でも飲みながらお話ししましょう。リュカ様、こちらへどうぞ。ミッシェル君はどんなお菓子が好きかしら?」
リリーを離したくないマリアンヌは、リリーを撫でながら使用人がお茶の用意をしているテーブルへと皆を促す。
「ねえお母様! わたくしも!」
「アンジェあなた、ミッシェル君にあなたのお部屋を見せてあげたら?」
「じゃあ、ネコちゃんも一緒に連れてく」
「この子はあなたのお部屋なんて見たくないわよ」
「ずーるーい! お母様ばかり!」
「だってこの子、わたくしにすごく懐いているんですもの。ねえリュカ様、この子はなんて名前なのかしら?」
「リリーです」
「まあ、名前も可愛いわね。リリーちゃん、いい子ね~」
マリアンヌは、リリーをいたく気に入ったようだ。
「気を付けて下さい。お召し物に爪がひっかかるかもしれませんよ?」
「少しくらい傷がついても平気ですわ。ああでも、アンジェのドレスは新しい物だったわね。リュカ様にお会いするからって新しいドレスを着たのだから、あなたは抱かない方がいいわよ」
「そんなっ! 大丈夫だもん! ねっ? リリーちゃんはいい子だからドレスを汚したりしないわよね?」
(まあ、爪は立てないように気をつけるけど、毛は付くわよ?)
そんな事を考えながら、リリーはアンジェレッタを見た。
(可愛くて、ちょっと生意気で我が儘なお姫様ね。リュカ様の事が好きらしいけど、だからといって、うちの可愛い坊ちゃんに対するあの態度はあまりいただけないわ。同い年の女の子に小さいと言われて、ミッシェル君傷ついたわよ)
そう思い見てみると、ミッシェルは美味しそうに焼き菓子を食べながら、デューイにオオカミ退治の話を聞いている。
(あら……本人が気にしてないみたいだから、ま、いっか)
ひとまず安心し、マリアンヌの腕の中でリリーはゴロゴロと喉を鳴らした。
しばらくすると、勉強が終わった息子のアレックスがやってきて、全員庭に移動した。
リリーの『リュカ様の上司のご家族なんだからサービスしなくちゃ!』という気合の入った可愛さアピールで、アンジェレッタは猫が飼いたくなったらしい。
「この子がほしい!」と言い出し、一時その場が混乱したが、リリーが大きな緑のイモムシをプレゼントした事により、事態は一瞬のうちに収束した。
「よ、よく持ってくるの? こういう……虫、とか……」
「たまにだよ。他にはクモとかトカゲとか。こういうものをくれるのは、好きってことなんだって。アンジェちゃん、リリーに好かれてるんだよ! 手を出せばのっけてくれるよ。かまない虫だから安心して!」
「わわわ、わたくし、やっぱりウサギか小鳥にしますわ。だから、だから……イヤーッ! どっかにやって! イヤーッ!」
アンジェレッタの絶叫を聞き『うんうん、トンボくらいならまだしも、イモムシは嫌よね。わたしも人間の時は駄目だったわー。猫になったら平気だけど』と頷きながら、リリーは、今やむしろ宝物的に感じられるイモムシを、チョイチョイと前足で触って楽しんだ。
しばらく遊んで飽きたので逃がしてやり、ふと気づくと、大人は木陰のテーブルでお茶を飲み、子供たちは少し離れたところで追いかけっこをしている。
(んー、ちょっと疲れたから……ここは大人の方かな)
ゆっくりと歩いて行き、リュカの足に体を擦りつける。
「ああ、来たのか。おいで」
「ニャーン」
誘われるままに抱きあげてもらうと、リュカが耳元で「お疲れ様」と囁いた。
「少し休むといい」
(お言葉に甘えさせてもらいます~)
リュカの膝の上で丸くなり、目を閉じる。
その様子を、マリアンヌがうらやましそうに覗き込む。
「本当に可愛いですわ。アンジェの我が儘は困ったものだけれど、わたくしも、リリーちゃんが欲しくなっちゃいましたもの。……やはり、譲ってもらうわけには……」
「申し訳ありませんが、リリーは大切な猫ですので」
「そうですわよね。残念だけど、しかたありませんわ」
マリアンヌが名残惜しそうに見る横で、デューイは「そりゃそうだ!」と笑う。
「それにお前だって、虫やらトカゲやらは苦手だろう? やっぱりウサギがいいんじゃないか? それより見てみろよ、三人で仲良く遊んでる。初対面だけれど、ミッシェルはうちの子達と気が合うようだ。ミッシェルは明るく素直で賢い。いい友達になってくれるんじゃないか?」
「思った通りだ」とデューイが笑う。
「いい友人というのは本当に大切だ。アレクは今九歳だ。ミッシェルはアレクにとって、俺にとってのリュカのような存在になってくれると思うんだ」
「私はあなたを友人だとは思った事は一度もありませんよ。あなたは剣の師であり上司です」
「そんな固い事言うなよー」
「フフッ、リュカ様のそういう冷静沈着な所が、アンジェにはとても魅力的に感じられるようですわ。お仕事の件で旦那様の所にいらした時にお会いして以来、「ステキ! 結婚したい!」と言っておりますのよ」
「リュカになら、嫁にやってもいいぞ。お前に「義父上」って呼ばれるのもいいよなぁ」
その言葉に、ウトウトとしていたリリーは飛び起きた。
『うそっ! あの我が儘お嬢様と結婚するんですかっ?』とリュカを見上げる。
そんなリリーの頭を愛おし気に撫でながら、リュカは「デューイ様、ふざけないで下さい」と冷たく返す。
「いやいや、ふざけてないぞ! 貴族の婚姻ではこのくらいの年齢差はよくある話だ。でもまあ、ミッシェルの方が年齢的に合っているから……どうだ? 二人を婚約させるというのは」
「婚約、ですか。まだ早いでしょう」
「そうか? リュカだって随分早くから婚約していたんだろう?」
「ええ。だからこそ、あまり早くから相手を決められるのはどうかと」
「あら……学生時代リュカ様は、言い寄ってくる女生徒達を、自分には婚約者がいるからと冷たくあしらってらっしゃったじゃないですか。『結婚するまでは自由に遊ぶ』なんて平然と言っている殿方も多い中、わたくし尊敬しておりましたのに」
少し非難めいた視線を送るマリアンヌ。
「リュカ様は、オリヴィアをあまり好きではなかったのですか?」
「いえ、そういう事ではありません。私達は互いに、互いの存在を大切に思っていました。それは本当です。ただ、最初からそう決められていて、他の選択など考えた事もなかった、というのも事実だと思うのです」
「……まぁ、なんとなく、仰る事はわかる気もしますが」
「お二人は、お互いに婚約者がいなかったので、今こうやってお幸せなわけですよね」
「あーまあ、そう言われるとなぁ」
「そう、ですわねぇ」
「勿論、互いに好きだというのであれば反対しません。ただもう少し、後からでいいのではないでしょうか。もっと相手の事を知ってからで」
リュカの言葉に、ディガル夫妻も納得したようだ。
なにせ、王族、貴族には珍しく、自分達で結婚相手を決め、そして今、幸せいっぱいなのだから。
「では……リュカ様はどうなのです? オリヴィアの事は悲しい出来事でしたけれど、一年以上経ってますし、そろそろ新しいお相手を……」
「親戚連中からも再婚を勧められているんだろう? 俺だって紹介できるぞ」
「わたくしにも、心当たりがありますわ」
息子の次は自分が標的にされ、リュカは苦笑しながら首を横に振った。
「私はいいです。結婚する気はありません」
「しかしなあ、ミッシェルもまだ小さいし、母親は必要だろう。お前だって若いんだし……なあ」
含みのある言い方にリュカは眉を顰め、マリアンヌはなんの事だかわからないフリをした。
「睨むなよ……実際問題、伯爵家の為にあと一人や二人子供がいた方がいいんじゃないのか?」
「ミッシェルの育児に関しては、子守りも教師もちゃんとつけているので大丈夫です。跡取りに関してもミッシェルがいるので問題ありません。何かあった場合は親戚連中がどうとでもするでしょう」
淡々と話すリュカに、デューイは苦笑する。
「そういう事じゃなくだなぁ……いつまでもそうやって、猫を抱いてるわけにはいかないだろう」
「本当に私はいいです。……そう、リリーがいますからね。リリーがいればそれでいいんです。……リリーが人間だったらいいのに……」
「まあ、リュカ様ったら」
「そんな事言って誤魔化すなんてずるいぞ!」
「誤魔化してなどいませんよ。本心です。本当に……」
そう言ってリュカは、膝の上のリリーを抱き上げ顔を近づけ……、
「ンニャッ」
リリーは思わず両前足をピーンと伸ばし、近づいてくるリュカの顔をガードしてしまった。そしてグネグネと動き、手から逃れて地面に降りる。
「リュカぁ、猫の方は嫌らしいぞ」
からかうようなデューイの声を後ろに聞きながら、リリーはとにかく早くその場を離れようと走った。
(ヤダヤダヤダ、リュカ様ったらあんな事言ってわたしの事からかって! 『人間だったら』なんて! 猫だから、絶対そういう事無いから適当な事言って!)
身体全体を使って、ガシガシ走る。
(でも、ちょっとは人間の姿になるんだけど!)
なんだか無性に悔しくなってくる。
(人間だったらいいけど、猫だから結婚は出来ないって……じゃあ、ちょっとだけ人間なんだから、ちょっとだけ付き合うとか、そういう事はしてもいいなって思っているって事? あーもお! どういう事? さっきはキスしようとするし……って、そうとは限らないよね。ちょっと顔を近づけただけだったのかもしれない、この間もそうだったし……やだ、もう……)
混乱し、リリーはへたりこんでしまった。
(……ダメ。ちょっと気持ちを落ち着かせないと)
「あれー? リリー、来たの?」
その声にハッとして見上げると、そこにはミッシェルが立っていた。
(やだ、わたし、子供達の所に来ちゃったんだ)
慌てて静かな場所に移動しようとしたが、ミッシェルに抱きかかえられてしまった。
「アンジェちゃん、リリー抱っこする?」
「……虫とか、くわえていない?」
「うん、大丈夫だよ。」
ミッシェルに確認してから、アンジェレッタは手を伸ばしリリーを受け取った。
「……ふわふわでやわらかくてあったかいわ。こんなにかわいいのに、虫とかトカゲとかとってくるなんて……」
「すごいじゃないか、狩りするなんて! えらいなー、お前」
そう言って、頭を撫でるアレックス。
ミッシェルよりも三歳年上のアレックスは、赤い髪以外は父親のデューイとそっくりの、気さくな子供だった。
三人は、芝生の上に敷かれた布の上に、輪になって座った。
「なあ、ミッシェルはリュカ様に剣を教えてもらっているのか?」
「ううん、ニックに」
「ニックって剣の先生か? 俺も本当は父上に教えてもらいたいんだけどお忙しいから、いつもは先生に教えてもらってる。ミッシェルは将来何になりたいんだ?」
「僕は父上と同じ、近衛騎士団になる! アレクお兄ちゃんは?」
「俺は近衛騎士団もいいけど、冒険家にもなりたいんだよなー。いろんな国に行ってみたいんだ」
「へー、すごいねー」
「すごくなんかないわよ!」
リリーを撫でながら、アンジェレッタが横やりを入れる。
「アレクお兄様は侯爵家の跡取りなんだから、冒険家なんてダメでしょ!」
「お前がお婿さんもらって跡を継げばいいんだよ」
「じゃあ、リュカ様と結婚するわ、わたくし」
「えっ? リュカ様!? 無理無理、お前みたいな子供、相手にしてもらえるわけないだろう? そうだ、ミッシェルがいいよ。年も一緒だし、俺、ミッシェルが弟だとうれしいな!」
「イヤよ! リュカ様にあまり似ていないし、背だってわたくしより低いのよ!」
「そうか? まだ子供だからだよ。大人になったらきっとさあ。……なあ、ミッシェルはアンジェと結婚したいか?」
「え、僕……」
ツン、としているアンジェレッタを見て、ミッシェルはもじもじしていたが、なにやらアレックスの耳元で囁いた。そしてそれを聞いたアレックスは、愉快そうに笑い出す。
「あっは! そりゃそうだ!」
「なんですの!?」
あまり良い事は言われなかった雰囲気を感じ取り、アンジェレッタが大きな声で尋ねる。
「ん、なんでも……」
「ミッシェルはさぁ、もっと優しい子の方がいいってさ!」
「あ、ダメだよ言っちゃ!」
ミッシェルは慌ててアレックスの口を押えたが、時既に遅し。
「アンジェはキツイからな! もっとおしとやかにしないと、誰も結婚してくれないぜ!」
(あちゃー、本当の事だけど……というか、本当の事だからもう少しうまく言わないと。……あたた、尻尾握らないで~)
ギュッと尻尾を掴まれ見上げたアンジェレッタは、真っ赤な顔をしてプルプル震えている。
(あーあー、かなり怒ってる。いるのよね、自分は散々嫌だと言ってたのに自分が嫌だと言われると怒る人。アンジェちゃんはまだ子供だし、しかたないか。あー痛いって!)
尻尾を掴む力がどんどん強くなるので、リリーは体をねじってアンジェレッタの手を逃れた。
(あー痛かった。もおっ、毛が乱れちゃったじゃない)
せっせとリリーが毛づくろいをしている横で、スクッとアンジェレッタが立ち上がる。
「わたくしっ、失礼しますわ!」
「あ、アンジェちゃん……」
「ほっとけよ、ミッシェル。アンジェはいつも、すーぐヘソを曲げるんだ」
その言葉で、アンジェレッタはさらに気分を害したらしい。
「お兄様なんて大っっ嫌い!!」
そう言ってどんどん屋敷から遠ざかり、建物の陰に入って見えなくなってしまった。
「おい! そっち行くなよ! 母上達の方に戻れって! あーもお!」
面倒臭そうに立ち上がったアレックスに、「私がお呼びして参ります」と、近くにいた護衛の男がアンジェレッタの後を追って走って行く。
「あっちは森に繋がってるんだ。アンジェは一人で行っちゃダメなのに」
「あの……僕、あやまってくる」
ミッシェルが、すまなそうに言う。
「僕のせいで、アンジェちゃんを怒らせちゃったから……」
「ミッシェルのせいじゃないさ! 元はアンジェが失礼なこと言ったんだし、俺がからかったから」
そんな事を話していると、「どうしたんだ?」と、デューイが大きな声で尋ねた。
「あー、俺がからかったら怒っちゃって」
「まーたかー。おい、もう一人くらい様子を見に行ってくれ。それとアレク! お前はちょっと来い!」
「……ちぇっ、説教だ。ちょっと行ってくる。ミッシェルは気にする事ないからな」
アレックスはミッシェルにそう言ってから、渋々、父親の元に向かった。
それを、心配そうに見送ったミッシェルだったが、
「……やっぱり僕も行ってあやまらなきゃ! あの! 僕も連れてってください!」
後を追う二人目の護衛に声をかけ、一緒に歩き出した。
(あら、ミッシェル君、偉いわ。じゃあわたしも、仲直りのお手伝いしなきゃね)
リリーは辺りを走りまわり、かわいい青い花を見つけ口に咥えた。
(今度は虫じゃなく、お花をプレゼントしてあげよう。ミッシェル君に渡させた方がより効果的ね。ミッシェル君に伝わるといいなー)
そんな事を考えながら、皆の後を追う。
(どこまで行ったのかな? この建物のところを曲がったんだよね。あ、あんな所まで!)
森の入り口付近に、人影が見えた。
(結構遠くまで行ってる。お花探すのに時間かかってたみたい、早く行かなきゃ)
ピョンピョン跳ねるように走り、人影に近寄って行ったリリーだったが。
(……なに?)
その場の異常な光景に、咥えていた花を落としてしまった。
(どういう、事?)
リリーが見たのは、剣で腹部を刺され血を流す護衛の姿だった。
大変!
☆今見るとめちゃめちゃ長い! 三分割くらいにしたいっ!




