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猫に転生しましたが、思ったよりも大変です。  作者: カナリア55
第二章

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 あまり長く泳いでいては体が冷えるので、「そろそろ釣りをしよう」とリュカが提案し、ミッシェルは湖から出た。


「あんなにうまく泳げるようになっているとは思わなかった。去年は、全然進まなかったのに」

「ニックに教えてもらったんです!」


 リュカに褒められて、ニコニコのミッシェル。


「良かったですねぇ、ミッシェル様。頑張りましたものね」


 濡れた髪を拭き、服を着せてあげているキャシーを見ながら、スピカとリリーはひそひそ話す。


『あのネックレス……』

『ええ、間違いないわ。それに見て、キャシーの顔』

『キラキラ輝いて見えます、お姉さま』

『そう、幸せで輝いているわ。声もなんだか、いつもより高いし』

『ニックは……にやけてますね』

『ええ、ものすごくね』


 真剣な顔で釣竿の用意をしているが、すぐ口元が緩んでしまい、ハッとしてまた真面目な顔を作る、を繰り返している。


『悔しいわ、告白の場面を見逃すなんて。どうしてリリーは見ていなかったの!?』

『だってバッタが……。スピカお姉さまこそ、どうして見てなかったんですか!』

『だって食事の後はお昼寝って決めているから……』


 二匹が顔を突き合わせ、悔しそうに話しているところにチェイスがやってきた。


『どうしたの? なんかあった?』

『ううん、なんでもないよ』

『そう? あ、リリー、僕が泳ぐとこ見てくれてた?』

『ちゃんと見てたわよ。すごく上手になってた。リュカ様も見てたわよ。わたし水嫌いだから、溺れたら助けてね』

『任せといて! イエーイ!』


 喜び、走り出すチェイス。湖を一周するらしい。


『……水が苦手と言うわりに、最近はしょっちゅうミッシェル様の入浴の時に一緒に洗ってもらっているみたいね。乙女心かしら』

『ちょ、お姉さま! わたしは別に』

『はいはい。さてと、あちらは釣りを始めるようね』


 慌てるリリーの言葉を遮り、スピカが湖の方へ顔を向ける。

 着替えを済ませたミッシェルが、リュカと並んで湖に端に座り、四苦八苦しながらエサを針に付けようとしているところだ。


『ねえリリー、ちょっとキャシーのところに行ってみない?』


 キャシーは木の下で、お茶の準備をしている。


『そうですね、行きましょう、お姉さま』


 二匹はキャシーのところへ行き、両脇から座っているキャシーの膝に前足をかけた。


「あら、どうしたの? おやつが欲しくて来たの? えっ? えっ? なに?」

 二匹はギュウギュウとキャシーの膝に乗り、リリーにいたっては、ネックレスに顔を近づけクンクンと匂いを嗅ぐ。


「あ、やだ、そっか、うっかり!」


 急いでネックレスを服の中に隠す。


「二人とも、秘密だよ?」

「キャン!」

「ニャーン!」


 返事をし、しかしもっと話を聞き出したいリリーはネックレスを隠した首元を、トトト、と肉球で叩く。


「ん? 気になるの? これはねー」


 一度言葉を切り、辺りを見回して誰も近くにいないことを確認してから、キャシーは小さい声で囁く。


「ニックにもらったんだよー」


 リリーとスピカの頭を撫で、『びっくりだと思わない~?』と言う。


「驚いちゃった。……好きだって言われたの。びっくりしちゃったけど、すごく嬉しくって……でもね、よく考えたら、ニックって男爵家の人なのよね」


 そして、大きなため息をつき、スピカを抱きあげて頭を撫でた。


「ニックって、あんなじゃない。貴族だなんて忘れちゃってたわよ。男爵家のご子息と、田舎の農家の娘なんて……ねえ。どう思う? スピカ姐さん」


 どこか悲しそうな笑顔で、キャシーはスピカを抱きしめた。


『……リリー、キャシーは何を言っているの? ニックから告白されたって事はわかったけど、それならどうしてこんな顔をしているの?』

『キャシーは、ニックとの身分差を気にしています、お姉さま』

『……そう……』


 表情の訳を聞き、スピカは慰めるようにキャシーの頬を舐めた。


『そんなの、気にしなくていいのよ。だって、ニックがあなたを好きだと言っているのだから。自信を持って。ねえ、キャシー』


「やっ、ちょっとスピカ、舐めすぎ舐めすぎ」

 

 スピカが舐め続けるので、キャシーが堪らず笑いだす。 


「はー、ありがと、スピカ。元気が出た。リリーもありがとねー」

 

  撫でられて気持ち良くなり、リリーは敷物の上でコロコロ転がり、そのうちうとうとし始めたが、


「あら? どうかした?」


 キャシーの声に目を開けてみると、スピカが厳しい顔で一点を見つめている。


『スピカお姉さま、なにか』

「ワンワンワンワン!」


 リリーの言葉が終わる前に、チェイスの声が響いた。

 スピカもキャシーの膝から降り、チェイスの方へ駆けていく。


『えっ? なになに?』


 訳が分からないまま、慌ててリリーも追いかける。


『どうかしたんですか? お姉さま!』

『誰か来たわ!』

『えっ? そうなんですか?』

『匂いと音。リリーは感じない?』

『すいません、全く』


 屋敷へと続く道の前に立ち、チェイスが吠えている。


『チェイス! 誰?』

『スピカおばちゃん! わかんない。知らない匂い。馬に乗ってるよ』

『すごい……わたしにはわからないわ』


 犬達の感覚の鋭さに驚きながら、リリーは釣りをしているリュカの所に走って行き、ニャーニャー鳴いた。


「リリー、どうかしたのか? 誰か来たのか?」

「ニャー!」

「見て参ります」


 護衛の一人が走って行き……間もなく戻って来た。


「旦那様、ご報告致します。近衛騎士団団長のデューイ・ディガル侯爵様がいらっしゃいました」

「団長が?」


 怪訝な表情でリュカが聞き返した所に、黒馬に跨った男性が姿を現した。

 慌ててリュカが駆け寄る。


「団長! どうされたんですか、いきなり」

「いやー、近くまで来たから寄ってみたんだ。屋敷に行ったら湖にいると聞いてな。呼び戻すから屋敷で待っていてくれと言われたんだが、こちらから出向いた方が良いと思って来た」

「良くないですよ、まったく……」

「すまんな、驚かせたか?」

 

 馬から降り、リュカの隣に立ったデューイ団長は、黒の短髪で、日に焼けていて、かなり大柄だった。


『リュカ様だって背は高いのに、それより頭一つ以上大きいじゃない。身体は倍くらいがっしりしてるし、さすが近衛騎士団長、見た目からして強そう。三十代半ばくらいなのかな? 団長さんって結構若いんだ。乗ってきた馬も大きくて怖い』


 リリーがビクビクしているところに、スピカとチェイスがやって来た。


『誰なの? あの方』

『近衛騎士団団長だそうです』

『まあ! リュカ様の上司じゃない!』

『えー、僕たち怒られる?』

『大丈夫よ。なんか、リュカ様の方が団長さんを叱ってるもの』

『そうなの?』


 三匹が見ている先では、リュカがデューイを見上げ、厳しい顔で話している。


「供も連れずに来たのですか? 全く、あなたという方は」

「俺を襲うような命知らず、この国にはいないだろう?」

「その過信は危険ですよ。で? 本当は何か用があって来たのでは?」

「んー? いや、なに、ちょっと気になる事があってな」

「なんですか?」

「んー、んー、いやー、なんというか……」


 言葉を濁し、頭を掻くデューイ。


「な・ん・で・す・か」


 重ねて強く尋ねられ、「詰め寄るなよ~」と目を逸らす。


「いや、ほら、最近お前、早く帰るようになったじゃないか。休みもしっかりとるようになったし」

「それがなにか? もっと働けと言うのならそうしますが?」

「いやいや、そうじゃない。ちゃんと休んでくれた方がいい。だが今まで、いくら言っても遅くまで残り、休日も出てきたりしていたお前が、急に休みを取るようになったから……」 

「なったから?」

「何か、あるのかと思って」

「何かというと?」

「……恋人ができたとか……ああっ、すまん、ちょっとした好奇心だ、気を悪くしないでくれ!」


 リュカの目ががスッと冷たくなるのを見て、デューイは慌てて謝る。


「そんな、くだらない事で……」

「だってだって、どうせお前の事だから、聞いても教えてくれないと思って……なあ、どうなんだ?」

「見た通り、恋人などできておりませんよ。まあ、思うところがあり、子供との時間を作るようにしただけです。ミッシェル、こちらにきて挨拶を」

「はいっ!」

 元気良く、ミッシェルはデューイ団長の前に立った。

「はじめまして! ミッシェル・べルナルド、6歳です! 団長さんは、ドラゴンを倒した事ありますか?」

「ドラゴンは倒した事ないなぁ。いたら勿論倒すが、今はいないから。でも、熊と狼なら倒した事があるぞ」

「すごい! かっこいいです!」

「団長は、エルドナ国一、強いお方だからな。」

「え? なんだよリュカ、そんな褒めるなんて」


 照れたように笑うデューイに、リュカは、「本当の事ですから」とさらりと言う。


「すごいっ! 僕も大きくなったら近衛騎士団に入りたいです! あのっ!」

 

 興奮したらしいミッシェルが、リリーをひょいと抱き上げた。


「猫、抱っこしますか?」

『……わたしを抱く事が、おもてなしにされてる……まあ、しかたない』 


 諦めおとなしくしていると、「お? おお、ありがとう」と、少し戸惑いながらもデューイはリリーを受け取った。


「おー、随分綺麗な猫だな。どれ?」 


 ふいに、持ち方を変えられる。


「メスか」


 一瞬の沈黙の後、


「フギャ――ッ!」


 後ろから股の間を覗かれている事に気づたリリーは、思わず悲鳴を上げた。


(うそうそうそうそ! やだっ! おしり見られてる! 恥ずかしすぎるっ!)


 と、次の瞬間、グイッと体を引っ張られ、気付くとリュカに抱かれていた。

 右腕にリリーを抱き、左手でデューイの胸ぐらを掴み、顔を近づけ睨むリュカ。


「……女性に対する、近衛騎士団団長の行動とは思えませんね」

「え? ええー? 女性って……猫……」

「リリーは繊細なんです。気を付けていただきたい」

「え、あ、うん、リリーって名前なんだ。えーと……すまん」


 戸惑いながら謝るデューイから手を離し、リュカは「わかっていただけて良かったです」と軽く頭を下げた。


「では、そろそろお帰りになられますか?」

「ええー、邪魔者扱いするな、寂しいだろうが。俺はまだ帰らないぞ! 釣りをしてたんだろう? 久しぶりに俺もやりたい。だが、まずは茶をもらいたいな。屋敷を出てから飲まず食わずだ。喉が渇いてしまって」

「……しょうがないですね」


 フーッと息を吐き、リュカはデューイを木の下の敷物の方へ促した。


「キャシー、お茶の用意を」

「は、はいっ!」


 あっけにとられていたキャシーが慌てて準備を始め、ミッシェルはデューイに熊と戦った時の話をねだり、リュカはリリーを抱きしめ頭を撫でながら「うちの団長が悪かった。根はいい人なのだが」と囁き、その様子と見てスピカはニヤニヤし、


『おやつ? おやつの時間? イエーイ!』


 と、チェイスはその場をグルグル走り回った。




  

デューイ様、悪気はまったくないんですけどね……。

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