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第6話・アラクネの決意

 アラクネの衝撃の言葉に俺は戦慄していた。侵入者がいて、23階層にまで来ているだと。


「い、いっ、一体、な、何が」


「私直轄の部下の情報よると、侵入者はどうやら高位の冒険者のようです。このダンジョンはダンジョンマスターを失い、500年近く活動していませんでした。魔物は寿命がなく、ダンジョンから生み出された魔物は食事は必要ありません。しかし、指揮系統たるダンジョンマスターを失って久しく、統率のとれていない魔物たちでは対応できていません」


「そ、それって、23階層までの魔物は全部やられたってことなのか?」


「いえ、力のある魔物は知能も高く、状況の不利を悟り身を潜めているようです。」


 良かった、とりあえず23階層まですべての魔物を倒すほど極端に強いわけではないようだ。俺が何とか状況を把握しようとしていると、アラクネが上目遣いで見つめてきた。


「どうか助けていただけませんか」


「お、俺に?」


 俺なんかが助けになるのか。いってもすぐ殺されるだけなんじゃないのか。


「お前が自分で殺せばいいじゃないか。俺よりずっと強いんだろ」


「いえ、私は相手1人を殺すことに特化しています。相手が複数となればまず私に勝ち目はありません。」


「それなら、ダンジョンにいる強力な魔物に助けてもらえば良いんじゃないのか?」


「いえ、魔物たちにとってここは所詮、一時的な住居にすぎません。弱い魔物は力の差を理解できないので本能に任せ襲い掛かります。しかし、強い魔物は身を挺してまで戦おうとする者はいません。たとえ住居を追われても木々さえあれば大概どこにでも住めるからです。本来、ダンジョンの魔物が侵入者と戦うのはダンジョンマスターがいるからなのです」


「お前は自分が生きたいから、ダンジョンを守って欲しいのか?」


「私は自分が生きたいわけではないのです。もし、お力を貸してくださるのなら命を賭して戦いましょう。私が守りたいのはダンジョンそのものなのです。私はこのダンジョンで生まれ、このダンジョンで育ちました。先代のダンジョンマスターとの思い出もございます。彼は道を間違え、この状況を引き起こした張本人でもあります。しかし、せめて彼がいた証くらいは残したいのです。どうかお願いします」


「この状況を引き起こした?それはどういうことだ」


「なぜこのような状況に陥っているのかは、後ほどきちんとご説明いたします。その時にお怒りになられ、私を殺すならばそれでもかまいません。それでも、今はこのダンジョンを救っていただきますようお願い致します。」


 アラクネは神に祈るように俺に懇願した。スキルの変化によって人になったアラクネは、まるで清廉な信教徒のように見える。その宝石のように赤い目からは涙が流れ、頬をつたっていた。


 間近で見る女の涙に俺はひどくうろたえた。裸のせいで直視できないので俺の着ていた上着を脱ぎアラクネに羽織らせた。俺はアラクネに寄り添いはしたが、そこからどうやって慰めればいいのか分からず呆然としていた。


 短絡的だがどうにかアラクネの力になってやりたかった。しかし、俺はただの一般人で、武術を習っていたわけではない。


 相手が冒険者だということは()()()()()()に長けているはずだ。俺がそんな奴らを相手にできることがあるのだろうか。


 いや、待て。そうだ今の俺は蟲王でありダンジョンマスター、何かできることがあるはずだ。


「俺は何をすれば良い?」


 アラクネはその声に反応してバッと顔を上げた。


「た、助けて、い、いただけるの、ですか」


「ああ、だから俺は何をすればお前を助けられるんだ?」


「ありがとうございます。ありがとうございます。ありがとうございます。」


 アラクネは涙ぐんだ声で何度もお礼を言った。


「お礼はすべて終わった後にしておけ、今は俺にできることを教えてくれ」


「も、申し訳ありません。取り乱してしまいました。蟲王様ができることですね。蟲王様のダンジョンマスターの力を使うことをお勧めいたします。」


 ダンジョンマスターの力か…。何となくだが直感的に何をすればいいかが分かる。俺は手の平の上にあるダンジョンコアを握りしめた。


「お前の力、見せてもらうぞ」


 俺は目を瞑り、ダンジョンコアに意識を向ける。初めは何も起きなかったが、少しずつ変化が現れた。


 自分が知覚できる範囲が広がっていくのだ。ゆっくりと、しかし確実に広がっていく。自分自身がこのダンジョンと一体化していくのを感じる。やがて知覚できる範囲はドーム全体を覆うまでになった。


 それでもまだ止まらない。より速度を増して、その範囲は広がっていく。あの大きな森もその上にあるまだ見ぬ階層も、その全てを包み込んでいく。


 1分も経たぬうちに、ダンジョン全体を自分の身体の一部のように知覚できるようになっていた。そのときはすでにダンジョンコアは俺と一体となり、手のひらにはなかった。


 ダンジョンの魔物は、感知に反応はするが不快な感じはしない。しかし、ダンジョンから生まれていないものは、まるで身体に異物が入り込んだように不快な気分になる。


 上層にいくつか異物の反応がするが、どれも小さな反応のものばかりだ。おそらく、ダンジョンが活動していなかった間に、住み着いた動物や野良の魔物だろう。


 下層にも似た反応が少しあったが、一際大きい反応が4つあった。その4つの反応は集まって移動しているようだ。


「これだ」


 居場所は24階層、アラクネの情報では23階層だったはずだが、それまでの間に突破したのだろう。


 人の住居にズカズカと入り込み、その住居に住むものを殺した。それだけでも大罪だが、何よりアラクネにあんな顔をさせた元凶だ。


「冒険者だかなんだか知らないが、生きて帰れると思うなよ」


 怒りのあまりに掴んだ玉座の脇息がミシリと音を立てた。


最新話の終わりから感想、評価をつけることができます。


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