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17 リリーと名乗る者の説明

リュカ視点

 これは、夢だ。

 最初、そう思った。

 私のベッドの中で、私の目の前に、裸の若い女が横たわっている。そして、苦しそうにうめき声を上げながらもがいている。

 見ると、首に紐が食い込んでいる。

 状況が理解できないが、このままでは死んでしまうと思い急いで外してやると、フーッと息をし、目を開けてキョロキョロし出した。

 私とも目が合った。しかし、少し恥ずかしそうにし、また目を閉じる。

 なんなんだ、この女は!

 枕の下に置いている剣を掴んだそのとき、女はまた目を開けた。そして、あろうことか私の方へにじり寄ってくる。


「っ!」


 思わず身を引くと、女は不思議そうに首を傾げた。

 なんだこの女? 裸で男のベッドに入っているこの状態で、私の反応の方がおかしいような顔をしている。


「誰だ……?」


 少し恐怖を覚えながらそう尋ねると、驚いたように目を見開き……なぜか後ろを振り返る。そして、なぜかまた私にくっついてこようとする。


「寄るな!」


 女の鼻先に剣を突き付けると、ようやく動きを止める。


「どこから入った。何者だ。正直に言え。人を呼ぶぞ。……もしかして、エヴァンのところから来たメイドか?」


 ひとつ、思い浮かんだ事があった。

 最近、弟のエヴァンが、自分のところのメイドを引き取ってほしいと頼んできた。

 美しい娘で、奥方がエヴァンとの仲を疑い、辛くあたっているからとか言っていた。しかし、本当に誤解かどうか怪しいものだ。

 だから面倒は御免だと断ったのに、私の留守中に勝手にやってきたらしい。

 侯爵家のエヴァンの紹介状を持ち、私の許可ももらってるからと言われてロイドも追い返せなかったらしい。

 まだ顔を見ていないので、もしやと思ったのだが、


「え? 誰それ……って、えっ?」


 女は初めて口を開き、そして、なにやら驚いたように自分の手や体を見だした。


「うそ、わたし……ひゃーっ!」


 悲鳴を上げて、ベッドから転がり落ちる。

 いきなりの態度の変わりように驚いていると、


「あ、ああっ、あのっ、わたし、そのっ……リュ、リュカ様、おねっ、お願いです、何か着るものを……」


 今更なにを言っているんだ。

 ここで脱いだであろう、自分の服を着ればいいだろう。いや、これは、私の気を逸らすための言葉だろう。裸になってベッドにもぐり込むような女が今更恥ずかしそうな振りをしたって、なんとも思わない。


「もう一度聞く、お前は何者だ?」


 目を逸らさず剣を突き付け尋ねると、ようやく観念したようだったが、


「わ、わたしは、リリーです」


 とんでもない事を言いだした。


「一年前からお世話になってる黒猫のリリーで、ああっ、本当です! 本当なんですっ!」


 本当の訳ないだろう。苦し紛れとはいえ、よくそんな嘘が言えたものだ。そう思ったのだが、


「本当にリリーです! いつもはミッシェル様のお部屋で寝てますが、今日はミッシェル様が、人形を壊した罪をわたしにきせようとしたから、リュカ様の所で寝る事にしたんです! キャシーに聞いてみて下さい!」


 それは確かに今日、ミッシェル専属メイドのキャシーから報告を受けた内容だった。


「奥様が大切にしてた人形だって、スピカお姉さまが言ってました!」


 スピカ……オリヴィアが実家から連れて来た犬だ。

 その後女は、料理長が撫でてくれるだの、ロイドが犬派だの、キャシーのブラッシングが丁寧だの、ニックはキャシーの事が好きだのと、一気にしゃべり始めた。

 なんなんだ? この感じ。

 確かにリリーなら、そういう事を知っていても不思議ではないが、しかし、そんな事あるはずが……、


「そうだ、リュカ様! リュカ様は皆の前ではわたしの事『猫』って言いますけど、誰もいないとこでは、ちゃんと名前で呼んでくれますよね。というか『リーちゃん』とか『リリたん』って呼びますよね!」

「えっ?」


 それは、誰も知らないはずの事。


「リリたんの毛は世界一美しい黒だ、ビロードみたいな手触りだ、って褒めてくれますよね」


 確かに、リリーにだけは言っているけれど。


 続けて女は、握った手を前に出し、指の根本付近を撫でながら言う。


「リュカ様は手の先を撫でるの好きですよね! 他の人は肉球をプニプニするのが好きなんで、変わってるなーって思ってて」


 確かに、その部分の毛のツヤツヤした手触りが好きだけれど。


「あと、頭とか首とか背中とか、いろんな所の匂い嗅ぎますけど、匂い、違いますか?」


 匂いは一緒だけど、毛の感触が違うから……。


「実はお腹に顔を埋められて匂い嗅がれるのって、ちょっと恥ずかしいなって思ってて。できればお腹は」


「わ、解かったからちょっと待て!」


 思わず、目の前のこの若い女の腹に顔を埋めている自分を想像してしまい、慌てて言葉を遮った。


「……これを羽織れ」


 ガウンを渡すとピョンと飛びついてきて、嬉しそうに着る姿が、紐にじゃれつくリリーと重なる。

 そういえば、と、首からとってやった紐をよく見ると、リリーが付けているリボンと同じに見える。

 しかし、そんなわけが……。


「……さて、じゃあ改めて、納得できるように説明してもらおうか」

「は、はい、かしこまりました!」


 ベッドで話すのはどうかと思い、ソファーの方へ移動しながら、長い夜になりそうだと思うとため息が出てしまった。




明日も仕事なのに……。

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