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猫に転生しましたが、思ったよりも大変です。  作者: カナリア55
第二章

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22 湖へ

『……で、最近どうなの?』

『えっ?』


 何を尋ねられているのかわからず、リリーは隣りを歩いているスピカを見た。


『何がですか?』

『何がって、リュカ様との事に決まっているでしょう? 進展はあったのかしら?』

『あのぉ、スピカお姉さま? お姉さまは何か勘違いされているのでは? わたし、リュカ様の事は敬愛しておりますが、それはあくまでもご主人様としてで、特別な意味は無くてですね。前にも言いましたが、リュカ様のお部屋で眠っているのには訳が』

『人の姿になってしまうから、他の人にばれないように、でしょう?』

『そう! それですよ』

『だったら尚更、何か関係が発展したかしら、と思うのは当然でしょう』


 すました顔でそう言うスピカに、リリーは「うぅ~」と呻ってしまう。


 人間の姿になった翌日、リリーはすぐさまスピカにその事を話し、今後はリュカの所で寝るという事も報告した。

 スピカは頼りになる先輩だ。この危機を乗り越える為には、スピカの助けが絶対に必要だと思ったのだ。(ちなみにチェイスには秘密のままで、今のところ言う予定はない)

 そうして、リリーは意を決して告白したのだが、それを聞いたスピカの反応は『あらそう。解ったわ』と、あまりにもあっさりしたものだった。

『お姉さま、嘘だと思っていませんか? 本当なんです、信じて下さい!』

『あら嫌だ、わたしがリリーの言葉を信じないなんて事ないわ。ちゃんと信じています』


 そう言われ、一応安心したリリーだったが、『じゃあ、わたしをからかっているんじゃ?』と思ってしまう。


 今日は、リュカとミッシェルが湖に遊びに行く日。

 天気も良く、お出かけ日和となった。

 リュカとミッシェル、ニック、キャシー、護衛が二名、そしてスピカ、チェイス、リリーというメンバーで、湖に向かっているところだ。

 先頭になったり、最後尾に付いてみたり、とにかく走り回っているチェイスは放っておいて、リリーは年齢のせいでゆっくりとしか歩けないスピカの横を、歩調を合わせて歩いていたのだが、


『で、どうなの? リュカ様とは』


 重ねて尋ねられ、『もー、何にもないですよ』と答える。


『わたしは猫ですよ?』

『人の姿に変わるじゃない』

『そうですけど、夜の少しの時間だけですし……リュカ様にとってわたしは、飼い猫でしかないんです』

『そしてあなたは、それが寂しいのね?』

『そんなことないですよ!』


 むきになって否定するリリーを、スピカは無言で、しかし意味ありげに見つめるので、リリーはつい自ら話してしまう。


『そりゃあ……リュカ様は素敵ですよ。綺麗だし、優しいし、なんていうかこう……優雅、っていうんですか? 仕草とか綺麗で、お酒飲んでるところとか、思わず見とれちゃうというか……。でも常に冷静で、例えば、急に目の前に顔を出してみても、顔色一つ変えずに対応されちゃうんです。猫の時は優しくしてくれるんですけど、人の時はそうでもなくて……あ、でも、お菓子くれたりとか、眠っていると頭を撫でてくれたりとか優しいんですけど、なんていうか……』

『子供のように扱われている?』

『そう! それです、スピカお姉さま!』

『……なんやかんや言って、リュカ様に恋をしている目をしているわよ、あなた』

『そっ、んなこと!』


 絶句してしまったリリーを見て、スピカは楽しそうに笑った。


『そんな事、あるでしょう?』 

『で、でも、身分も全然違ってて……』

『いいじゃない、好きになるのは自由よ。そう……好きになる気持ちは、どうしようもないものなのよ』

『……スピカお姉さま?』


 スピカの表情が沈んでいるようで、リリーは心配になって顔を覗きこんだのだが、


『……疲れたわ、もう歩けない!』


 突如そう言い放ち、座り込んでしまった。


『あー、えっと、それじゃあ……』

『どうしたのー?』


 あちこち走り回っていたチェイスが、駆け寄って来た。


『スピカおばちゃん、疲れたの? 僕の背中に乗る?』

『嫌。あなたは乗り心地が悪いわ。揺れるし、跳んだり跳ねたりするし』

『え~ぇ』

『わたしがニックを呼んで来ます。少しお待ち下さいね、お姉さま』


 そう言うとリリーは、キャシーと並んで前を歩いているニックの元に走る。


「ニャーン」

「あら? どうしたのリリー?」


 キャシーが声を掛けてくれたが、今用があるのはニックの方だ。


『ニックの方が力持ちだからね』


 後ろ足で立ち上がり、膝のあたりに前足を掛ける。


「ん? なんだ? 抱っこか?」


 両脇を持たれ、抱き上げられそうになったが、


『わたしはいいの。そうじゃなくって!』


 ジタバタして地面に降り、ニャーニャー鳴く。


「違うのか? なんだ?」


 見られているうちに素早くスピカの元に戻り、ニャーと鳴く。


「ああ、スピカの方が抱っこか」

「疲れちゃったのね」


 無事、スピカはニックに抱き上げてもらえた。


『ふう。ありがとう、リリー』

『どういたしまして、お姉さま』

『じゃあ僕先に行ってるね!』


 元気に駆けて行くチェイスを見送り、リリーはスピカを抱いたニックの横を歩いた。


『……ニックも、そろそろ告白できるといいのだけれどねぇ』


 ふいに、スピカが言う。


『あー、キャシーにですよね? 無理なんじゃないですか? だって、だいぶ前から好きなくせに、全然告白しないじゃないですか』

『……それがねリリー、わたし見たのよ。ニックが宝石の付いたネックレスを持っているのを』

『えっ? 本当ですか!?』

『ええ、本当よ。時々胸元から取り出して眺めては、溜息をついてしまっているのよ』

『キャーッ! 知らなかった! 早く教えて下さいよ!!』

『ごめんなさい、忘れてたわ』


「……なんだか煩いな、スピカとリリー」


 自分の事を話題にされているとは思わず、ニックは呟く。


「お話しているのかなー? リリーも抱っこしてあげようか?」


『ありがとう! その方が話しやすいわ! お願いしまーす』


 キャシーを見て「ニャーン」と鳴き、リリーも抱き上げてもらった。

 そして『いつ告白できるかしらね』『もしかして今日ってことも!?』と、湖に着くまで二匹は大いに盛り上がったのだった。  



 湖に着くと、既に木の下に大きな敷物が敷かれ、食べ物や飲み物が準備されているところだった。


「料理長が来てくれたのか」

「はい。今日は食べやすいようにと思い、手で持って食べられる物を中心に用意してみました」

「そうか、楽しみだ」

「犬や猫の食事もちゃんと用意してますんで」

「それは助かる」


 リュカがそう言うと、料理長は嬉しそうに頭を下げ、遅れてやって来たリリーとスピカの頭を撫でてから屋敷に戻って行った。


「父上! 何をしますか? 泳ぎますか? 釣りをしますか? 昼食ですか?」

「そうだな……食事をしながら、何からするか考えようか」

「はいっ!」


 嬉しそうに返事をし、早速用意された料理を見るミッシェル。

 肉や野菜、卵がたっぷり挟まれたパンや、ミートパイ、サラダ、魚やイモのフライ、ゼリー寄せ、チーズ等が籠に綺麗に詰め込められていた。その他に、沢山の焼き菓子や果物もある。


「わー、おいしそうです!」

「ニャー」


 いつの間にかリリーがミッシェルの横に並んで、料理を覗き込んでいる。


「あらあら、リリーはダメよ~、あなたのもちゃんと用意してあるからね~」


 そう言ってキャシーはリリーを抱き上げようとしたが、


「そのままで大丈夫だ。リリーは料理が見たいだけだから」

「え? そ、うですか? はい」


 主人の言う事なので、キャシーは戸惑いながらもリリーを放した。


『リュカ様の言う通り、見るだけ見るだけ。わぉ、綺麗~、豪華~、おいしそう!』


 四方から眺めて満足すると、リリーは自分に用意された食事の方へ向かった。


『リリー遅いよ、もう僕食べたいよ。でもスピカおばちゃんが待てって言うんだ』

『ご主人様達もまだ食べていないでしょう? まったくチェイスは……』

『あ! ほら! みんな食べ始めたよ。僕らも食べよう! すごいよ今日は、特別だ! お肉も魚もある! おいしそう!』

『そうね、じゃあ、いただきましょうか』


 三匹は並んで食事をとり、食べ終わった後は思い思いに湖を楽しんだ。

 チェイスはミッシェルと一緒に泳ぎ、リリーは蝶や鳥を追いかけて、スピカはリュカ達とそれを見ていた。


「父上! 父上! 見てますか? 僕、早く泳げるようになったんです!」

『リュカ様見てますか? 僕こんなに泳げるんですよ! スピカおばちゃんも見てる? リリー! リリーどこー? 見てーっ!』

『……やっぱり男の子は同じね』


 バッタをチョイチョイ前足で突きながら、リリーは笑っていたが、


『ん? ニックとキャシーがいない?』


 キョロキョロ見回していると、籠を持ったニックとキャシーが、小道からひょいと姿を現した。


『あれ? あっちはミッシェル君が迷子になった……ああ、クロモモを採りに行ってたのかな? いっぱい採れたかな?』

 

 そう思い様子を見に向かったリリーだったが……二人を間近で見ると、すぐにクルリと方向を変え、物凄い勢いで一直線にスピカの元に走った。


『おね、お姉さま! 大変ですっ! キャシー、キャシーが、ネックレスをしているんですけど! スピカお姉さまが見た、ニックが持ってたっていうネックレスかどうか』

『すぐ確認しましょう!』


 リリーの言葉が終わるのを待たず、スピカはスクッと立ち上がり、見たことが無い速さで二人の元に走って行った。



スピカとリリーは、ニックとキャシーの恋の行方に興味津々。

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