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猫に転生しましたが、思ったよりも大変です。  作者: カナリア55
第二章

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24 デューイ・ディガル

 デューイ・ディガル侯爵、37歳。

 恵まれた体格とセンスと努力で、国で三本の指に入る強さと言われる人物で、3年前、エルドナ国近衛騎士団団長に任命された。


「……今日は楽しかった……」


 大きな屋敷の自室で酒を飲むデューイは、すこぶる機嫌が良かった。


(リュカが、あんなに猫好きだとは驚きだった。久しぶりの釣りも楽しかったし、ミッシェル……あの子は利発でいい子だ。リュカよりも、奥方に似ているか?)


 昨年亡くなった、オリヴィアの姿を思い出そうとしたが……、


(あまり覚えていないな。優しそうではあったが、おとなしく控えめで、目立たない女性だった。まあ、あまり会う機会もなかったしな。早くに亡くなったのは本当に残念だ)


 今日行った湖。

 そこから少し奥に入った森の中で、オリヴィアの遺体は発見された。 


(あの時リュカは、俺と一緒に城にいた。知らせを受け、リュカは血相を変えて屋敷に戻り、俺たち近衛騎士団も王の命を受け調査に加わり……犯人は、すぐ見つかった。町のはずれの空き家に住み着いていた盗人。オリヴィアが身に着けていた装飾品を売り払った事で足がついた。殺したのは自分じゃないと最後までシラをきっていた最低の奴だった)


 思い出したらむかついてきて、グラスの中の強い酒を一気にあおった。


「くそっ、せっかくいい気分だったのに」


 グラスを、また酒で満たす。


(そうだ、今日は楽しい日だったんだ。そっちを思い出そう。えーと……そう、リュカ。リュカに恋人は出来ていなかったな。最近雰囲気が柔らかくなったし、夕方にはそわそわし出して勤務時間が終わるとそそくさと帰っていくから、てっきりそうだと思ったんだが……あいつには、幸せになってもらいたいよなぁ)


 リュカと出会って、十年以上になる。

 デューイにとってリュカは、自分の運命を変えた人物なのだ。




 デューイの母は、街の大衆食堂で働く給仕女だった。

 そこにお忍びでやって来た侯爵に見初められ、彼を身ごもった。

 侯爵には正妻との間に息子がいたので、デューイは侯爵家と関係無く、母親と街で暮らしていた。だが8歳の時、その息子が病で亡くなり、急遽跡取りとして侯爵家に引き取られた。


(最初の頃は、親父の正妻に散々いじめられたし、使用人達にも馬鹿にされて最悪だった。幸い、姉のイリーナが優しくて、本当の弟のように接してくれたから、だんだんまともな扱いを受けるようになったけれど)


 現在は夫と共に、王都から離れた領地を統治してくれているし、父と義母と一緒に暮らしてくれている、頼りになる姉だ。

 侯爵家に引き取られてからデューイは、必死に勉強し、武術、剣術を学んだ。

 その甲斐あって、王立学園を優秀な成績で卒業し、家柄の良さもあり、王を守る近衛騎士にまでなったのだが、


(貴族っていうのは、ほんと意地が悪い。近衛騎士団員になる前は、卑しい血が入った奴と言ってたくせに、騎士団員になったら今度は、実力がなくても血統が良いからなれたんだと言い出し、御前試合で優勝したら、育ちが悪い奴の剣は受け慣れてない、とか言ってたな。実力もないくせに血筋第一の奴らは面倒だ』


 デューイが近衛騎士になって間もない頃、剣の実技演習の為に王立学園に行った時もそうだった。

 他の団員達の所へは学生が集まっているのに、自分の前には一人も来ない。


(まあ、想像はしてたさ。さて、どうやって時間潰すか……)


 そう思っていた時、一人の学生が目の前に立った。

 それが、リュカ・ベルナルドだった。


「やめとけよリュカ、そちらの方からは為になる事は学べないぞ」

「品格がなくなるぞ」


 デューイにも聞こえるようにわざと大きな声で言い、それを聞いた者達も笑う。


「……ご学友たちもああ言っている事だし、止めといたらどうだ?」


 きっとあの生徒の親が、そういうことを言っているんだろうと、うんざりしながらそう言ったデューイに、リュカは首を振り、はっきりと大きな声で言った。


「私は騎士希望ですので、ディガル様からご教授いただきたいのです」

「え?」

「私には、ディガル様の強い剣術が一番の理想です」


 そう言われたときデューイは、それまで目の前を覆っていた靄が、サーッと晴れたような感覚になった。


「……そうか、そうだよな。俺たち近衛騎士は王族を守る為にいるんだから。強い方がいいよな!」


 この事をきっかけに、デューイは周りの中傷を気にしないようになった。

 いつの間にか、自分が卑屈になっていた事にも気づけた。

 そしてリュカに請われ、剣術を教える為に定期的に学園に行くようになった。


(で、そこで運命の出会いをしたんだ)


「旦那様! いつまで女性を寝室で待たせるおつもりですか!?」

 

 ちょうどそこに、運命の出会いをした女性が顔を出す。

 長く艶やかな赤い髪、透き通るような白い肌、長い睫毛の大きな瞳に小さな口。

 どこか幼く見える可愛らしい顔立ちだが、胸は大きく、シルクの夜着の胸元がきつそうだ。

 デューイと並ぶと小さく見えるが、女性にしては背が高い。


「あーすまん、今行こうと……」

「嘘ですわね。一人で楽しげにお酒なんて飲んで。よっぽど楽しかったのでしょうね。わたくし達家族をほっぽって、リュカ様の所で釣りをして」

「あー、それは成り行きで……。リュカは、俺が一番信頼して頼りにしている男だし、俺達が出会うきっかけを作ってくれたわけだから、幸せになってほしいんだよ」


 学生時代、学園一女子の人気があったリュカは、デューイと剣の練習をする時も多くの女生徒の見学者を集めていた。その時、友人の付き添いで見学に来て、デューイに一目ぼれしたのが、エルドナ国王の娘、第三王女マリアンヌだった。

 彼女はすぐさまデューイに交際を申し込み、学園卒業後ディガル侯爵家に嫁いだ。今は9歳の男の子と6歳の女の子の母親だ。


「……確かに学生時代のわたくしは、どうせ結婚相手は父上が決めるだろうしと全く殿方に興味ありませんでした。あの時、リュカ様に憧れている友人に付き添いを頼まれなかったら、旦那様と出会う事はできませんでしたし、そもそも旦那様はリュカ様に請われて学園に稽古をつけにいらしてたわけですから、そりゃあ、わたくしだって、リュカ様には感謝し、幸福は祈っておりますが……」

「だろう? いやー、絶対恋人が出来たんだと思ったんだよ。それで見に行ったんだが……予想は外れていた。あいつ、女性の代わりに猫を抱いていたよ」

「まあ! 多くの女性が憧れるリュカ様が、猫ですか」


 クスクスと笑う妻。

 機嫌が直った事にホッとしながら、デューイは彼女の肩を抱いた。


「では、参りましょうか? 王女様。」

「あら、わたくしはとっくに、ディガル侯爵夫人ですわ」


 そう言うとマリアンヌは、大きな夫の胸に頭を押し当てて体を預けた。


「それで……つまりのところ、リュカ様は相変わらずお一人という事なんですね? 残念でしたわね。リュカ様はお強いですけど、心配なところもありますでしょう? 自分の事はあまり顧みないところとか。オリヴィアは大人しいけれども優しくて、リュカ様にはとても良い伴侶でしたわ。ああいう、支えてくれる人が側にいないと心配ですわ、リュカ様って」

「そうなんだよな……強すぎるんだ、あいつは。強いから、人に頼るって事を知らない。いつも張りつめていて、リラックスする事もないような奴だからな。あ、でも、猫を抱いてるときの顔、あれは良かったな」

「猫といえば、アンジェが飼いたいと騒いでいますが」

「ウサギじゃなかったか?」

「ウサギも欲しいと言ってましたわね」

「う~ん、どうするかなぁ。あれこれ飼ってもなぁ。あ、そうだ」

「なにかいいお考えが?」

「ああ、いい事を思いついた。あのな……」


 機嫌良く、デューイはマリアンヌにその思いつきを披露した。


マリアンヌのものすごい情熱にデューイが押し切られるような形で交際が始まりました。

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