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フェイクソウル ~Relight Ver.  作者: 木浦 耕助
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15 アホ&バカ

 そうして一つ目のリフトを降り、いざ頂上へ続く二人乗りリフトに乗ろうとすると、幡田が急にお腹が痛いと言い出した。学は当然見捨てて行こうとしたが「上枝秋人から、二人一組で行動するように」と言われているらしく、結果、学は幡田をトイレの前で待つという最悪の状況に陥った。当初のプランでは、菊に代わってもらって琉歌と二人でリフトに乗るつもりだったのだ。

(どこまでも俺に祟るやつだな)

 学は心底うんざりした。そこへ、笑顔の幡田が戻ってくる。

「突然、自然に呼ばれてね。さあ、行こうか学君」

「別々に乗らないか?」

「それは名案だが、菊から二人で乗れと厳重注意を受けている。逆らうのは賢明とは言えない」

 二人は少しにらみ合ったが、結局、諦めた。頂上までのリフトは、乗っている時間が十一分程度と案内板に書いてある。その程度なら我慢できないこともない。

 係員に腕輪になったチケットを見せ、二人は同じリフトに乗り込んだ。リフトから下を見ると結構な高度がある。

「しかし、あの先生は何を調べてるんだろうなぁ」学が呟くと、幡田があざ笑った。

「さあ、偉い先生の考えることはアホには分からないだろうね」

「と、いうことはお前もか」

 幡田が肘で学をつついた。学もやり返す。そんな二人は、三つ遅れたリフトに乗ってきた男女に気が付かなかった。


「ちゃんと俺の言うことを聞けよ、!音夢ねむ

「うん! 分かってるよ、楽人(らくと)くん」

「バカッ近づくな。暑いだろ」

「ねぇねぇ楽人君、私たちぜったい恋人同士に見えるよね?」

「ハムレットさえ知らない人間と恋仲になる気は全くない」

「何それ? なんかのスイーツ?」

「近づくなって言ってるだろ!」

 楽人は眉間に手を添えて、低くうなった。楽人は地味な青いシャツにズボン、音夢はいつものツインテールに、暑いのに手製のフリル付きのピンクのドレスを着ている。ほとんどアイドルアニメのコスプレだ。

「とにかく仕事だ。まずは出して見ろ」

「りょうかいだよ!」

 そう言った音夢は両手を合わせて開くと、目を閉じて息を吸い込んだ。すると、手のひらの上に、テニスボール位の赤い塊が浮かび上がった。

「あちっ、俺にそれを近づけるなよ。お前は大丈夫かも知れないが、触れたら大やけどだ。お前のノーコンぶりは致命的なんだからな」

「分かってるよ。ちゃんといつもよりいっぱい注意してるんだから。で、どうするの?」

「前にもやったろ! 俺がお前の頭に手を当てると、正確なそれの投擲(とうてき)場所のイメージが浮かぶ。そこへそいつを投げつけろ。あとは俺が調整する」

「とうてきって?」

「投げることだ!」

 そう言って、楽人は音夢の頭に手を置いた。

「わあっ、見えるよ。あそこにこの鬼火くんを飛ばしたらいいのね」

「俺の<コントロール>は完璧だからな。ノーコンのお前でも絶対外さない」

「こうやってると、なんだかいい子いい子されてるみたい」

「余計なことは言わずに慎重にやれ! 一発で決まるはずだ」

「よーしまかせて!」

 そうして音夢は両手を突き出した。


 突然リフトの横で何かが爆発したので、学と幡田は危うく落ちそうになった。二人乗りのリフトが左右に揺れる。

「な、何が起こった?」

「まさか、また襲撃か?」

 後ろのリフトから、派手に争う声が聞こえた。

「なんか変なのがいるぞ」

「学君、何とかしたまえ」

「この状況でできるか!」

 こちらのリフトも口げんかが始まった。

 もちろん下のリフトでも怒声が飛び交っていた。

「このバカッ! お前いま、一瞬別の事考えただろ! 俺には分かるんだぞ!」

「えーん、暑いからちょっとアイスが食べたいなって」

「死ね本物のアホ! お前の脳みそはそのデカい胸のなかに全部吸い取られたんだろう! 仕事に集中しろよロクデナシ!」

「ぐすん、そんなに怒らないで楽人君。今度はちゃんとやるから」

 学と幡田はそんな二人を振り返って素早く会話を交わした。

「狙われてるようだな」

「間違いないな」

「飛び降りるか?」

「この高度で?」

 下はちょうど谷になっていて、落ちたらただで済まなそうだ。

「じゃあ学君、君が空中を飛んでやっつけてこい」

「僕の力はあれ以来、一度もまともに使えてない」

「ジーザス! いったいどうすればいいんだ南無三!」

「それは何教なんだよ。それより、お前こそ何か仕掛けろよ。こないだのくしゃみみたいなやつを」

「しかたない、俺の能力を見よ!」

 大げさなモーションで両手を広げる幡田が、唸る。

「うはぁっ!」

 幡田は、何かやったようだが変化は何も起きない。実は、楽人の髪の毛に白髪が数本混じったのだが、誰も気づいてない。

「くっ、やるだけのことはやったがダメだ」

「この小ネタ集の役立たず!」

 それだけで疲れ切っている幡田を見て、学も希望を捨てた。

 爆発はいきなり来た。

 下のリフトを見ていた幡田の左胸に正確に灼熱のボールが命中した。

「あちぃ!」

 それは六インチ大のスマホを粉々にし、さらに胸に軽い火傷ができた。

「お、俺のスマホがぁ」

「大事なのはそこじゃないだろ!」

 下を見ると、また、二人が騒いでるのが見えた。

「えーん、ちゃんと心臓に当たったのに落ちないよ~」

「手を抜いたなドアホ女! 火球が小さすぎる! だから、スマホか何かに当たって効かなかったんだ! もっとデカいのを出せバカ!」

「それ、疲れるからヤダもーん。あとで目にクマもできちゃうし」

「おまえ、本気で俺を怒らせる気か? もう二度と許さないからな!」

「わ、わかったよぉ楽人くん、そんなに怒らないで、ちゃんとやるから」

 音夢が手を広げると、それはテニスボール大からメロン大にまで膨らんでいく。近くにいる楽人も熱さで思わずのけぞる。

「次が最後のチャンスだ、集中しろよ!」

「う、うん!」

 赤い光球が膨らんでいくのが、学からも見えた。視線を戻すと、幡田がちょうど高い木に差し掛かった瞬間、そこへ飛び乗っていくのが見えた。逃げ足の素早さは感動的だ。

「どうしろって言うんだよ」

 逃げ場はない。かといって、空を飛べる保証もない。それに賭けるしかないが、逃げ切れる可能性は低い。

(だから、応用をきかせと言うのだ)

 また、塾の酒井先生の声が聞こえた。そこで、学は閃いた。

 学は慌てて、ズボンのベルトを外した。

 

「一人落ちたよ、楽人くん」

「チッ、逃げられたんだ。まあいい。一人ずつ始末する」

「もうこれ以上は無理だよ」

 火球は大型のスイカ大にまで膨らんでいる。熱さも相当なものだ、楽人もこれ以上は限界だと思った。音夢の頭に手を置くと、鋭く言った。

「撃てっ!」

「はあい」

 大きな火球が一直線に学のリフトに飛んでいく。


 学はベルトを外すと、思い切って飛び上がった。

 ちゃんと、空中に止まる。

(頼む、二歩でいいんだ)

 一歩、二歩、そして、リフトをつないだワイヤーに手が届いた。そこへベルトを掛けた瞬間、下のリフトが爆発した。

 学はその勢いもあってすごい速さで下に滑り落ちていく。その次の二つのリフトの接続部をやり過ごすときは、一瞬、ベルトから手を放す必要があったが、必死になった学の力は無意識に発動し、一瞬空中に浮いてそれをやり通す。ベルトの左右どちらかを離し、荷重をかけない様にして逆U字型のままケーブルに再び引っかかる。

 そして、その勢いのまま、下のリフトの上の羽生楽人の顔面を思いっきり蹴りつけた。勢いの止まらない学は、半ば回転しながら一つ下のリフトに当たって運よくそこに落ちた。

「ら、楽人くぅん!」 

 楽人は気を失って、リフトから墜落した。けっこう高い所だが、死にはしないだろう。ただ、すぐに戦線に復帰してくる心配はなさそうだ。

「わ、た、し、の楽人君を~」

 音夢は怒りの余り低い声で学を睨み付けて、両手を思い切り合わせた。

「ゆるさないんだからねっ!」

 音夢の怒りは頂点に達した。その瞬間、音夢はオーバーロードし、鬼火ができる前に自分自身が爆発した。それは凄まじい威力でリフトはバラバラに飛び散った。音夢自身もせっかくの耐熱ドレスが熱で弾けて、火に包まれながら落ちていくのが見えた。

「良く分からんが、た、助かった」

 それ以外、今の学に感想はなかった。相手がもう少し賢ければ、絶対にやられていたはずだ。

 ほどなく頂上に着いた。そのすぐあと、リフトが停止するというアナウンスが聞こえた。


 山頂はちょっとした、広場になっていた。

 そして、そこに菊と琉歌の二人が倒れているのが見えた。二人とも足と腕をガムテープで縛られて気を失っている。口にもガムテープが張られている。そして、暑いのにセーターと長ズボンを着た男が、琉歌の服を脱がそうとしていた。琉歌のインナーが見える。学は思わず叫んだ。

「何をしているんだっ!」

 男は顔を上げると、目をしばたいた。

「なんだ、いい音がしたから彼らはやったと思ったんだが、やっぱり駄目だったか。相性の問題は大切だねぇ」

 男は立ち上がると、拳銃のようなものを突き出した。

「私は六防(むぼう)だよ、木葉君。この銃はエアガンだが、出力を上げると本物の銃より威力がある特別性なんだ。鉄だって貫通するよ。そして私はね<空気圧縮>ができるんだよ」

「どうするつもりだ!」

「簡単簡単。まず君を撃ち殺す。そして、この二人の少女を十分に楽しんだら同じく撃ち殺す。そんなに時間はかからないよ。恥ずかしながら早くてね」

 六防の目は、陰湿に見開かれ、その唇からは涎がこぼれそうだった。

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