Interrupt (3)
「ここに来れば必ず現れると思いましたよ、管理官さん」
そこはあのガランとしただだっ広い空間だった。陰気な地下駐車場を思わせる空間。ショッピングモールの地下だ。
「それとも尾田さんと呼んだ方がいいですか? もしくは神様がいいですか?」
「俺は神ではない。管理官だ。尾田で結構」
「それはそれは謙虚なことで」
尾田は眼鏡を掛けた地味な格好をしていた。細面の顔に地味なメガネ。前髪が眉毛を隠すほど伸びている。着ているのはグレーの地味なスーツだ。
「さて、尾田さんの考えは大体わかってますが、聞かせてもらえます?」
「……この前、私は<注意>と言った。しかし、調査の結果、君のやっている行為は<警告>二回に当たると判断した。つまり<消去>だ」
「そうかあ、やっぱり怒らせちゃいました?」
「我々は怒ったりはしない。ただ、仕事をするだけだ」
「そういうことなら、さっさと済ませましょう」
宇月の右手が茶色い五つの触手に瞬時に変化した。そして、そのまま尾田に向かって伸びていく。
「無駄だと言っただろう」
宇月の触手は、急に力を失い、だらりと地面に落ちて、動かなくなった。
「良かった。尾田さんが意外に単純な人で」
「なに?」
次の瞬間、左手の白い手袋に口づけした宇田は、超高速で移動し、その左手で尾田の首を水平に薙ぎ払った。
首はたっぷり十メートルは飛んで、それから、体の部分がどさりと倒れる音がした。
「ははは、はははは。管理官? 管理官?」
宇月は笑っていた。
「こんなに簡単ならもっと早くやっとけばよかった。まあ<貫通>が無ければ、無理だったけどね。これで僕は自由に何でもできる」
尾田の死と共に宇月の右手も元に戻る。さらに人間の手に戻す。
「六防は大丈夫だと思うけど、たぶん、あのアホの二人は失敗したろうな。秋人にも会いたいし、やはり面倒だが予定通り行ってみるか」
宇月は軽く口笛を吹きながらドアを開け、地下室を出た。勝手に蛍光灯も消える。
それからどれくらい時間が経っただろうか。非常灯の明かりだけの暗闇に、小さな人影が現れて、尾田の首を拾い上げた。
「D8がやられるとは」
人影は、尾田の生命を無くした首を暗闇で撫でた。
「良くできる男だった。いま、手が空いてるのはK6だけか」
人影はポツリと言う。
「油断があった。まあ、何とかしよう」
しばらく人影は突っ立っていたが、やがて、尾田の死体とともに、いつの間にかいなくなった。