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フェイクソウル ~Relight Ver.  作者: 木浦 耕助
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18 合理的な解決方法

 八月十五日は終戦記念日だ。正確には「戦没者を追悼し平和を祈念する日」というらしいが、日本では第二次世界大戦が終結した日とされ「終戦記念日」と通称されている。もちろん学は、戦争については直接何も知らなかったが、学校で習った限り、人間が行う「もっとも愚かな行為」の集合体に思えた。どちら側も自分達の正義を疑わなかった。それでも戦いは起こる。

 上枝秋人の運転で、木葉学、真聖菊、須理戸琉歌、幡田太平の五人はそのショッピングモールの駐車場に着いた。秋人は白い半袖シャツに簡素な黒いデニムのズボン、他のメンバーは制服姿だ。

 このショッピングモールは、かなり大型で何でも揃うため、秋人を除けばみんな何度も買い物に来ている場所だ。真聖津弓と萌夏の姉妹も黒いセダンで同行して待機していた。萌夏は特に役に立たないが、どうしてもついて行きたがったのだ。何かあったら、津弓も加勢するつもりだった。

「お姉ちゃんたち、気を付けてね」

 萌夏の不安そうな顔。白いシャツにシンプルな青いスカート。学は私服の萌夏がけっこう可愛いのでドキリとした。ショートカットが魅力的だ。

「さて、行くとしようか」

 秋人はそう言って車を降りた。お盆休み中の日曜日なので人が多い。それに暑い。このショッピングモールは緩くカーブした四階建ての建物で、四階と屋上は駐車場だ。シネコンなども併設されている巨大施設で、まるで小さな町のようだ。秋人が停めたのは、屋上の駐車場の端の方だった。

「本当に、だ、大丈夫かな学君?」

 幡田が不安そうに聞いてくる。もちろん、学も不安だ。

「お前のビビりがうつるから話しかけるな」

「あのな、お前って言うなと何度言えば……」

 菊と琉歌は無言だ。五人はエレベーターで一階に下り、一旦外に出て商品の搬入口に向かった。そこで、秋人は従業員に何か証明書のようなものを見せている。係員らしき人は、ダルそうに横の扉を指さした。

そこで五人は招かれ、その扉をくぐった。最初は普通の商品倉庫のようだったが、その奥にもう一枚目立たない扉があり、そこへ秋人は手を当てた。スッと開く。

「怖い……」

 琉歌が言うと、菊が答えた。

「奴らはもう下に来てるわ」

 長い階段を降りていくと、もう一つ、扉があった。秋人は躊躇いなくそれを開ける。

「行くよ」


「ようこそみなさん。今、十二時ちょうどになった。そういう態度、僕は好きだよ」

 宇月武が両手をわざとらしく広げて立っていた。片方の手には白い手袋が見える。その横にいるのは神父姿の髭面の品川ヤアンと、菊と琉歌を風呂場で襲った杉林香沙禰(すぎばやしかさね)、さらにその隣に左手に包帯を巻いた六防堅(むぼうたかし)、顔に目立つ傷があるグラサン姿のコヨーテ兄木もいる。全部で五名。

「ちゃんと指定通り揃えてくれたみたいだね。こちらも公平に五人だ」

「和平交渉じゃなかったのか」

 秋人が聞くと宇月は可笑しそうに笑った。

「もちろんそうだよ。まあ、心配ないって」

 秋人達は入ってきたドアを挟んで、約十メートルの距離を置いて対峙している。秋人と菊は無表情だが、他の三人は怖そうに相手を眺めている。

 コヨーテ兄木と六防は、そこからでも分かるくらい学を睨み付けている。香沙禰はうつむいたままで、品川ヤアンは全くの無表情だ。

「時間を取らせても悪いから、早速交渉と行こうじゃないか」

 宇月は不敵に笑った。

「先日、僕は管理官を殺した。つまり、もうあのルールは無効なんだよ。だから、我々が争う必要はないんだ。素晴らしいだろう」

 秋人は疑わしそうに顎に手を当てる。

「その証拠は?」

「仕方ないね。じゃあ、特別にご披露してあげよう」

 まず、秋人の右手が五本の触手に変化した。

「まずこれがヤアンの<五糸>の能力」

 そして、手袋のついた左手に口づけすると近くのコンクリートの柱に腕を振った。まるでバターでも切るように綺麗に手の形にコンクリートが切れた。

「これが船村の<貫通>。彼はもういないけどね。そして」

 秋人の目の前に一瞬にして宇月が移動した。

「最後が香沙禰の<速度>。そう、僕は三つの能力を入れ替えてコピーできる<多彩>なんだ。そして、管理官が無効化できる能力は、もちろん一つだけ。だって、二つ以上の能力を同時に持つ虚士はこの世界にはいなかったからね。僕は特別なんだよ」

「管理官はどうなった」

「綺麗に首が飛んだよ。実にあっけない。だから、何度も言うけど、僕たちはもうルールに縛られる必要がない。そこで合理的な解決法の提案だ」

 宇月はニヤリと笑った。

「僕たちと手を組んで、色々やろうよ。僕はコピー元が必要だからね、必要に応じて能力を切り替えたい。仲間は多い方がいいんだ。僕たちが集まればそう、お金だって、人間だって、政治だって、世界中、何でも思い通りさ。どうだい、素晴らしい提案だろう」

 秋人は宇月を睨み付ける。

「要するにそれはテロ集団ってことじゃないのか」

「はははは、僕もねぇ、たぶんそう言うんじゃないかと思ったよ」

 宇月はいきなり加速すると左手を秋人に突き出した。しかし、秋人は瞬時に消えた。

「<消滅>か。それが君の力だったね。でも無力だね。まずはこいつらを皆殺し……」

 その時、もの凄い音がしてドアが吹き飛んだ。そして、一人の小柄な男が入ってくる。

「ったく。面倒くせえったらねぇよ。宇月ってのはどいつだ。俺は管理官、紫谷(しぶや)だ。尾田の代わりに来てやったぜ」

 紫谷は、真っ黒な服に濃密な黒髪を肩まで垂らしている。黒くて鋭い目。口元には不敵な笑み。学は何だかネットの画像で見たホストみたいだと思った。

 そして、紫谷の後ろに若いOL風の無表情な女性がいる。

「あの今<五糸>と<貫通>を使っているのが宇月です」

 女性は渋谷に耳打ちする。

「ヤロウ! いきなり俺たちのパーティに乱入しやがって!」

 コヨーテ兄木が、灰色の塊を作りながら紫谷に突進した。その途端、兄木の前で爆発が起こり、兄木は二十メートルも吹き飛んで壁に激突し、気を失う。

「俺は面倒なのが大嫌いだ。さっさと済ませて帰る」

 紫谷は、あっけにとられている宇月を向いて言った。

(みんな、この隙に逃げろ!)

 どこからともなく、秋人の声がする。学、菊、琉歌、幡田は言われるまでもなくドアの吹き飛んだ階段を目指してダッシュした。

「こいつは僕がやるから、お前らはあのザコどもを始末しろ!」

 少し遅れて宇月は叫んだ。品川ヤアン、六防、香沙禰もドアへ向かう。

 OL風の女性が機械的に紫谷に尋ねる。

「他の方はよろしいのですか?」

「俺が聞いてるターゲットはとりあえず宇月だけだ。あとは知らねぇ」

 その場所には宇月と紫谷、そして小柄な女性だけになった。女性はさっと、柱の陰に隠れる。

「尾田の二の舞にしてやる」

「うるせぇ!」

 宇月のいた場所が爆発する。加速した宇月は渋谷の胸に左手を渋谷に突き刺した。しかし、手ごたえがない。

「<貫通>が効かないだと!?」

「俺が何の準備もせずに来ると思うか」

 しかし、宇月は瞬間的に理解した。右手の触手は生きている。加速も可能だ。つまり、紫谷は特定の能力だけを無効化しているのだ。管理官を縛るルールは生きている。

 宇月は右手の触手で紫谷を叩きつけた。触手が力を無くし、紫谷には効かない。爆発が起こる。宇月は危うく交わして距離を取る。

「効かねぇよ」

(無効化する対象の能力を切り替えてるのか?)

 紫谷の爆発は、宇月の瞬間的な加速で交わせるが、能力には「使用限界」がある。疲れる様子を見せない紫谷を見ると、力比べでは不利だ。それに加速を無効化されると爆発が防ぎきれない。

(<貫通>さえ使えれば)

 宇月は考え、すぐに一つの答えを見つけ出した。


 搬入口を飛び出した四人は、とりあえず、顔を見合わせた。

「どうする?」

「とにかく一緒に逃げたら危ない。私たちには攻撃手段がない。一網打尽にされるわ」

 菊は、ハアハアと息を吐いている。

「それに駐車場ではいい標的になるだけよ。中に入りましょう。そして、できれば屋上に行って津弓姉の車で逃げるのよ」

「他の人に迷惑かからない?」

「そんな甘いことを言ってたら、本当に死ぬわよ。後ろから三人来てる。行くわよ!」

 菊の掛け声で、ショッピングモールに四人は駆け込んだ。二重の自動ドアが開くのももどかしい。

「とにかく私は真っすぐ、琉歌はそのエスカレーターで二階へ。木葉君と太平は適当に散って。隙を見て屋上へ!」

 菊の素早い指示で、四人は分けが分からないまま駆け出した。学は琉歌について行きたかったが、今は分散作戦の方が得策だろう。

 真昼のショッピングモールは平和な喧騒に満ちていた。

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