表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫に転生しましたが、思ったよりも大変です。  作者: カナリア55
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/62

25 リュカの依頼

 ある日の夜、リリーが人間の姿に変わると、ソファーに深く腰掛けていたリュカが手招きした。


「ちょっと話がある、こっちに来てくれ」


 そう言って、自分の隣りに呼ぶ。


「どうか、しましたか?」


 普段は向い合せて座るのに、わざわざ横に座るように指示され、リリーは少し不安になりながらソファーに腰かけた。


「ちょっと、困ったことになってな」 


 溜息をつき、リリーを見る。


「今度の休み、団長の屋敷に行くことになったんだ」

「団長さんのお屋敷、ですか?」

「断ったんだが、どうしてもと言われてな」

「そうですか……」 


 リュカの上司の近衛騎士団団長、デューイ・ディガル侯爵と会ったのは、十日ほど前だっただろうか。


(恥ずかしい出来事をぶり返したくなくて、あの後団長さんの話は全くしていなかったけど……)


「あの……この間の事で、何か問題が?」


 リリーはドキドキしながらリュカに尋ねた。


「わたしのせいで……団長さんの胸ぐら掴んだことで呼び出されたんでしょうか?」

「いや、あの事は全く関係ない。団長とは長い仲で、あんなのはいつもの事だから安心しろ。さあ、そんな顔しないでクッキーでも食べて」


 テーブル上にはクロモモのジャムが混ぜ込まれたクッキーが用意されている。


(この間採ってきたクロモモ、料理長がいろんなお菓子にしてくれたけど、これで最後って言ってたな。来年はもっと早くから採りに行くように提案してみよーっと)


「団長から何度断ってもしつこく誘われて、しまいには「来てくれないならお前の屋敷に行く」とまで言われてしまった」

「あらまあ……」


 クッキーを一つ取り上げながら、リュカの話を聞く。


「この前は、なんの先触れもなく団長一人で来たからどうでも良いが、侯爵の招待を断り、自分の屋敷に来させるというのはさすがにまずい。しかも今回は、奥方とご息女も一緒だと言う。団長の奥方は、現王のご息女、第三王女マリアンヌ様なんだ」

「えっ? 団長さんって王女様と結婚したんですか!?」

「そう。マリアンヌ様が団長に一目惚れしてな。団長だけならどうでもいいんだが、マリアンヌ様は結婚したとはいえ王族の方だし、あの方の前で団長に不遜な態度をとるのは少々怖いものがある。それで結局、今度の休みにディガル侯爵邸に伺う事になったんだが……リリーにも一緒に来て欲しいんだ」

「えっ? わたしもですか!?」


 やはり、クッキーを食べている場合じゃなかった。

 ゾワッとする感覚に襲われ、口元に持っていっていたクッキーを一旦置く。


(なんでわたし? そういえば、今日はリュカ様、なんだか深刻な顔してた。ハッ! もしかして、わたしの正体がバレた!? それで呼び出しが!? わたし、調べられちゃう!?)


 落ち着くために両手をギュッと握りしめ、横に座っているリュカを見つめた。


「あの……どうして、わたしが?」

「ご息女のアンジェレッタ嬢が、猫やらウサギやらリスやら羊やら……とにかくいろいろなものを飼いたいと言っているらしく、じゃあ、本当に何がいいのか、実際に会ってみようという事になったらしい」

「あ、そういう……」


 なるほど、黒猫リリーに用があるというわけだ。

 予想とは全く違う理由に、拍子抜けしたのとホッとしたのとで、リリーは苦笑しながら「かしこまりました」と答え、返事を聞いたリュカも、ホッとしたように表情を緩める。


「助かる。三日後だ、よろしく頼む」

「リュカ様が難しいお顔してたから、もっと大変な事かと思っちゃいました」

「これより大変な事なんて、そう無いだろう。団長に酷い事をされたリリーには、辛い依頼だ」

「とんでもない。わたしのせいでリュカ様が団長さんの不評をかったらどうしようって気になっていたから……お役に立てるなら嬉しいです」

「いや、あれは団長が悪い。リリーに対してあんな事を……」


 リュカは大げさにではなく、本当にそう思っているらしい。リリーとしても、そう言ってもらえるのは嬉しいが、


「団長さんにとってはただの猫ですから仕方ないですよ。それなのに、わたしが大声を出して騒いだから、リュカ様にご迷惑をおかけしてしまって」

「迷惑などかけられていない。私にとってリリーは特別だ。リリーは……」

「?」


 言葉を続きを聞こうとリュカを見つめるリリーの頬に、リュカの手が触れた。


「え? リュカ様?」


 驚き、リリーは思わず体を引いてしまったが、その分、リュカが顔を寄せる。


「私は、リリーがただの猫じゃない事を知っているのだから。仕方がないでは済まない」

「……リュカ、様……」


 至近距離で見つめられ、心臓がバクバクする。


(ど、どうしよう、カッコ良すぎて視線が外せない。お願い! リュカ様の方から目を逸らして下さい!)


 緊張で、頭が小刻みに揺れているような気がする。


(リュカ様の瞳に吸い込まれそう。ああ、何か……何か言わなきゃ)


 そう思っても、何も言葉が出てこない。


「あ、う……んっ?」


 何も言えないままパクパクさせていた口に、突然何か入れられた。


「んんっ?」

「今度は、きちんと守ると約束する。礼といってはなんだが、このクッキー、全部食べなさい」

「……はひ……いははひまひゅ」


 ガックリし、リリーは咥えさせられたクッキーをかじった。


(……なんだ……なんだなんだなんだーっ! ヤダもおっ、ドキドキしちゃったじゃない! あともう少し遅かったらわたし、勘違いして恥かくところだったわよ! というか、リュカ様、わたしの事からかった? あんな間近でじっと見つめられたら、キスされるんじゃないかと……)


「そうだ、当日はミッシェルも連れて行くことになっているから、よろしく頼む。ああそれと、小型の犬も飼いたいと言っているそうだから、スピカにも行けるか聞いてもらえるか?」 

「はーい、わかりましたー」


 少しふてくされ、クッキーをムシャムシャほおばながらリリーは返事をした。




ドキドキして損したっ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ