Interrupt(1)
深夜のナースステーション。当直の二人の看護師は一仕事終えて、休憩がてら雑談に興じていた。
「ねえ、まゆ、聞いてくれる?」
「なにあんた、また男に振られたはなし? どうせ手術現場の話でもしたんでしょ」
「もうそれはしないわよ。ちゃんと付き合ってるってば。いまのところ完璧ね」
「さあ、どこまでもつか。あんたの浪費癖を直さないと結婚は無理よ」
「結婚? そんなこと今は考えてないもん」
「千鶴はアラサーを甘く見過ぎ。余程の美人でもなけりゃ、チヤホヤされるのは二十代がせいぜいよ。今ので決めとかないと危ないわよ。何歳になった?」
「二十八。私は童顔だからまだまだ大丈夫だよ」
「童顔ねぇ……まあ、確かにそうだけど、急に来るのよ。三十過ぎると」
「何が来るの?」
「シワ、よ。笑うと特にヤバいわ、目尻のあたり」
「なにそれ怖い……いや、違うって。私が話しかったのはそうじゃなくて」
「そうじゃなくて?」
「最近遊んでたスマホゲームが突然、サービスを停止したのよ! エヴリプレイって知ってるでしょ」
「はあ? まあ一応知ってるけど」
「何でもできる面白いゲームだったのに。ショックだよ。私、そこでモテモテだったのよ」
「あんたの彼氏ってまさか、そのゲームの中にいるんじゃないわよね」
「馬鹿言わないでよ。そんなわけないじゃん。私はそんなサイコじゃないよ」
「じゃあスマホゲームごときでそんな深刻な顔しないでよ、くだらない」
その時、巡回から一人の看護師が帰って来て、二人の横に座った。
「ねえ、まゆ、聞いてくれる?」
「なあに、あんたもスマホゲームの話?」
「なにそれ。違うわよ。もっと凄い話よ。古い映画だけど、まるで『レナードの朝』よ」
「んん、確かパーキンソン病の患者が意識を取り戻す映画でしょ?」
「そうそう、よく知ってるね。さすがまゆ」
「映画のことなら任せて。で、それがどうしたの」
「実はね、あの有名な『ロクゴーのルカ』さんが、昨日、一瞬意識を取り戻したらしいのよ」
「ええっ! もう半年以上も意識不明のままじゃないの」
「そうなんだけど、実際に立ち会った先生に聞いてみたら、一瞬だけ目を開けて、しかも、一言しゃべったんだって。そしてまた、意識が無くなったって」
「こわーい。それってけっこうホラー」
「そうなの、そして、その時言った言葉が『ミツ』だったらしいわ」
「なにそれ。意味わかんない」
「でしょ。これはミステリーよ」
「そんな事よりエヴリプレイもう一回遊べないかなぁ」
「その話はもういいわよ」
その時、ナースコールが鳴った。また、同室の病人のイビキがうるさいとかそんな事だろう。
「仕事よ、千鶴!」
「はあい」
二人は、立ち上がるとキビキビと病室に向かった。